赤
徒文
赤
「まず伺いたいんですけども、ほんとうの話なのでしょうか?」
「そうですね、十二歳のときに」
「一体なぜ?」
「嫌いでしたから」
「なにかトラブルがあったとかではなく、単に嫌いだっただけだと」
「その通りです」
「具体的に、どんなところが嫌いだったのか、教えていただくことはできますか?」
「迷惑しかかけられないところです。親に似て意地が悪いというか身勝手というか。生かしておいたら今後もっとたくさんの人が傷つくと思いましたし、要領も悪いですし、明るい未来が想像できなかった。やさしさですよ」
「なるほど。つまり、周りの人たちのために殺したということですね?」
「いえ、まあ。うーん。そうでしょうかね」
「ふくみのある言い方をされますね」
「すみません。そんなに前向きな理由ではないので、しっくりきませんでした。逃げたようなものというか」
「というと?」
「ですから、逃げたんですよ。責任や苦しみから」
「なるほど?」
「このままだと、たくさんの人を傷つけたり、苦しめたりする。なにも成し遂げられず、何者にもなれず、本人も周りの人たちもずっと苦しみ続けることになる。生かしておく必要ありますか」
「はあ」
「生きていることだけが幸せではないじゃないですか。少なくとも私はそう思ったんですよ」
「死の先に幸せがあると考えたんですね」
「いや、だから、そんなに前向きな理由ではなくて。死んだあとになにが残るかとか、どこに行くかなんてわかりませんし興味もないですよ。ただ、このまま生きていても幸せにはなれない。じゃあ死んじゃってもいいよねっていう」
「殺したかったのではなく、殺してもいいから殺したということでしょうか? あくまでもあなたの目的は殺すことそのものだった?」
「あー、そうなりますかね」
「では、なぜ殺したいと考えるようになったんでしょうか?」
「嫌いだったからです。はじめにそう言ったじゃないですか。どうしようもなく嫌いで嫌いで仕方ないんです。嫌いだから殺したい、未来がないから死んでいい。単純な話ですよ」
「あなたにとって
「そうですね」
「わかりました、それなら納得がいきます。たしかにそれは、殺してしまったほうがいいですね」
「そうでしょう。だから殺したんですよ」
「あー、よかった。どうにもあなたの意思を汲み取れなくてどうしようかと思いましたが、最後にはすっきり終われてなによりです。では、この死は必要な犠牲だったということで」
「ええ、はい。では、そういうことで」
「本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました」
「これからもごゆっくりおやすみください」
赤 徒文 @adahumi
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