Team ROMANCE
刀丸一之進
第1話 ロマンに生きる男たち
バレルに砂が張り付いてくる。添えている左手にも、引き金にかけている右手にもだ。ザラザラしてあまり気分がいいものではないが、自分一人の感覚でないことが分かっているから我慢がきいた。塹壕に張り付きすでにおよそ30分。少しずつ、ターゲットの乗った車と思わしきエンジンの音が聞こえてきた。
「おい、来たぞ。あいつで間違いねぇ…。およそ40秒で目の前を通るぜ。」
スコープを除いていた仲間が,顔を動かさず短く言った。
「前輪だけ打ち抜けるか?」
愚問だなと言わんばかりにライフルを構えている男が言った。
「今更俺の腕を疑ってんのか?」
「いや?おめぇの腕なら一発で右も左も打ち抜いちまいそうだからよ」
そういうと、ライフルを構えている男も、ほかにいる二人の仲間も笑った。そして二丁の拳銃を構えている男が言った。
「ちげぇねぇ。器用にやってくれよ?ただのパンクだと思わせねぇといけねぇんだから。」
そして、もう一人ショットガンを構えている男も言った。
「うまく車を止めたら、あとは俺のスパスでエンジンを破壊、生き残りが出たり、爆発がなかったときはほかの二人の番だな」
作戦を再確認して、四人は車に再度注意を払った。ライフルを構える男が短く、そして小声で言った。
「fire。」
サプレッサーをつけられ、偽装を施されたライフルが小さな音を立て、次の瞬間車のタイヤがパンクし、塹壕のほぼ目の前で、停車した。次の瞬間、体格のがっしりとした男が立ち上がり、ショットガンをぶっ放した。轟音が荒野に響き、車のボンネットや、車体のあたりに無数の穴が開いた。次いで、二人の細身の男が立ち上がり、片方はマシンガンを連射し、もう一人はハンドガンを撃ちまくった。
車の運転席や、後部座席から断末魔が聞こえたが、三種類の銃声にかき消された。1マガジン分撃ち尽くすころには、車は炎上し、おおよそ車内から命の気配はしなかった。そして、三人がおのおの手榴弾のピンを外し、車の近くに投げた。マシンガンを持った男が、短く呟いた。
「あばよ。地獄に落ちやがれ。」
瞬間、手榴弾が爆発し、炎上していた車は、さらに原形をとどめないほどに大破した。
「ほかの敵は見えるか?」
ハンドガンの男が、ライフルを持った男に声をかけたが、ライフルの男は「いないな」と答えた。
「ずらかろう。」
ショットガンの男が三人に聞こえるように言いつつ、塹壕の後方に隠してあった布を取り払い、車の姿を出現させた。中には、国連から派遣された兵士であることを示す軍服を着た兵士が運転席に座り待っていた。マシンガンの男が、支給された砂漠へ偽装するための軍服を脱ぎながら声をかけた。
「お待たせしたなぁミスタージャック。仕事が片付いたので、基地まで連れ帰ってくれるかな?」
ミスタージャックと呼ばれた兵士は、「OK」と返して、4人の男たちに乗車するよう促した。4人は各々支給された服を脱ぎながら、それらを雑に車後方のトランクに放り込んだ。そして、それぞれの銃を服の上にマガジンを抜いて丁寧に置いた。四人が車に乗ると、ジャックが声をかけた。
「君たちの活躍に感謝する。先ほど人質たちは我々の部隊が無事確保したそうだ。」
それを聞き、4人の顔に安堵の表情が見られた。ライフルの男が口を開く。
「そりゃ何よりだ。」
「だな。全く、自分たちの資金源のために人身売買だの売春斡旋に手ぇ出すなんてとんでもねぇ奴らだな」
マシンガンの男が続いた。
「だがまぁ、今回で1か所潰したし、ちったぁ安心してもらえるだろ」
とショットガンの男が言った。そしてジャックが問いかけた。
「一つ質問させてくれ、君たちはたったの4人でありながら武器にまるで統一性がない。それどころか、弾薬も45口径や9ミリ、散弾、ライフル弾とめちゃくちゃだ。なぜわざわざバラバラな銃を使う必要があるんだ?」
兵士としては至極当然な問いだろう。これにはハンドガンの男が答えた。
