綱引きの決勝

「うわ、出たよ三年Eクラス」

「なんか今年の三年生ってほとんどがやる気ないのに、あの子たちだけ行進で入場なんかしちゃって、癇に障るわよね」

「さっさと負けてくんないかなEクラス」

「凛華様!あんな歳が二つ上ってことだけが唯一の誇れるポイントな奴らをコテンパンにしちゃってください」


うわ、さんざんな言われようやん。

保護者に癇に障るとか言われちゃったし。


「...清人君、ちょっとあのゴミ...カタツムリちゃんたち、黙らせてもいいかな」


今絶対ゴミどもって言おうとしましたよね!?

しかも慌てて訂正したカタツムリちゃんたちっていう表現もいろいろとアウトな気もするし。


「ま、まぁ桐乃さん落ち着いて、結果で見返せばそれでいいんですし」


俺は後ろで殺意を解放しようとする桐乃さんを必至に宥める。


そんな我がクラスに対するブーイングがいたるところから聞こえる中でも、正面にいるAクラスは何も反応を示さない。

特に凛華は...あれ、なんだかもの凄くこっちを見つめてね?

特に俺の方を。


別に怒っているというわけではなくて...いや、あれは必死に怒りを隠そうとしているように見える...

俺、何かしたっけ?


「ねぇ清人君、凛華ちゃんはなんでさっきからきみの方ばかり見てくるのかな」


いや、俺に言われても。


「まさか凛華ちゃんとアイコンタクトとってる?」


ただ俺の視力が良いからここから出も凛華の表情が見れるのであって、さすがにこの距離じゃアイコンタクトなんてできない。


「確認したいからこっち向いてもらっていいかな」


「はいよっ!?」


桐乃さんの方を見た瞬間、両手で俺の顔を掴み、無理やり口付けをしてくる桐乃さん。

ただ、ちょうど口付けしている部分が桐乃さんの髪の毛で隠れているため、あからさまに周囲に晒しているわけではない。


「え?今後ろの二人なんか顔近づけなかった?」

「まさか口付け?なんて破廉恥な子たちなのかしら」

「いや、さすがに大繩が始まる前にキスするは意味わからないでしょ」

「それに、あんなドM顔な奴にあんな可愛い子がキスなんてするわけないしな」


これはバレてない...のか?

なんかいい感じにフォローが入って絶妙にバレていない気がする。

それとドM顔ってどういう顔やねん。


「それでは、よーい」


今日のオカズに使う効果音と共に、両クラス一斉に縄を持つ。


「......」


やっぱり最初は相手が力を入れてないのか、かなり縄を引っ張りやすい。


後ろに引っ張られているという感じがしないことから、おそらく桐乃さんはまだ力を出していない。

桐乃さんが力を出していない状態でこれとは...俺たちめっちゃ舐められてね?


だが、そんな状況も当所として崩れた。

先ほどと同様、縄が一切動かなくなる。


「くっ!」


前方にいるクラスメイト達が体ごと後ろに引くが、それでも全く動かない。


「「「「「「「「「「「「......」」」」」」」」」」」


皆が希望なまなざしで俺の後ろにいる桐乃さんを見つめる。

だが、桐乃さんは何もアクションを起こさず、縄は固まったまま動かない。


そしてそのまま、これまた先ほどと同様、Aクラス是認の足が一歩後ろに下がり、俺たちは前に倒れるぐらい引っ張られる。


「ちょっ!?」


そのまま休むことなく、どんどんAクラスの方向へと引っ張られていく。


グラウンドから


「いいぞーやれやれー」


と、歓声が聞こえ、完全にグラウンド全体がAクラスのモードとなる。


「ちょっと、もう無理!?」


前の方にいる赤沙汰がそう声に出すのも無理はない。

だってあいつの体は完全に引っ張られていて、もうジャージが砂でボロボロだ。

...ちょっとその奴隷みたいな恰好羨ましいな//


そしてとうとうEクラスの敗退も濃厚となり、審判もAクラスの方に赤旗を上げる準備をしようとしたときに


「「「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」」」


今度はAクラス連中の体勢が崩れた。


そう、俺の後ろにいる脳筋...じゃなくてパワー系筋肉...いや、筋肉いらないな。

パワー系で少し腹黒かもしれない女子、桐乃さんが力を入れて縄を引っ張ったのである。


「はい、残念でした。さっきまではわたしたちが手加減してただけだよ。ね?佳林ちゃん?」


ここでもう気絶しそうなぐらい力を入れている菊島さんに訊くの鬼畜すぎんだろ。


「じゃあもう飽きちゃったし、勝ちは譲ってもらうね」


その言葉を合図に、一気に縄はこちら側に引っ張られる。

みんなも桐乃さんの力に合わせて、赤くなっている腕に鞭を打って引っ張る。

俺の場合はペニスに鞭を


と、このまま俺たちの勝ち確かと思っていたら、境目がこちらに来るぐらいのところで縄が止まった。


「ん~?」


前方を見ると、凛華がただ一人勇敢に立ち上がり、縄をしっかりと握っていた。


...そんなにイケメンムーブされると我がクラスの男子は勃って、女子は濡れちゃうんですけど。


「全員、立て」


凛華がイケボでそう自分のクラスメイトに呼びかける。


「まだ勝負は終わっていない」


凛華の言葉に体を突き動かされたかのように、Aクラス全員がまた姿勢を整えて、縄を持ち直す。


「ふ~ん、しつこいね」


と、桐乃さんはめんどくさそうに縄を引っ張り続けようとする。

だが、そのテンポは先ほどまで明らかに悪くなっている。


「!?」


そして、凛華が一段と力を入れたかと思うと、縄がまた前へと引っ張られる。


「いい加減しつこいな。ちょっと本気だそ」


だが、それでもやはりこのパワー系には及ばない。

桐乃さんが言葉通りに本気を出したのか、一気に縄の反動が大きくなり、そのまま後ろに引っ張られる。

それでもそのまま縄を引っ張ってこちらの陣地に…とまでは行かない。

凛華が最後の力を振り絞って縄を掴んでいるのだから。


だが、時間は無情にも過ぎて行く。


「そこまで!」


制限時間を過ぎ、これより、境目がどちらのクラス側にあるのか真偽に入る。

だが、もう結果は審議するまでもなかった。


完全にEクラスの寄りにあったのだから。


「...勝者、Eクラス」


審判でさえも少し悔しそうに結果を伝え、当然グラウンドからはブーイングの嵐だ。

そして、それを煽るかのように


「やった~勝った~!」


わざとらしく子供の様に大はしゃぎする桐乃さん。

それにつられてクラス全体が何だか相手と観客を煽るかのようなムーブになって行く。


...こりゃ嫌われますわ。


Aクラスは悔しそうに退場していく。

中には泣いている生徒もいた。


凛華は全員が退場したというのにまだグラウンドに残り、こちらを見つめてくる。

その瞳には、あまり悔しさや怒りと言った感情は読み取れない。

ただ、何となく始まる前と同じで、俺に対して身震いをさせるような色をしていた。


...多分これ、帰ってからなにかあるな。

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