第14話 解呪の時

「よし、じゃあオヤジ、頼むぜ」

 ミッディはそわそわとした様子でデイズさんに解呪を依頼した。

「……わかった……しかし……大きくなったな、ミッディ」

 デイズさんは震える手をミッディの方へ伸ばす。

「おいおい、よせよ。今からおっきくなったアリモーの顔だって見られるんだ。兄弟そろって顔見せてやんだからさっさとやっちまってくれよな」

 照れくさそうにその手をはねるとミッディはにかりと笑う。

「……ふふ、そうだな……」

「オデも……はやグ……」

 待ちきれない様子でアリモーはデイズさんの手を引く。

「待っていてくれ……」

 ちょっとだけ恥ずかしそうに急かすミッディと、ワクワクした様子のアリモー。

 ようやく呪縛から解放される兄弟。

 私はついさっき会ったばかりの彼らのことなのに、なんだか心底嬉しかった。

 ぱきっ……ぱきぱき……。

 デイズさんがアリモーの頭に手をかざすと、アリモーの被っているものが音を立てて割れ始めた。

「おお……ついに……!」

 割れ目から光が漏れ始めて、一瞬何も見えなくなった。

「うわっ……!すごいな……!」

 光が収まると、地面にはアリモーの被っていたものが転がっていて、見上げると全てが取り払われたアリモーがそこにいた。

「あぁ……アリモー!ようやくこの日が……!」

「兄さん、ただいま」

 アリモーは、穏やかな顔をして、流暢な言葉を話した。

「お前……!」

「うん。全部、わかるよ。僕はもう、僕なんだ」

 失われたものが還ってきた。

 そんな晴れやかな顔をした兄弟が涙を流して抱き合った。

「うぅ……よかったねぇ……」

 気がつくとアミィもサンも泣いていた。

 ……私だって……泣いてるけど……。

「ようオヤジ!どうだ!これでオレたちをじ~っくり見られるぜ!」

「お父さん!やっと会えたんだから!」

 彼らが振り返ると、デイズさんはもうそこにはいなかった。

「あれ?おいおい、この大事な時に何やってんだ……」

 ミッディは怪訝そうな顔をして周囲を見回す。

「いや、待って兄さん。お父さんは、ここから動けない……」

「いやだって……いないし……」

 どれだけあたりを見たところで、デイズさんはどこにもいない。

「……アミィ、まさか……」

「………うん」

 アミィは、静かに頷く。

「おい!なんだってんだよ!」

 その様子を見たミッディは感情的に叫ぶ。

「……呪いさ」

「呪い?!今解いただろ!」

「アリモーのじゃない……デイズさんの呪いだ……」

「ど……どういうことだ……」

「それだけ崩星信者ってのは残酷で周到な奴らってことだよ……!」

 わっ、と耐えきれなくなったようにアミィは泣き叫ぶ。

「まさか……僕が……?」

「そう……キミの呪いを解いた時……が、その時だよ……」

「わ……わかるように言ってくれ……なァ……」

 ふらふらと縋り付くようにミッディはアリモーに詰め寄る。

「兄さん……お父さんは……お父さんも……呪われていたんだ……」

「つまり……?」

「僕の呪いを解いたら、死ぬんだ」

「……ふざけんなよ……もういいじゃねェかよ……なんで諦めたヤツにまでそんなことを……!」

 ミッディはとうとう抑えきれずにデイズさんを縛っていたものを何度も殴りつける。

 その手からは次第に血が滲み出し辺りには鈍く低い音が空気を揺さぶるように木霊する。

「ダメだミッディ!それ以上いけない」

「これが黙っていられるか!オヤジは……」

「崩星信者だったから」

「アリモー?!」

 アリモーはミッディとは対照的に、落ち着いていた。

「……仕方がなかったんだ。僕は、でも、許したんだから。お父さんは、でも、自分が生きることより僕に命をくれたんだ。うまく言えないけど、きっとそうなんだ。だからミッディ、もういいんだ」

