第2話 猫?

「この剣をお使い下さい」

 両手に武器どころか、何も持っていない丸腰のアルティスに、装飾はそれほど多くは無いが、目を奪われる程、美しい剣を差し出すフィオナ。


「ちょっ……姫!いつの間に……それ俺の聖剣!」

 剣を横に置いて、へたり込んでいた勇者が慌てて走ってくる。


「あなたの剣ではありません!これは父王がに預けた剣!

 逃げてばかりで、まともに戦おうとしない、そんな人に預けた物ではありません!」


 もう一度アルティスに剣を差し出すフィオナ。

 しかしアルティスは必要無い……と言う様に顔を横に振る。


 そして肘を曲げながら、右腕を水平に胸の前に出す。

 円を描く様に指先を頭に移動させると、そこにはギラギラとシルバーブルーに光り輝く剣が握られていた。


 アルティスは魔族達の配置を確認する様に、首を振り空を見回すと、ふわりと空に浮かび上がり、見る見る加速していく。


 “ドンッ、ドンッ、ドドドンッ!“ 加速する度、空気とぶつかり、その衝撃によりアルティスの飛んだ跡には、丸い波紋が幾重にも連なる。


 アルティスの身体に青白い炎が纏う。更にスピードが増し、その炎が白銀の輝く光になるまで、数秒と掛からなかった。


 魔族の中をその光が駆け巡る。

 それだけで、魔族の身体がバラバラと切り裂かれていく。


 なす術もなくアルティスの光り輝く剣に体を切り裂かれ落ちていく魔王軍。

 魔族逹は霧の様にキラキラと輝く光の粒となって消えていった。

 本来、魔族だろうと何だろうと、切り付けられれば血が飛び散り、刻まれた肉片が残る。

 不思議な事に、アルティスの輝く剣にかかった魔族は、光の粒となり静かに消えていく。

 何故か苦痛に顔を歪める魔族はいない。安らかな顔をしている。


 1千もの魔族達が、目の前から消え去る迄、数分と掛からなかった。

 空中で静かに立ちつくすアルティス。

 ゆっくりと体を横に1回転させる。

 冷めた様に少し目を細め、魔族がいなくなった事を確認すると、縦に1回転しながらフィオナの元に静かに降りるアルティス。

 シルバーブルーに光り輝いていた剣がすっ……と消える。

 息も切らさず、散歩でもしてきたかの様に、涼しげな顔で黒いロングコートだけがはためいていた。


 何が起こっているのか理解出来ず“ポカン”と眺めていたフィオナと騎士団。

 フィオナは我に返り、その傍へ駆けつけた。


「お助け頂きありがとございます。その……あ……あなたは一体……?」

 “ん?” 振り返ると先程助けた少女が立っていた。そうだ……アルティスは思った。

 今じゃネ?今こそ特訓の成果を試す時…… 息を1つのみ込み、心を落ち着かせ…… 両の手を頭の上、頬を少し赤らめ頭を斜めに、にっこり!

「ぼ……ボクはアルティス。人間ニャン♡」

 アルティスが可愛らしく微笑む。

 完璧だ!完璧に決まったんじゃね?

「…………」「…………」「…………」「…………」

 あれっ?あれれれっ……なんか変な空気が……流れている?


 みるみる顔が熱くなるアルティス……

 そこにはもう冷たそうで、大人びた少年は居なかった。

 ゆるキャラ2頭身にしか見えない……

 ジジイ〜騙したな?


 *************************


「ぶっわっーはははは!

 アルめ、あやつ本当にニャンと言いおった!」

 仰向けになり足をばたつかせ、涙を流しながら大笑いしている白髪白ひげの老人。

 遥か遠い空の彼方……神界から心眼でアルティスの様子を見ていた。

「創造神様!威厳が無さすぎです……」

 ため息をつきながら肩を落とす女神ミリア。


 ************************


「のうアルよ」

「のあ〜に?じいちゃん?」

「まもなく人間界に戻るんじゃろ?」

「あと1月で15歳だよ? じいちゃんの言いつけ通り、これ迄待ったからね……」

 5歳の時に、この老人……創造神に拾われ神界で育てられた。

 人であるにも関わらず、心を持つ神聖力……エーテルを宿し、それだけでも、とてつもない潜在能力を得たアルティス。

 エーテルと遊び、その中で、いつしか、人の目では追えない程の身体能力を得、

 エーテルから学び、真似る事で、有り余る魔力の使い方を覚えた。

 5歳になる頃には、人外とも思える程の力を持っていた。


 10年にも及び神々の下で暮らし、磨かれたその力は、

 既に神の域すらも超えているのではと、創造神の下に集う12柱の神々は囁く。


 15歳の成人を機にアルティスは地上へ……故郷の国へ帰る事になっていた。

「で、じゃ…… 正直お主は目つきが悪い。それでは人々に好かれまい」

「創造神様!アルは目つきが悪い訳ではありません。

 あまりに透き通るサファイア色の瞳が、アルを冷たそうに見せてるだけです」

 そう言って庇うのは、女神のミリア。

 幼いアルティスの面倒をみて育てた、母でもあり姉の様な存在。


「それにしてもじゃ、それでは人々に好意的に受け入れてもらえんじゃろ?

 そこで秘策があるんじゃが……」

 真剣な顔つきで言う。


「人間は可愛い獣人が好きじゃろ?特に猫耳猫族が好かれておる。

 猫族の真似をしながら、彼等の様に、何々なになにニャンと語尾に付けるのじゃ。

 さすれば、お主は皆から笑顔で迎えられ、可愛がられるじゃろう……」


「まじか……?」

「ちょっ……アル!」

 何か言おうとしたミリアの口を創造神が手で塞ぐ。


「それでは早速やってみるのじゃ」

「分かった!」

「違〜〜〜う!“分かったニャン”じゃろ!」

「わ、分かったニャン……」顔がみるみる赤くなる。

「照れるでない!そして可愛くじゃ!

 猫耳の様に手を頭の上に乗せ、顔を斜めに、にっこり笑顔で!」

「わ、分かったニャン♡」顔から火が出る。

「クックッ……」

「じいちゃん?どしたの?肩が震えてるよ……」

「え〜い!集中せんかい!」

 創造神の特訓?はアルティスが、ゆるキャラ2頭身化する迄続く。

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