第5話 姉の無作法
叔父の家で倒れてから、目が覚めたのは翌朝だった。
最初、自分がどこにいるのか分からず、半之丞は目を瞬かせた。
「起きましたか」
若い女の声に驚いて声の方を見ると、枕許に他家へ嫁いだ姉の
「姉上…っ」
「だらしのない」
ぴしゃりと叱られる。
「わたしはどうしたのですか?」
半之丞が恐る恐る尋ねると、姉は目を吊り上げた。
「倒れたのです。なんて情けない。それでも武士のお子ですか」
「申し訳ありません」
半之丞が謝ると、弓江は美しい顔を歪め、唇を噛んだ。
「半之丞……、わたくしは…っ」
弓江が袂から懐紙を取り出して口を覆う。
体を震わせて、いつものようにまた悲痛な声を上げた。
「あなたを、成沢忠弥などに会わせたわたくしが…、自分が許せません!」
「姉上、その話は…」
「これから成沢忠弥の屋敷へ参りたいと思います」
「は?」
「いずれ、ご挨拶に行かねばならぬと思っておりました。わたくしの失態からあなたをこんな目に合わせてしまった」
「姉上、お待ちください。成沢さんはなんの関係もありません」
「あなたは黙っていて」
きりりと睨まれ、何も云えなくなる。
「道場は休みですね」
「はい……」
「それは好都合。朝餉を食べたらわたくしと参りますよ」
弓江がいなくなると、ため息がこぼれた。
姉を止めることは、父にも弓江の夫にも出来ないことであった。
従うしか道はない。
半之丞はのそりと起き上がり、支度に取りかかった。
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