第80話 フガク…

 さてさて、ワタシ達は素体としてこれ以上ない謎の航宙艦「フガク」のサルベージを開始。


 重機チームが周囲の氷を破砕し、ユキカゼとワタシでワイヤーを使いゆっくりと引き上げる。強引にやり過ぎると一気に氷の大地が割れ、間欠泉のように地下から氷と水が災害規模で噴き上がる、ここは慎重に。


 氷の下に埋まっていた艦首が姿を現した。ワタシの船体とよく似た鋭利な艦底艦首、そしてその艦首中央から上は引きちぎられたかのように欠損していた。


…でも、どうやらここには何か兵装が備わっていたみたい、痕跡がある、陽電子砲かしら?


 それが兵装だと言うなら、フガクは突撃砲艦なのかしら?、何故なら武装らしきモノはその一門だけ。無人だった事を考えると、実験艦なのかも知れないわね。


 これより引き上げたフガクを曳航し、一路タイタンへと向かいます。


 その前に、虹色サルガッソーに捕らわれたシンデンSS達の位置だけど、β領域深くで停止した事を確認したわ。そこからビーコンを断続的な発信に切り替えていた。バッテリーを温存するつもりのようね、賢い選択だわ。


 さて、ワタシ達がなぜタイタンへ向かうか?、だったわね。

 タイタンで、仮設ベースを構築し、フガクの修復と、ユキカゼの第三次改修を実施します。


 工程は以下の通り。


 フガクの反転重力炉一基をユキカゼに移設する。問題は、フガクにはエーテル加圧炉が無かった点。一度主機を止めた場合、再起動が出来ない仕様になっていた。それがフガクがエンケラドスに不時着した原因と見てる。エーテル炉はユキカゼにも無いので、ワタシがスターターとなり主機を起動する。一度動いてしまえば、そうそう止まるものではないので今はそれで良しとする、ユキカゼを虹色領域に飛び込ませるわけでもないしね。


 そして、フガクの反転重力炉。

 炉体その物はワタシの心臓部と同じ形だけど、補助機器類がかなり大掛かりでムダが多い、動かすために無理やり取り付けた感がある。フガクの船体がそこそこ大型なのはそのせいでもあるわね。

 

 炉の改良はするとして、フガクの船体については大幅に改造予定、同船を「軽空母化」、どちらかと言えば「強襲揚陸艦」へ改修します。そして、シンデンを艦載機として持ってもらう予定。

 そのためにもまず、タイタンに基地を建設、テイラーが10時間ほどで仮設するとのこと、…相変わらず異常なことを言うわよね。ワタシ達は暫く軌道上で待機する間に、フガクを念入りに調べる事に…

 …するとやはり、フガクは無人で土星までたどり着いた事がわかった。航海日誌はないものの、フライトデータをサルベージできた。最初に記録されてる発進地点は月面基地アルファ……ではなく、ラグランジュL5、ワタシ達が最初に異星人の戦闘艦と会敵した場所。

 2105年4月5日1343時にL5を発進…それはワタシが一度この世を去った10年後、その時にもう反転重力炉は存在していたと言う話し。


 フガクは適時地球からのコマンドを受け、火星でスイングバイ、アステロイドメインベルトで主兵装の試験をしてる。試験データは残っていないけど、緊急停止したログだけが残ってた。

どうやら艦首の武器は試験運用時に、なんらかの原因で自損したみたい。まぁ、その部分は後で調べましょう。


そしてフガクは木星へは行かず、次のコマンドで、土星でのスイングバイが予定されていて、そこでフガクは主機トラブルでエンケラドスへ不時着した…と記録されていた。データを詳しく調べると、フガクの航路は、例のα領域を掠めていた。そのタイミングと主機の不具合発生が一致してる。発生原因までは記録されていないけど、自動診断で不具合解消を試みてる。でもどうにも出来ず、そのまま航路上にあったエンケラドスの重力に捕まり墜落した。主機の不具合タイミングを考えると、虹色サルガッソーは、100年前にすでにあった可能性が伺える。


 因みにメイが実施した当時のフガクが辿るはずだった航路シミュレーションでは、フガクは土星で重力ターンをして、地球へ戻る計画だったのではないかと推測してた。その全工程は約7年と、長いのか短いのか……


 失ったフガクについては、当時の人達はさぞ残念だったかと思う。でもご安心を、100年目にして私が再利用させていただきます。

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