伊賀ヒロシ 「短編集 ~ITO~」

伊賀ヒロシ

エピソード1 ITO

報せが届いた。その瞬間の気持ちは正直「無」だった。


年を重ねても、「友達」とか「恋人」という言葉の意味や感覚的なものがいまいち分かっていないかもしれない。

でも、振り返れば、自分が出会った仲間や昔の恋人の顔がたまに浮かぶ。

思い出せる事のほとんどは「楽しい」事だ。

前向思考なせいか、嫌な事は考えない。

心の中にある嫌な「重い」は消し去ろうとしている。

同じ「おもい」でも自分に必要な言葉だけを残したいのかもしれない。

そう「想い」だけが残ればいいから。


そんな中でも昔の恋人を「男性」という生き物はアルバムの中に残しておけるが、それとは逆に、「女性」という生き物は毎回綺麗に捨てる事が出来る。


結局は動物的な違いだと思う。勿論、人にもよるが。


良い想い出、悪い想い出どちらもあるかもしれないが、今思えるのは

全ての出来事が過ぎ去っていく時間があまりにも早過ぎるという事。

「ついこの間だったのに」と、思う事があまりにも多くなった。

だからこそ、一日が大切と思えるようになったのかもしれない。

目を閉じても、この間まで笑い合っていた姿が思い浮かんでくる。

つまらない事で喧嘩をした事も、意外とそれら全てが笑える出来事だった。


その笑顔が今では「想い出」というアルバムの中だけなんだと、もうそれを他の誰もが見れないのかと考えると、不思議と言葉にならない気持ちが湧き上がってくる。それは虚しさなのか、悲しさなのか、懐かしさなのかまるっきり分からない。

勿論、「友達」や「親」のそれとも違うのかもしれない。

きっとそれは、良い「想い出」だったんだと思う。現に、笑顔しか思い出せないから。


不思議と切れていた縁を、

その出来事が昔の「友達」との繋がりを「ITO」の様に結び付けてくれる。

そして、忘れていた記憶をまた紡いでくれる。

だから、今すぐこの気持ちを言葉にするのは難しい。

きっと今は、友達皆が思い出し、心でお酒を交わしているのだろう。


今度は病気にならない世界で会えると良いよね。


R.I.P






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