第6話 孤児院の少女たち

 お茶を飲んだ後、アリアはパーティの仲間に紹介するといって孤児院へと俺をいざなった。ただ――


「ちょっとだけ寄り道いいかな?」


「構わないよ?」


 答えを聞いたアリアは東へ向かい、市場へと。市場ではたくさんの食材の露店が並んでいた。


「食料品でも買うの?」


「んと……ちょっとお土産をね。孤児院へ寄るときはいつも買っていくんだ」


 アリアは街の子供たちが集まっている露店を覗き込む。


 何を売っているのかと鑑定してみると、子供向けのお菓子の様子。日持ちのする砂糖菓子や干した果物がほとんどだったが、アリアが包んでもらっていたのは安い甘草リコリス菓子だった。ただ、申し訳ないことに彼女の財布にまで鑑定がかかってしまい、あまり手持ちが多くないことまでわかってしまった。


 アリア本人は身ぎれいにはしているとは言え、服やブーツは年季が入っていたし、よく考えると冒険者とはいえ、若い女の子にしては質素な格好だったんだ。



 ◇◇◇◇◇



 孤児院は宿屋街よりもさらに西、建物がひしめき合う街の中で、広い庭とホールのある大きめの石造りの建物だったのでとても目立っていた。教会とかじゃなのかと思ったが、教えを説くような宗教でもないわけだし教会は要らないのか。


「大昔の聖女様が魔王との長い戦いの後、ここを作られたのよ」


 アリアはそう教えてくれ、孤児院の敷地へと入っていった。



 アリア様だ!――幼い子供たちが彼女を見つけて駆け寄ってくる。アリアも腰を落として挨拶をする。二十人近い子供たちがアリアを取り囲む。アリアはそれぞれの名を呼び、頭を撫でたり手を握ったりしていた。子供たちの様子から、アリアにとても懐いているのが見て取れた。


「下の子たちなの。上の子はもう三人だけ」


 途中の露店で買ったお土産の甘草菓子の包みを開けると、子供たちは、ぱあっと顔を輝かせた。お土産を受け取る子供たち。彼らの衣服は、汚れてこそいないし繕われたりもしていたが、洗濯を繰り返した生地はいくらか灰色掛かっていた。


 お土産を配り終え、立ち上がって彼女が目を向けた先には少女が三人。


 アリアの話では俺の2つか3つ下。三人ともダイエットしすぎの中高生みたいな印象なのが痛々しかった。真ん中に立つ長い金髪の少女がアリアよりも高いくらいの背丈で多少マシなくらい。あとの二人の服の裾から見え隠れする手首や足首は棒切れのようだった。


「みんな、薬草摘みを手伝ってくれる賢者様を連れてきたわ。ユーキよ」


「け、賢者様だなんて……鑑定しか使えないヌーブです。よ、よろしく」


 狼狽えてゲーマー用語なんて出してしまったが翻訳されているのだろうか。デュフフとか不器用な笑いを見せなかっただけマシだったかもしれないが、無表情に近い三人の顔色を見た限りでは、あまりいい印象を与えていないような気がする。


「左から、リメメルン、キリカデール、ルシャよ」


 アリアがニコニコと三人を紹介すると、一人目の子がおずおずと口を開く。


「……リーメで」

「キリカよ」

「……」


 三人目の子なんか目を伏せたままだった。


「ちょっと!」


 そう声を荒げたキリカと名乗った少女は、いくらかしかめっ面のまま、アリアの腕を取ると庭の方へと離れていった。


 残された三人…………無言が続く…………。


 リーメと名乗った少女は黒っぽいローブに黒っぽい三角帽子を深く被り、他所を向いておしりを掻きながら話しかけるなオーラを放っているし、ルシャと呼ばれた亜麻色の髪の少女は俯いたまま。こちらも目を合わせようとしない。コミュニケーション難度高すぎる……。


 俺は鑑定で時間を潰しながらアリアを待った。



 ◇◇◇◇◇



「みんなの祝福わかるよね?」


 戻ってきたアリアが鑑定の能力を見せてみろといわんばかりに満面の笑みで告げる。

 キリカと名乗った少女はアリアの後ろで腕組みしていた。


「リメメ……メルンさんが魔術師、キリカさんが盗賊、ルシャさんが弓士」


 冒険者として生きるならと、大賢者様の所でタレントの読み方は教わっていた。

 それぞれ、『魔術に長けた者』、『迷宮を奪う者』、『弓に熟達する者』を意味するタレントだった。


「……リーメでいい」

「呼び捨てでいい」

「……」


 三人ともなかなかの塩対応。ただ、ルシャと呼ばれた少女が小さく何か呟いた気がする。聞こえなかったけど、悪い印象ではなかったような……気がする。

 それに反して何故かアリアはドヤ顔。何故アリアがドヤ顔なのか……。


「じゃあ早速行ってみようか! お昼までまだ時間があるから」


 アリアは三人に薬草採取の準備を促す。

 まさかいきなりこのまま出かけるとは思っていなかったが、面食らったのはどうやら俺だけではない様子。困惑する三人を――早く早く!――と着替えさせに行った。


 しばらくして出てきた三人は、それぞれに革製の簡単な籠手や手袋、胸当て、ベルトを身に着けていた。キリカは小振りな直剣を、あとの二人は短剣――といってもそれなりの大きさの――を帯びていた。アリアだけは金属製の籠手を身に着け、丸い盾を下げていた。


 俺はというと、ほぼ本しか入らないショルダーバッグをひとつ持っているだけ。あと靴だけは必要になるからと大賢者様に準備してもらったブーツを既に履いている。向こうの靴はこっちでは耐久性に難があるみたい。


「こんな格好で行っても大丈夫?」


「危険が無くはないけど大丈夫。あたしも腕には自信があるから!」


 剣士と言うタレントがどの程度のものなのかはわからなかったが、正直なところ、アリアは少し背が高めなだけで特別恵まれた体格ではないことが少し心配ではあった。







--

 剣士はSwordmasterよりもSwashbuckler的なイメージかもしれません。作者は戦士なんて全部Warrior (Fighter)でいいじゃん派でしたので、こういうライトファンタジーな分類は新鮮で楽しいですw

 あと、今回の改稿では、処女作では時短のためオミットした武器ネタなんかもツッコんでいくつもりです。


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