3.暗闇への階段
地下鉄メトロは、二十年前の大津波で冠水し、いまなお東京湾から海水が次々と流れ込んでトンネル内を満たす。
普段は、その中をブラッドワームが好き放題、泳ぎ回っているのだ。
私たち七菜子チームは、半蔵門線の西半分を
今日作業を行う永田町駅は、青山一丁目駅から半蔵門駅にかけて線路がVの字にへこむ底のあたり、地下十メートルほどの位置にある。
駆除作業の日は、朝から排水ポンプをフル稼働する。一時的にではあるが水位を下げ、ワームどもを浅い“水溜り”に追い込む手はずだ。
私たちは暗闇の地下鉄構内に向かって駆け下りた。
半蔵門線のホームは地下六階。このあたりは台地なので、地表からは三六メートル下に潜る必要がある。
私は暗視ゴーグルを装着した。ワームとの戦闘では携行型のサーチライトを照射するが、起伏がある中を走って移動する際に強すぎる光源は混乱のもとだし、何より七菜子が嫌う。
七菜子は暗闇の中を一見無造作に、肉眼だけで進んでいく。
セブンス・センサーズは、網膜の視細胞が異常発達しており、明暗を感じる杆体細胞の密度が常人の六倍、光の波長すなわち色彩を感じる錐体細胞が一つ多い四種類ある。
これらにより、可視光線の外側にある赤外線や紫外線の一部まで、微量な光電子であっても感知する。
錐体に関係するタンパク質を製造する遺伝子はX染色体にしかない。
セブンスが少女ばかりなのは、男を生むY遺伝子で突然変異が起きないこと。そして長く生きた者がいないことが原因だ。
半蔵門線はまだ水びたしで、ホームに降り立つと、膝のあたりまで海水に浸かった。
排水にも限界があるということらしい。
「光、入れます」
私は素早くサーチライトを設営し、暗視ゴーグルを外した。
七菜子の視界を潰さないように、徐々に明るくする設定になっている。
「来るぞ!」
七菜子が鋭く叫んだ。
私の肩を叩いて、青山一丁目方向に構えるよう合図した。
下り勾配の先に“水溜り”がある方向だ。
私は八四ミリ無反動砲を、いつでも撃てるコンバットレディの体勢に構えた。
サーチライトの出力上昇が間に合わず、私の肉眼には暗すぎて、ホームとトンネル内の全景をぼんやり把握するのが限界だった。
「照準お願いします」
「慌てんな。
とりあえずど真ん中狙って、そのままじっとしてろ」
七菜子はもう一丁のデザートイーグルを取り出した。
彼女は
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