お義兄ちゃん

 今日は久しぶりにお義兄ちゃんが家に帰ってくる。

 

 お義兄ちゃんがお義兄ちゃんになった時からずっと好きだった。でも私の気持ちを伝えて困らせたくはない。

 私は恋とも愛とも言えるこの感情を胸の内に秘めたまま、たまに帰ってくるお義兄ちゃんを楽しみに日々の仕事を頑張っていた。


「ただいま」


「お帰りなさい」


 お義兄ちゃんは社会人になってどんどん垢抜けていく。


「お義兄ちゃん、彼女できた?」


 元々悪くない容姿をしているし、性格もいい。そんなお義兄ちゃんがモテないはずがないのに。


「できないよ。梨子は? 彼氏いないの?」


「いないよ。社会人になったばっかりでそんな余裕ないし」


「そっか。俺は早く梨子の花嫁姿を見たいけどな」


 その花嫁の相手はお義兄ちゃんが良いって言ったらどんな顔をするのだろう。そんなこと言えるわけないが。


「順番的にはお義兄ちゃんが先でしょ?」


「だったら俺は一生梨子の花嫁姿を見れないことになるな」


「なんで?」


「俺、結婚するつもりないし」


「え? なんでよ。もしかして男が好きだとか?」


「違うよ。好きな子はいる」


 お義兄ちゃんはそう言ってソファーに座っていた私の隣に腰を下ろした。

 心なしか少し近い気がする。決して肩が触れるような距離ではないけれど、この近くて触れない距離にいつもとは違う空気が漂う。


「でも、その子とは一緒にはなれないから」


 その子が私だなんて一言も言っていないのに、まるでお義兄ちゃんが私のことを好きなのではないかと錯覚させる。


 腰元に置かれたお義兄ちゃんの手の指先にそっと触れてみた。

 お義兄ちゃんは一瞬指をピクッとさせたが避けることはしない。私も何も言わずそのままお互いの指先の体温が溶けていくのをただ感じていた。

 

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