第13話 呪いの行方

「おい、まだか?」

 平原を歩き続ける私たち。アミィセンサーの反応を頼りにその行脚は続いていたが痺れを切らした様子でミッディがアミィに訊く。

「アミィセンサーはね……こう……気長に待つもんだよ……」

 アミィにも目的地がわからない以上彼女も曖昧な言葉で濁すことしかできなかった。

「ねぇ……寒いわ……」

「ルナはそればっかりだね!僕はもうすっかり慣れた!」

「あなたは最初から平気そうだったじゃない……」

 依然として元気そうに動き回るサンを見ていると更に寒くなってくる。

「オレたちも寒さには慣れてるが……流石に冷えてきたな」

 ミッディが鼻をすする。

「雪が降ってるわけじゃないからまだいいと思うけどなぁ」

「アミィは逆によく平気ね……」

「平気じゃないよ~ボクは我慢してるの!」

「えらいねアミィ」

 そう言って私はアミィの頭を撫でる。

「えへへ~」

 彼女は素直にそれを享受する。

「それで目的地はどうかな?」

「そろそろらしいよ」

「ほんとか?!」

 アミィの言葉を聞いたミッディはいきなりアミィの方を掴む。

「う、うん」

「一体どこだ?!」

「あ……あの、ミッディ忘れてないよね?」

 念の為アミィは確認する。

「も……もちろんだ。冷静に、だろ?」

 既に忘れかけていたようだがミッディは深呼吸する。

「そうだよ!」

「よし……行ってやろうじゃねェか……」

 気合いを入れ直して歩を進める。



 アミィセンサーの目的地についたようだ。

「……誰だ?」

 ユキの積もる平原の中に、ユキの積もってない円があった。

 その中心に、それはいた。

「オレはミッディ、こいつはアリモー。……なぁ、お前。オレたちの名前に聞き覚えはないか……?」

 ミッディの声は震えていた。

 きっと色々な思いを堪えているんだと思う。

「ミッディ……アリモー……そうか……では私は……ここまでなのだな……」

 その声はひどく嗄れていた。声を発した主はそれに似つかわしく朽ち果てそうな枯れ木のようにみずぼらしかった。そして何より目を引いたのは彼を縛る見たこともない素材の蔓だった。それが身体中に巻かれ円の中心に刺さった同じ素材の棒に繋がれている。

 おそらくこの円の外に出られないように。

「やはり……お前が……!」

「ミッディ!」

 ミッディはそれに飛びかかろうとしたが、咄嗟に叫んだサンの声に手を止めた。

「すまねェ……!つい……」

「とりあえズ……話を……きかせてクレ……」

 落ち着かない様子の兄弟はそれでも心を鎮めその繋がれている者に話しかけた。

「……すぐに殺されると思った。お前たちにはそれほどのことをしたと……そう覚悟していた……」

 もうほとんど身を動かす力も残っていなさそうだったが、驚いたように顎を少しだけ上げる。

「いや……こいつらに会わなきゃ確かにすぐ殺していたかもしれないな」

「何度詫びをしても許されることではない……私は私のためにお前たちを犠牲にした……」

「はっ……それじゃあお前は何と引き換えにオレたちを犠牲にしたってんだ?」

「……お前たちは……崩星信者の掟を知っているか……?」

「ンなもん……知るわけねぇだろうが……」

 苛立ちを隠せない様子でミッディはそう言う。

「崩星信者は……この星に未練を残してはならない……それは例え己の愛する者ですら……」

「愛する……?おいどういうことだ」

「まさカ……オマエ……」

 その一言でミッディとアリモーは静かな憤りを見せていた様子を一変させ動揺する。

「愛する息子たちでさえ……残すことは許されなかった……」

「オヤジ……?」

 ミッディは呆然としたようにそう呟く。

「そうだ……お前たちは私の息子……アリモー……お前の呪いは崩星信者からお前の存在を隠すためのものでもあったんだ……」

「じゃあ……じゃあなんでオレにはかけなかったんだ?」

「アリモーには……特殊な波長があった……。ミッディと違って崩星信者の仲間にその存在を知られてしまったんだ……」

「それで……なんでオレたちを消さなかった?お前は崩星信者なんだろう?」

「私は確かに全てを犠牲にする覚悟があった……だが……お前たちと過ごす日々は……確かに私に未練を残したよ……」

 そのしわくちゃの顔は、確かに笑った。

「……最後だ。お前は……助かるのか?」

「……流石にわかるか……そう、今の私はここに磔にされている……簡単な話だ……私はこの星に未練を残したことを仲間に知られてしまった……崩星信者の掟は重い……彼らはまたそれに従順だ……私はこの星に縛られたことを知られ、文字通りこの星に縛られたのだ……」

「じゃあこの円からはもう出られないってこと……?」

「その通りだ……」

 全てを受け入れたようにそう言った。

「……まあ、オヤジが生きていたことすら、オレたちは知らなかったんだがな」

「オヤジ……オデ……もウ許すことにしたんダ……だかラ……帰っテきてクレよ……」

 兄弟は呪いの正体を知り今までの憎悪の対象が幻であったことを理解した。

 また家族が揃うなら……それが1番良いだろう。

「それは無理だ……アリモー……お前には辛い5年だったろうに……許してくれてありがとうな……でもやはり無理なのだ……」

 しかしそんな生易しい状況ではないことはその様子を見れば明らかだった。

 彼を縛る呪縛がどれほど強いものかは、その失われてしまった歳月と家族の絆が示している。

「うウ……オデ……カナしい……」

 アリモーは再び仮面から涙を滴らせる。

「悪いなオヤジ。オレはこいつほど幼くない。こいつは誰かのせいであまり賢くないままなんだがな

 ……だから、オレは当然だと思うぜ。お前にゃこれがお似合いってことだ」

 多分ミッディはまた嘘をついていたんだと思う。

 今度は私にもよくわかった。

「ねぇオヤジさん」

「デイズだ……」

 私が呼びかけると彼はその名を名乗った。

「デイズさん、アリモーはずっとこのままなの?」

「私にはその呪いを解くことができる」

「それじゃあ……!」

「……ああ……今、解いてあげようね……」

 デイズさんは悲しいのか嬉しいのかよくわからない表情をしていた。

 そしてその様子をさっきから黙ってみていたアミィは、もっと複雑そうな顔をしていた。

「……アミィ、どうしたの?」

 私はそっとアミィに声をかけてみた。

「ううん、なんでもないよ」

 アミィはちょっとだけぎこちなく笑った。

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