第6話 おっぱい少女

「ネエ?おっぱい少女。

 もう障壁張らなくても大丈夫だよ?十分頑張ったから後は俺に任せて」

「えっ? あれ? 貴方は? おっぱい少女?私? あれれれっ?」

 思考が追いつかないソフィヤ。

 ソフィアは驚いた。

 ここにはもう誰もいないはず?


 いつの間にか、横にサファイア色の瞳の少年が、静かに立っていた。

 前方を見ると、魔族の全ての攻撃が、広範囲に光の壁に跳ね返され、防がれている。

 日が暮れて暗くなった夜空が、眩しい程の光の壁。

 信じられない光景が広がっていた。


 50人もの魔導師が張った障壁でも防ぎきれず、多くの犠牲を出してしまっている。

 今はソフィア1人で、ボロボロになりながらも抵抗していた。

 それを……澄ました顔をして、世間話でもしているかの様に、私に話しかけながら?


「それにしても魔族逹多くね?食事冷めちゃわないうちに、いっぺんに片付けて早く帰ろ〜〜」

 片付ける?何を?この魔族達?

 ソフィアは混乱した。

 アルティスの身体が光り出し、その光る手を此方にかざす。

 その光に包まれるソフィア。

 あっ……とっても暖かい……

 そう思ったら身体中傷だらけだったはずが、痛みが消えている。

 そして何故か魔力まで回復してる様だった。

 手を見てみると、やはり傷は跡形も無く消えている。


 この少年が治してくれた?

 そうとしか思えない……でもどうやって?

 回復魔法だとしても何の詠唱もない。

 何故か自分の魔力さえ回復している。

 こんな聖魔法、聞いた事もない。

 何が起きているのか分からない。

 ソフィアは考える事をやめた。

 今はそれどころでは無い。


 気付くと何故か横が眩しい!

 見ると少年の放つ光が更に増し、身体全体が銀色に眩しく輝いていた。


 そして魔族の長い隊列に向けその手をかざす。

 すると、魔族の足下に大きな魔法陣が、幾重にも浮き上がり、数キロに渡って青く光出す。


 やがて目の前に出来ていた障壁が消え、魔法陣から幾何学模様を纏ったドームが浮かび上がり魔族を包囲している。

「よし、これで外には漏れないかな?」

 そう言うと、アルティスのサファイアの瞳が、銀河の星々の様に輝く。

 それに呼応する様にドームの中に、明るい光の粒が、小さな飴玉程の大きさで、無数に浮かび上がる。


殲滅アナイアレイション」指をピンと鳴らすのを合図に、無数の光の粒は、ギラギラ光りながら超高速で動き出し、次々と魔族を貫いていく。


 直進して線を描き、静止して光る粒になる、そして又、光の線になり魔族を貫く…それを繰り返す。

 大きな音をたてるでもなく、ドームの中は、無数の線香花火が現れたかの様に煌めく。


 光に貫かれた魔族は、霧の様に光の粒となり、ドームの中は更に煌めきを増す。


 血や肉が飛び散らないとは言え、魔族を殲滅しているのだ。これは残酷な景色なのだろう。

 しかしその光の美しさに目を奪われてしまう。

 夜なのに昼間の様な明るさに、高まる胸を抑え切れない。

 そして目の前は眩い白に染まる。


 10分程経っただろうか?光の輝きは徐々におさまる。

 視界が回復してくると、先程まで埋め尽くされた魔族の姿は一切消え、静寂に包まれていた。


「光は外に漏れて無いよな?うん……」

 キョロキョロ周りを見渡すアルティス。


「おっぱいの子……

 地下の皆んななの所に案内してくれる?」

「おっぱいの子じゃありません……」

 顔を赤らめながら、小さな声で抗議するソフィア。

 あのドームは、光を外に出さない為?魔族以外に被害を出さない為の障壁なのだろうか?

 それにしても何故地下に人がいる事を知っているのだろう?


「あの?可愛い?おっぱいの子?」

「可愛い……を付けられても……じゃなくて、おっぱいから一度離れて…………私はソフィアと申します」


 可愛いと言われ、更に顔が赤くなる。

「ボクはアルティス、人間ニャン♡」

 ……ポカン?とするソフィア。

 ソフィアにも「人間ニャン♡」は効かなかった。

 創造神が腹を抱えて笑っている姿が目に浮かんだ。“ チェッ……”


 地下に案内されると、そこは地獄絵そのものだった。

「酷いな……」

 そう言いながら、ソフィアの後ろを歩くアルティス。

 鼻をつんざく血の……そして皮膚の焦げた匂い。あちこちに落ちている血痕。騎士団の損傷は激しい。


 暗いはずの地下が、神聖力を纏ったアルティスから、滲み出る霧の様な光の粒で、明るく輝きだした。

 暫くすると地下全体が、光で満たされる。

「おっぱ……ソフィア?俺は急ぎ王城に帰らなければならない。

 もう既に、こっちに人が向かっているはずだから、安心して待っていて」

「し、城に?貴方は王城から来られたのですか? ちょっ……ちょっとお待ち下さい。

 アルティス様は、私にして下さった様に、上位回復魔法が使えるのですよね?

 私には、あの様な強力な聖魔法は使えません。

 お願いです、ここの人達を助けて……」


 聞こえたのか聞こえなかったのか?

 アルティスの姿はもうそこにはなかった。

 そそくさと消えてしまったアルティス。

 どんだけ腹が減ってんだい!


「ソフィア」

 絶望に膝を崩すソフィアを後ろで呼ぶ声がした。

「何が一体どうなってるんだ?ソフィア?」

 振り返ると、虫の息だったはずの魔法騎士団長のスパイクが、元気そうに立っている。

 いや、団長だけじゃ無い?皆、怪我が治っている様だ!


「ソフィア……」

 又も、後ろから声が掛かり、振り返るソフィア。


「きゃ〜〜〜お化け〜!!!」

 そう叫ぶと、物凄い速さで逃げだした。

 それもそのはず。

 その声は、火魔法を直撃され、全身丸焦げで、即死だったはずのカリンだったから。


 ドン!!誰かにぶつかり尻餅をつく。

 見上げると、そこには水魔法で凍らされ、バラバラに砕けたはずのサーシャが!


「どうなってるのよ〜?!」

 泣きそうな声でそう叫ぶ。

「いやいや、こっちが聞きたいよ。何がどうなってる?」

「まさか、い……生き返ったの?死んじゃってたよね〜?」

「いや?死んだの?私?……う〜ん?よく分からない……」

「貴方は丸焦げ……貴方は凍ってバラバラ……やっぱ、お化け!?」


「落ち着け……ソフィア」

 団長が声をかけてきた。

「怪我人はおろか、死んだ奴も生き返った様だ……さっきの光る霧は何だったんだ?

 攻撃の音が止まった様だが、魔族はどうした?教えてくれ」

「教えてくれも何も、私にも何が何やら……でも魔族はもういません。全部消えて無くなりました……」


 きっとあの少年が、何かしてくれたのだろう。

 と〜〜ってもお腹が空いてたみたいだけど……

 バレバレだよね。食事が冷めないうちに早く戻りたいって言ってたし……

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