「そりゃぁミスタージャック、ロマンってやつだよ。」
「ロマン?自分たちの好みということか?」
「そうとも言えるだろうね。銃ってやつには相性がいるんだよ。例えば、この4人の中だったら、俺は一番上手くベレッタを扱える。だが、こいつのトンプソンをうまく扱えやしない。その逆も然りさ。俺らは互いのロマンを認めてリスペクトしてる。もっと言えば、だれか一人の銃に合わせちまっても、ほかの3人が100%その銃を使えやしない。だからわざわざ銃をそろえないってわけよ。」
マシンガン(トンプソン)の男を指さしながらハンドガン(ベレッタ)の男は言った。ジャックは納得したような驚愕したような、それでいて畏敬の念を持ったようなまなざしで、ミラー越しに4人を見た。そして、次は沈黙を作らないため、別の明るい話題を出した。
「そういえば、今日は君たちの働きに感謝して厨房が張り切ってくれたらしい。うちの基地自慢のスペシャルカレーだそうだ。君たちもきっと気に入るぞ?なんせスパイスのこだわりが違うからな。」
そういってジャックは得意げに笑った。後ろの4人は口々に「そいつはいいね」とか、「実にうまそうだ」といった。そしてさらにジャックはにやりと笑いながらいった。
「それと、明日はうちの基地は休みを取って、持ち場や警備は別の部隊がやってくれるから、酒も飲めるぞ。本国からメーカーズやダニエルが功労の品として送られてきたんだ。ビールや、つまみにジャーキーなんかもあるぞ。」
「ウイスキーかいいねぇ大好物だ。」
トンプソンの男が嬉しそうに声を上げた。ライフルの男も「コーラもあると嬉しいねぇ。そろそろコーラハイボールが飲みたかったんだ。」と続いた。
一同を乗せた車は、スピーディー且つ和やかに基地へと走り去った。
基地につくと、一同を待っていたのは基地に詰めている軍人たちの歓迎の声だった。1週間ほどここに滞在し、すっかり個々の兵士たちと男たちは打ち解けていた。兵士たちは口々に「よくやったなぁ」とか「無線で活躍を聞いたぜ」などの称賛の声を上げた。男たちは、車を降りると兵士たちの声に答えつつ、整備兵に自分たちの銃を預けた。SRS狙撃銃、M1A1トンプソン、スパス12ショットガン、そしてベレッタM92Fのブラックとシルバーがトランクから降ろされて、整備場に運ばれていく。
その様子を見届けて、ジャックが声をかける。
「夕食まで時間がある。風呂にでも入ってゆっくりしててくれ。」
「それなら俺は、タバコを吸ってくるぜ。今日のために1週間禁煙してたんでな。そのあとにゆっくり風呂をもらうとしよう。」
トンプソンの男が言うと。ほかの三人も「なら俺も」と続いた。
基地の隅にある喫煙所に行くと、そこには4人以外、だれもいなかった。トンプソンの男が、部屋からとってきたマルボロの箱を開けて3人に配った後、自分も煙草をくわえた。そして、顔を突き合わせて一つのライターで火をつけた。フーっと一息つくと、ベレッタの男が口を開いた。
「にしても、今日の仕事のMVPはやっぱりフールだったな。いつもながら見事な狙撃だったぜ。」
フールと呼ばれたSRSの男がその言葉に煙を吐きながら答えた。
「いやいや、ジャッジメントの散弾銃の仕事もよかった一発でエンジン系統はオシャカだったぜ?」
今度はジャッジメントと呼ばれたスパスの男が言う。
「おいおい馬鹿言っちゃいけねぇよ。トドメを刺したのは、マジシャンのトンプソンと、テンペランスのベレッタだったろ?。悪党どもは見事にハチの巣だったじゃねぇか。」
そしてそれまで相槌を打ちながら煙草をふかしていた。トンプソンの男(マジシャン)が口を開いた。
「ターゲットを屠るだけなら、みんなよくやったさ。だが、作戦の前後を考えたらミスタージャックも今回の功労者じゃねぇか?。」
マジシャンがこう言うと。フールもジャッジメントもテンペランスも「ちげぇねやな」と口をそろえて笑った。そして、マジシャンが続ける。
