第4話 その名は…

 はっ!、なんか怖い夢を見た気がする、でも思い出せない。


 ……あれ?、身体が動かないわ、手足の感覚がない、何も見えない、ここどこ?、声も出ないし、何も感じない


 …ああ思い出した。


 私、死んだ? 死んだのよね? 記憶はハッキリしてる……乗っていたシープレーンに、飛び出して来た潜水艦がぶつかって…機外に放り出されて…死んだのよね?


 いやいや、意識はあるって事は生きてるの?


 …ちょっとー、誰かー、いないのー?


 うう、気持ち悪い、なによこれ、なにこの状況?


 …待てど暮せど何も起きない。


 …ん? 何かが頭の中に流れ込んで来た、情報? 機密情報? 新八八艦隊計画?…、え?なに? 気持ち悪い、物凄い情報が、あ、頭の中に……アタマ? え? 起動シークエンス? はい?


『主管コードを認識しました。起動しますか?』


 え?起動?、あ、はい、YES?


『条件付きで、AIアーキテクチャを統合します』


 統合?、条件付きってなに?

 すると途端に、自分が何者か理解できた。

 語りかけてきた者と意識が一つになった


 補機起動シークエンスを開始

 補機エーテル炉、陽電子インジェクターへの回路開く、エーテル流動ベント開放


陽電子コンデンサーへエーテル供給を開始

 

エネルギー充填80%、90、100、…エネルギー充填120%


補機始動


 作動音、動き出した

 突然視界が開けた。


 でも…ナニコレ? 

 うわ、キモ。

 高い位置からあらゆる方向が見える。

 …どこよココは、見渡す限りの赤茶けた大地。凄い砂塵、…建物の様な物がチラホラ見えるけど……全てが朽ち果ててる。

 2時の方向、すぐ目の前に大きな建物跡。朽ち果てた巨大建造物


え?


 コレどこか見覚えが……あ、これってミナトミライタワー?


 …間違いないわ、上層部は無くなってるけど、台形っぽい土台、ミナトミライタワーだわ!?、え?? 何よコレ!、ココってミナトミライなの!?


 どうなってんのよ!


 っていうか、ワタシの身体は一体どうなってんのよ!!?


 ……


 統合された意識に流れ込んで来た情報を整理した。状況が見えて来た、でも……理解し難い。


 まず、ここは私の過ごした時代では無く、更に先の未来、おおよそ100年後の未来。

 そして、人類は滅亡してた。それも外的要因で。

 今から20年前、地球は外宇宙から侵略して来た宇宙生命体によって、地上における生命体が滅ぼされてた。

 今、この星には動植物と呼ばれるモノが何も存在しない死の星と化してる。


 なら私は?


 私は機械の中にいる。

 細胞組織など無く、完全なる無機質の機械、量子コンピュータに魂が宿った形で、存在してた。


 ありえねー


 ワタシは視界を切り替え下を見た。目の前に見える、赤錆びた2基の連装砲塔。


 ……いやいや、冗談でしょ?


 親友のミカサに借りたラノベを確かに何冊か読みましたよ? 転生モノとか異世界モノとか…

 …うーん、いくらワタシと名前が同じだからって、に転生しますか?


 それもボロボロなんですけど!、海!干上がってますけど!? どうしろっていうのよ!!


 転生先がって、神様!、なんの嫌がらせなの!?


 人類滅んでるんですけど!!?


 ……はぁ、誰に訴えていいのかわからないわ、夢であってほしい。…でも私の魂が宿った演算処理装置が囁く、コレは現実なのだと。

 私は沈没戦艦に搭載された自立型AIと魂が融合してるっぽい。人類が滅亡に至るまでの、経緯が雑多な情報として残されてる。

 そこには地球をボロクソにした地球外知的生命体の事も記されてる。彼らはとにかく地球に対し、一方的に攻撃して来た。話し合いなど聞く耳も持たずに…ムカつくわ。


 …ふむふむ、なるほどなるほど。

 赤錆びたボロボロの沈没護衛艦…いえ戦艦に、なんで超高度な量子コンピュータが載せられているのか、なんで稼働可能なエンジンが積まれているのか、ようやく理解できた。


 その真の姿を開放する時が来たというわけね。


 は既に動いてる、電力供給も十分、を回せるだけのエネルギーは既に確保されてる。


 やってやろうじゃないの。


 この船…いえ私は、赤錆びた沈没戦艦なんかじゃないわ。


私の意思に反応したサポートAIが、再び呼びかけてきた。


『主機始動シークエンスを開始しますか?』


 YES


 補機エーテル炉全力運転

 エーテル流動上昇値最大へ、80、90、95、98、…100

 主機、炉内縮退加圧を開始、臨界まで30秒

 エーテル流動バランスコントロール

 陽電子加速を開始

 重力子へコンタクト

 ……重力縮退を確認。


 主機始動


 何かが回転する甲高い音がを響き渡る、そして静かになった。主機が起動した。私の時代にはなかった超技術。


 主機炉内に重力変動を発生させ、無限に近いエネルギーを発生させる。


 この船は、ただの船じゃないわ


 偽装解除、浮上


 大地に埋没した状態から船体が浮き上がる、赤錆びた外表が剥がれ落ち、私の真の姿が現れた。


 そう、私の名前はこの船と同じナガト


 宇宙戦艦「ナガト」

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