キミは言いました「日日是好日なり。」と

海山優

第0話 「告白」

「あなたのことが好きです。付き合ってください」


 他に人影のない校舎裏。


 春に芽吹いた新緑たちは今時期から強烈になっていく太陽光線を全身に浴びようと葉をこれでもかと広げており、梅雨前だというのに真夏日の温度を叩き出したくれた地球くんによって草いきれが周辺に漂っている。


 そんな一足どころじゃない早さでの夏の到来を実感しているが、それでもここは青い春に包まれていた。


 呼吸が止まっていることに気付く。驚きの気持ちが溢れている。耳に届くのは風の音、それに揺られ擦れる葉の音、そして返答を待つ少女が自身の手を握り締めた音。場を支配するのは緊張と沈黙。


 背筋を伸ばした。気持ちに答える——応える上で、相手の真剣さを慮ったのだろうと、斜め上にいる自分が他人事のように分析した。


「はい」


 出せたのはたったの二文字。

 けれど、大切な二文字だ。

 だって、ここから始まるのだ。


 ——こいつらの青春はな。


 告白が無事に成功し、連絡先の交換を終えた二人は校舎裏を後にした。


「こんなことある?」


 用具入れ倉庫の上にダンボールを敷き、昼寝に勤しんでいたところに誰かがやって来たかと思えばそれは男女の二人組。


 昼休憩の時間帯だとこの倉庫は角度的に校舎の陰に隠れるようになっており、風通りも良くて昼寝には丁度いい。人は案外頭上より上を見ない。それも開けた場所なら尚更だ。加えて、周囲の明るさに対してこちらの居場所が暗かったおかげなのか、二人は俺から丸見えであることに気付かず青春を展開していったわけだ。


 まぁ、それ自体は問題ではない。


 青春大いに結構。一度しかない高校生活なのだから悔いのないようにやっていって欲しいものだ。


 問題があるとすれば、告った女子は最近気になっていたあの子で、告られていた男子は俺の親友とされている奴だったと、そういうところだ。


 ――進級から此方、毎日をつつがなく過ごしいたつもりになっていたのだが、どこかで間違えでもしたのだろうかと、過ぎ去りし日々へと俺は思いを馳せた。

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