やっぱり泣きます
十三階フロアの非常階段。誰も使わないこの階段の踊り場に座り冷たい壁に右半身を預ける。
今日も私はだめだった。
自分の要領の悪さに落ち込みながら、それでもなんとか頑張ろうと気持ちを落ち着かせる。
ーーギィ
非常階段のドアが開く音がした。
誰も来るはずがないと思っていたこの場所で気を緩めていた私はその音に肩が大きく跳ねる。
「泣いてるの?」
ああ。なんでいつも先輩はこんな時に限って私のところに来るのだろう。
「泣いてません」
「今から泣くんでしょ?」
「泣きませんよ。それよりどうしてここに来たんですか?」
「俺、ここ好きなんだよね」
そう言って私と同じように踊り場に座った。
この場所が好きだなんて嘘だ。前に屋上でも中庭でも資料室でも同じことを言っていた。
「じゃあここは先輩に譲りますので」
「なんで? 一緒にいようよ」
そう言って私の頭に優しく手を乗せる。そしてポンポンと指先だけを動かす。
ああ。私はその仕草にめっぽう弱いのだ。
「やっぱり泣きます」
「うん。泣きたい時は泣きなよ。でも一人ではだめだよ」
「はい」
先輩は一定のリズムで指先をポンポンと動かす。
「ちゃんと頑張ってることわかってるから」
「……はい」
本当はその言葉を期待していたのかもしれない。
先輩の優しい指とその言葉に安心した私は冷たい壁にもたれたまま目を閉じ、一粒だけ涙を落とした。
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