 ぼろぼろと涙を零しながら、アリモーはミッディを諭した。

「報い……か。はぁ……そうだよなァ……5年も息子を呪っといて……また仲良く一緒に、なんて……虫が良すぎるもんなァ……」

 ミッディは自分に言い聞かせるように呟いた。

「……そうだな。とにかくアリモー!お前が元に戻ったことが1番大事だもんな!」

「うん!」

 彼らは吹っ切れたように笑った。



「星の巫女!約束を果たしてくれたな!……はじめは疑っちまって悪かったな。でも今は感謝してるよ!」

 ミッディは私の肩をばしばし叩きながら笑う。

「いや……私は何にもしてないっていうか……」

「ボクの活躍はルナの活躍でもあるのだ~!」

 アミィがひょこりと飛び跳ねる。

「ほんとにアミィに助けられてばっかりだよ……」

「そんな星の巫女にはちゃんと礼をしてやる。お前、魔法を覚えたくないか?」

 ……魔法!

 アミィに頼りっきりで何も出来ない私にも、魔法があれば何かできるかもしれない。

 覚えたい。

 私だって、目の前の、手の届く範囲の仲間を守れる力が欲しい。

「……もちろんだよ!」

「よし、ならオレがなんとかしてやる」

 ミッディはにっと笑う。

「……そもそもそんなことできるの?」

「お前は星の巫女だ。本来ならもっと魔法を使えるはずなんだが……だから素養はあるってわけよ」

「お母さんが隠してたみたいで……」

「なるほどそれでか……まあお前にはちゃんと魔力を感じる。安心しろ」

「あの~」

 サンが低く手を上げながら割り込んでくる。

「どうしたの?サン」

「僕にも、魔法を教えてもらうことは出来ないでしょうか?!」

 頭を下げていきなりサンが叫ぶ。

「気持ちはわかるが、お前はただのつきそいなんだろ?素養なんて…………え?」

 サンの方に手をかざしたミッディが途端に目を見開く。

「え?なになになに?!」

 サンが慌てたように仰け反る。

「いやお前……おい、アミィ、こい」

「はいは~い」

 軽く咳払いするとミッディはアミィを連れて私たちから離れた。



「……知ってたのか?」

「まだ秘密にしようかと思ってたんだけどね~」

「なんか理由があるのか?」

「大きすぎる力は……って感じかな?彼の持つそれは、基礎からやってかないと彼自身が飲み込まれかねないからね」

「じゃあまだその時ではないと……?」

「う~ん、でもルナが覚えるっていうんなら一緒にイチからやってけばいいんじゃないかなぁ?」

「わかった、用心しながらやるとしよう」

「流石ミッディ、わかってるぅ」



「……待たせたな、サン」

 ミッディがアミィを連れて戻ってきた。

「で、どうなの?!」

「なんか……あった」

「え……」

 ミッディがやや目を泳がせながらそう言う。

「素養がな……ちょっとあったんで、お前も魔法使えるぞ」

「…………っ!!やったー!!」

 それをきいたサンは叫び声を上げて身体中でその喜びを体現した。

「おいおい、そんなはしゃぐなよ」

「だって嬉しいんだ!僕だけ何も無かったんだから!」

「よかったねサン!」

「うん!これでつきそいだなんて言わなくてすむよ!」

「そうと決まればお前らにはちゃんと覚えてから行ってもらうぞ!オレのことは師匠と呼ぶんだな!」

「はい、師匠!」

 私たちは揃ってびしりとそう呼ぶ。

「恩人のお前らにそんなことを言わせるのもちっと悪いか?」

「いや、私もその方がいいわ。だから、私を強くしてね、師匠」

「……へっ!任せろよ!」

 私は強くなる。

 この使命を果たすまでは、残酷な崩星信者に狙われることも考えなきゃならないんだ。

 自分の身も、仲間も、みんな守れるように。

 私は、つよくならなきゃ。

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