第1話 静かな始まり

紗月が学校の廊下を歩いていると、マインドフルネス瞑想クラブの部屋の前に来た。彼女はいつものように少し足を止め、中を覗いてみた。部屋の中では数人の生徒が静かに座り、目を閉じて何かに集中しているようだった。彼女はその光景に心惹かれるものを感じたが、同時に不安も感じていた。新しいことへの一歩はいつも怖かった。


「紗月さん、こんにちは!」突然後ろから声がかかり、紗月は驚いて振り向いた。声の主は彼女のクラスメートで、マインドフルネスクラブの部長でもある明海だった。


「あ、明海さん…こんにちは。」紗月は緊張しながら返事をした。


「見てたの? 私たちの活動。興味あるなら、ぜひ中に来てみて。初めての人にもやさしく教えるから安心してね。」明海は優しく微笑みながら紗月の手を取った。その温かい手の感触が、紗月の心を少し和らげた。


部屋に入ると、座布団が一つ空いているのを見つけ、紗月は勇気を出してそこに座った。周りはすでに瞑想の準備が整っていて、静寂が部屋を包んでいた。


「では、みんなで深呼吸をしましょう。ゆっくりと息を吸い、ゆっくりと息を吐く。ただそれだけを意識してみてください。」明海の穏やかな声が部屋に響き渡る。


紗月は目を閉じ、指示に従って息を吸った。初めての瞑想は緊張と戸惑いで一杯だったが、徐々に周りの空気に馴染み始めていた。息を吐きながら、彼女は自分の心が少しずつ静かになるのを感じた。それは新鮮で、少し不思議な感覚だった。


瞑想が終わると、彼女は周りを見回した。みんながリラックスしていて、穏やかな表情をしている。紗月も、心の中が少し軽くなったように感じた。


「どうだった?」明海が穏やかに尋ねる。


「あの、不思議な感じがしました。でも、少し…心が楽になったかもしれないです。」紗月は恥ずかしそうに答えた。


「それが大切なんだよ。」明海は優しく微笑んだ。「また来てね。」


紗月は小さく頷き、新たな一歩を踏み出したことに、心のどこかで嬉しさを感じていた。この一歩が、彼女の世界を少しずつ変えていくことを、まだ彼女自身は知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る