「後でまた礼を言っとこうじゃねぇか。」
そういってうっすら笑みをたたえたまま、また煙草をくわえてふかした。
夕食の時間になると、4人とジャックは喧騒の中心にいた。そして周りには、多数の兵士が群がり、それぞれ手には、酒の入ったコップや、ビール瓶を持っていた。そして、ジャックがふと立ち上がり、音頭を取った。
「みんなよーく聞け!本日、この地帯の住民を恐怖に陥れていた人身売買組織の主要人物5名は、ここにいるチーム・ロマンスの活躍により地獄に落ちた!今夜はこの英雄たちの雄姿と、活躍をたたえて、大いに飲み明かそう!明日はこの基地全体で休みだ!それでは酒を掲げて、乾杯!!」
歓声が上がり、皆手に持つ酒を飲みほした。大半の兵士たちは立ち上がっていたが、チーム・ロマンスと紹介された例の4人は座ったまま、静かに杯を傾けた。
酒が進んでくると、兵士たちはロマンスの男たちに口々に質問を投げかけた。
「なぁフールよぉ。どうやったらアンタみてぇに正確に狙撃ができるんだ?」
「練習あるのみさ。あとは、自分に合った狙撃銃を使うことかな。まじめに練習して、その銃が好きな気持ちが高まってると、銃が勝手に当ててくれるのさ。」
狙撃兵志望の兵士はなるほどといった顔をして頷いた。
「なぁマジシャン。アンタはもともと軍関係者じゃなかったんだろ?どっちかってとマフィアなんかとも近かったとは聞いてるけど。なんで軍使用のトンプソンを使うんだい?ドラムマガジンを使えば、弾数だって多くなるのに。」
「俺らは、マフィアじゃねぇからさ。それに、ドラムマガジンを前に使ったらジャム(給弾不良)起こしやがってな。見た目も、俺はあの形のままのトンプソンが好きなんだ。」
軍歴史に詳しい兵士はマジシャンの返答に感動したような顔をした。
「よう、テンペランス。おめぇさんは9ミリ弾のベレッタを二丁使ってるわけだけど。45口径弾とか38スペシャルとか威力のあるオートマはいくらでもあるんじゃないかい?」
「確かにそれは言えてるな。だがな、反動だとかもあるし、仕事にあれ以上の威力は別に要らねぇんだ今んとこ。あと、ベレッタが一番俺の手にはなじむのさ。」
ハンドガン好きの兵士は、感嘆の声を上げた。
「ジャッジメント…。君は威力が強めな銃が好きだよね?スパスもだけど、そのいつも腰から下げているイーグルも…。どうして、もっと音や反動が弱いのを使わないんだい?」
「簡単な話さ、俺はでかくて、ごっつい銃が好きなんだ。例外はあるけどな。性格的にも、役割的にも、体格的にも俺には威力が強いのがお似合いなのさ。」
控えめな兵士は、ジャッジメントに握手を求めた。
酒が進んでしばらくたったころ、金網の外でパパーンと銃声が聞こえた。直後無線で、見張りから連絡が入った。
「”伝令、伝令、昼に倒したはずの敵組織残党が、奇襲をかけてきた模様。数は10人ほど、3台の乗用車で突進攻撃をかけようとしている。残りおよそ1キロ少し、武器はおそらくAK47ライフル、VZスコーピオンマシンガン。東側ゲートに接近中。”」
それを聞いてすぐさま、マジシャンが立ち上がった。
「あの場にいなかったとはいえ、完全に消し損ねた俺らにも責はある。おめぇら、カタ付けに行くぞ。」
ほか三人も「おう」といって立とうとしたが、先ほどそれぞれに声をかけた兵士たちがそれを制した。
「待ってくれ。」
「あんたたちの話を聞いて俺たちも自分に真面目に戦いたいと思った。」
「俺たちにやらせてくれ。」
「俺たちだって兵士のはしくれだしくじりやしないさ。」
先ほどまで、どこか悩みのようなものが目に宿っていた。兵士たちの目には、何か熱い、決意のようなものが、炎のようにメラメラと燃えていた。テンペランスが座ったままマジシャンに言った。
「指揮取ってやれよ。マジシャン。お前がやれば大丈夫だろ?」
フールもジャッジメントも頷いた。
「わかった…。おい!誰かこいつらの銃の好みを知ってるやつ。こいつらに銃を貸してやれ。」
