合同授業①

「清人君大丈夫?一時間ずっとトイレに籠ってたみたいだけど」


「き、桐乃さん...いや、全然大丈夫」


結局凛華の弁当は五時間目を抜け出し、トイレで食べた。

時間をかけて食べたが、普通に吐きそうだ。

しかもよりによって六時間目は体育。


「体育できそう?わたしが先生に言ってこようか?」


「そ、そうしてもらお」


と、そのとき、クラスメイトの声がした。


「いや~今日の体育って確か一年Aクラスと合同だっけ?」

「そうそう。確か一緒に持久走は知るんだったよな」

「持久走とかダルすぎだよな」

「でも確か一年Aクラスってめっちゃ美女率高くね?」

「それな、俺はあの剣道部の女の子がタイプ」


一年Aクラス...?

剣道部の女の子...?


「や、やっぱり俺体育参加するよ!」


「え...でも、無理しなくてもいいと思うよ...?」


「ほ、ほら、俺運動神経良くないから、参加ぐらいしないと成績も悪くなっちゃうし」


「清人君が大丈夫って言うならいいけど...しんどくなったらすぐにわたしに言ってね」


「う、うん。ありがとう桐乃さん」


危ない危ない。

一年Aクラスと言えば凛華のいるクラスじゃないか!


もし体育を見学なんてしているのを見られたらまた今日も無駄に長い説教を食らわせられることになる。

それに、見学した理由を訊かれたらなんて答えればいいんだ?

適当なこと言ってもすぐに見破られると思うし、かといって本当のことを言ったら....


「あ、そろそろ着替えなくちゃ。それじゃあまたグラウンドでね」


桐乃さんが女子更衣室へと向かう。

その後ろ姿を見ながらこの後の不吉な予感が頭をよぎった。


「えーじゃあ今日は前から予告していた通り、一年Aクラスと三年Eクラス合同での持久走をしてもらう」


この高校のグラウンドは、都会なだけあってそんなに大きくない。

だいたい陸上競技場の半分ほどだ。


「今日は男女合同で走ってもらう。まずは一年生が走り、その後に三年生だ。タイムを計るためにペアを作ってもらうが、必ず違う学年の者と組むように」


でました。

自動的にあぶり物が出るシステム。


多くの生徒は部活や委員会活動で他学年と交流しているため、ペアが作りやすいだろう。

たいして俺は一年生なんて全員顔も名前も知らない。

これはまた俺一人があぶり


「見つけたぞ清人」


...だされないようです。


「なぜ日陰に入って休んでいる?アップぐらいせんか」


相変わらずの厳しい目つきで日陰に入って座り込んでいる俺を見下ろす凛華。


「えーと、俺のペアは」


「当然私に決まってるだろう」


いや、まぁ兄妹なんだから一番組みやすいってのはあると思うけど、凛華レベルならクラスのはいぼk...男子たちがたくさん寄ってきそうだけど。


「ほら、さっさとアップするぞ」


「...はい」


凛華に強制的に日陰から出される。


ふと、桐乃さんの方を見てみる。

もう何人もの一年女子たちと楽しそうに会話しているな。

多くの男子も聞き耳を立てているのが仕草で分かる。


「おい、どこを見ている。今から走るぞ」


「あ、すまんすまん...て走るってどこを?」


「?そんなのこのグラウンド一周に決まっているだろ」


......


「...全力で?」


「当たり前だ」


凛華の言うアップは正確にはアップじゃないから困ったものだ。


「ーーーーー」


凛かは本当に全力でグラウンドを一周していく。


そのフォームも完璧に綺麗で、思わずグラウンドにいる生徒たちが見惚れる。

つまり、誰も凛華の後を小走りで走っている俺に気づかない。


さすがの凛華でも走っている途中に後ろを振り向いたりしないだろ。

ここは適当にショートカットして


「清人君!」


俺はショートカットしようとすると、遠くから桐乃さんの声が聞こえてきた。

声の下方を向いたときには、もう桐乃さんは俺のすぐ近くまで来ていた。


「大丈夫?さっきはあんなに吐きそうにしてたのにもうこんなに走って」


「え、ま、まぁ~別に力抜いてるしショートカットもするから大丈夫だよ」


若干吐き気はするが、そんなに深刻というわけでもない。


「...あれが清人君の妹さん?」


桐乃さんがもうすでに走り終えた凛華の方を見ている。


「ってやべ!?」


ここにいたらすぐに凛華にサボっていたことが気づかれてしまう。

幸い今は腰に手を当て呼吸を整いているから俺に気づいていないが、それもいつ終わるか分からない。


「ご、ごめん、もう戻らなくちゃ」


そう桐乃さんにわびを入れ、凛華の方へと走る。


走っている途中、後ろからとてつもない悪寒がしたが、気づかないふりをして凛華に駆け寄った。

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