そして、すぐ雑踏の中からM4をはじめとした軍事運用されている銃が出てきた。
「お前ら、この銃で問題ないか?。」
兵士たちは、力強く頷きながら銃を受け取った。そしてマジシャンは続けて、チームロマンスのほうを向き直っていった。
「お前ら、もし俺が死んだら、俺の銃を頼むぜ。」
三人は、返事の代わりに杯を掲げた。それを見たマジシャンは、満足そうに頷き、兵士たちを連れて、東側のゲートへ向かった。
ゲートにつくと、3台の車両が、銃を乱射しながら暴走していた。おそらく、見張り台や、近くの通信兵に数打てば当たると考えているのだろう。幸い今のところ負傷兵は出ていないが、基地のあちこちに弾痕がついていた。マジシャンは、四人にそれぞれ近くの建物の窓に待機するように言った。そして自身は、ジャケットの背中側から、リボルバーを抜いた。
自然界に黒という色は滅多には存在しないとされるようだが、月が隠れている夜はあたりはいつもの夜より暗く、影と闇の境が曖昧になりがちである。そしてその闇の中にマジシャンは溶け込んでいた。黒いシャツに黒いパンツ。ベストも、ジャケットもネクタイも、頭にかぶった中折れハットさえも、真っ黒だった。顔は黄色みのかかった白色の肌色が目立つ可能性があるため、銃を持っていない左手の袖で隠していた。手に持っているスミス&ウェッソンM29マグナムのグリップも木製のため、極力隠している。マジシャンが唯一懸念していたのは、匂いであった。昼間の仕事の時は、匂いでバレることを考えて禁煙していたが、今はすでに数本煙草を吸っている。もし敵の中に嗅覚が優れているものがいたら、匂いで増援が来たことがばれてしまうかもしれない。極めて冷静ではあるものの、短期決戦が良いと考え、マジシャンはマグナムを真っ直ぐに構え、旋回を続ける車の先頭を走る一台に狙いを定めた。
瞬間、マジシャンのマグナムが火を噴いた。夜の砂漠に銃声が轟き、先頭車両の運転手の頭を打ち抜いた。フロントガラスに鮮血が飛び散り、車はコントロールを失った。そのまま、後続車も巻き込んでクラッシュすることとなった。それを合図にするように、待機していた兵士たちが容赦なく弾丸を浴びせた。すぐさま、車体は炎上し、奇襲をかけてきた残党たちも、昼間の連中の後を追うことになった。
完全に死亡確認を取った後、マジシャンはロマンスの三人と兵士たちが待つ、広場に戻った。
「よぉ。どうだったよ?」
フールが言った。
「昼間の連中と同じ場所に送ってやったよ。けが人も出なかった。」
「そいつはよかったぜ。危うくおまえの分の酒も飲んじまうとこだった。」
ジャッジメントがからかうように言った。
「おいおい、いくら何でも、そこまでヤワじゃねぇよ。」
マジシャンが笑いながら返すと、テンペランスがスッとマジシャンの分のコップを差し出した。中には、シュワシュワと泡を立てる黒い液体が並々注がれていた。マジシャンは「ありがとよ」といって、グイッと一息で飲み干した。そうして、勢いよく杯を机に置くと、マジシャンはまた口を開いた。
「さて、次の仕事の話をしようか。」
「次はどこのどいつを掃除するんだ?。」
ジャッジメントがマジシャンのコップに新たにコークハイボールを作りながら聞いた。
「次の仕事は、FBIから、ベガスにいるヤクとぼったくりと違法賭博をやってるマフィアのボスと幹部を始末しろって仕事だ。」
ほか三人の目つきが一瞬変わった。次の瞬間、全員顔に微笑みをたたえ、「次の仕事も大変そうだな」とか、「ちげぇねぇな」などといって、改めて4人で乾杯した。
この日これ以降、4人は次の仕事について何も触れず、ジョークを飛ばしたり、互いの仕事っぷりを讃えながら酒を酌み交わした。基地には、兵士たちと、ロマンに生きる男たちの楽しそうな笑い声が夜通し響き渡っていた。
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