シスターの恋のお呪い

ウイング神風

第1話 シスターは恋のお呪い

 僕は鏡の前に立つ。

 自分の情けない顔が写る。黒髪で変哲もない容姿をした少年が鏡に写る。どこでもいる、特別なような顔立ちではない。

 高校1年性にもなって、まだ顔は子供ぽいところもある。

 でも、僕に春がやってきたのだ。

 ……僕は恋をした。

 相手はとても素敵な人。慈悲深く、女性としてすごく魅力がある人物。幼少期から、僕といつもおしゃべりをして、相談に乗ってくれた人であった。

 僕は彼女に告白しようと思う。

 だから、身だしなみをしっかりとしないといけない。

 人は外見で判断される、と母親もそう言っていた。

 なので、情けない格好をするのは避けたかった。


「お前なら、やれる。鈴木雄太」


 トントン、と僕は自分の胸を叩く。鼓舞するように自分自身に勇気を付ける。

これから好きな人に告白するせいか、緊張感が身体を支配するかのように、身体が硬直していた。

しばらくの間、鏡に佇んでいた。でも、これ以上立っていても何も起きないと思える。だから、僕は重い脚を無理矢理でも動かす。玄関の方へと向かう。

 ピカピカに磨いた革靴を足にはめると僕は扉を開く。


「行ってきます」


 誰もいない廊下に僕は声をかけてから、外へと出ていったのだ。

 この時間は両親は働いているため、僕しかいない。普段だったら無言で家を出る。しかし、今日は特別な日である。心に余裕をつけるために声をかけた。

 心の余裕、というのは大切だ。僕がよく相談に乗ってくれる幼馴染も心の余裕について語っている。心の余裕があれば、何をしてもうまく行くとのことだ。

 脳裏に幼馴染の言葉を思い出しながら、僕は戸締りをする。

 それから、僕は道並みを歩いていく。駅の方へと向かって行ったのだ。

 だがしかし、道の途中に僕はふと、気付く。

 手ぶらで告白したら、つまらない男性だと思われるんじゃないか。

相手はロマンチック主義だ。だから、手ぶらではなく何か雰囲気を出した方がいい。

 というわけで、僕は脚を止めて考え込む。

 ロマンチック主義が好きそうなもの。喜びそうなものはないか、思考を巡らせる。

 そんな時に、僕はある物に目が止まった。

駅前のフロリストだ。店内には様々な花が店の前に展示されて販売されている。どれもこれも綺麗な花が販売していた。


「これなら、ロマンチックだ」


 そう思った矢先、僕はフロリストの中に入る。

色んな花を眺める。どれもこれも綺麗だ。どれを送ったとしても、いい雰囲気にはなるはずだ。

でも、ここはビシッと決まりたい。

なので、僕が選んだのは『イキシア』

 イキシアの花束を購入すると、フロリストから出た。

 そのまま、その脚でとある場所へとやって来る。

 街外れにある建物に僕は脚を止める。

 ここは教会だ。プロテスタント風の教会であり、僕は子供のころらお世話になったところだ。でも、なぜ教会に来たというと、僕はとある人物に会いに来たからだ。

好きな女に告白する前に、知り合いからアドバイスをもらいたかったとのこと。そして、告白相手か来ているか、確認を兼ねてここに立ち寄る。

 すーはー、ともう一度大きく深呼吸をする。

 心の余裕ができたところで、よし、と誰でもない自分に言い聞かせてから、僕は重い扉を押してから中に入る。

 まず、目についたのは大きな十字架。

 ここは礼拝堂。当たり前ではあるが、静かで神秘的な空間が広がっていた。

 両側にある長椅子がずらっと並んでいる。

 ここはいつ来ても変わらない。物事を認知した時から、ここは何一つ変わっていない。

 変わっているのは、大きくなった自分だ。

 余韻に浸っているところで、何か小さな生き物が僕の足にやってくる。

 よく見ると、そいつは片目にギザッと切り傷がある柴犬。

 ここの番犬兼盲導犬の『フツノミタマ』であった。


「ご主人はどうしたの?フツノミタマ?」


 番犬に声をかけると、そいつは、ワン、と大きく吠えると中へと歩いていく。

 そのこの後をついていくと、僕はある少女に出会った。

 ベールを頭に乗せて、黒い衣装を身に纏っている少女。顔立ちはよく、銀色の長い髪がベールから出ているのを見られる。鼻筋を綺麗に整っていて、唇は赤くをさしたかのように鮮やかである。小さな体躯には育っているところは育っていて、引き締まっているところはちゃんと引き締まっている。神秘的に感じる銀髪な髪を持ったシスターは、一番前の長椅子の席に鎮座していた。

 見るものを魅了するかのように瞳を閉じている、綺麗な顔立ちだった。

 でも、その閉じた瞳は開くことはない。なぜならば、彼女の目を見えないのだ。

 僕の気配を察したのか、あるいはフツノミタマが彼女に合図をしたのか、彼女は声をかける。


「フツノミタマ? お客さんですか?」

「ワン!」


 柴犬が大きく吠えると、彼女の足元へと擦ると座り込んだ。

 その柴犬に、彼女はゆっくりと手を柴犬の頭に乗せると柔らかく撫でる。グルル、と心地良く唸るフツノミタマである。

 そしてこのシスターの名前はメアリ・アラン。孤児で、ここに勤めている牧師に拾われ、育った少女だ。子供の頃から僕は彼女とよくお話をしていた。

 メアリは非常に頭がいい女子だ。

 何を話しかけても、彼女は自分が蓄えていた知識で話を行う。

 全知な、頼もしいシスターであった。

 そんな全知なシスターに、僕は助言を求めに来たのだ。

 彼女なら、何かいいアドバイスをくれるんじゃないか、と淡い期待を抱く。

 期待を胸に寄せながら、僕は彼女の隣に座ると挨拶をする。


「こんにちは、メアリ。今日は」

「その声は、雄太さんですか?」

「はい。鈴木雄太です」

「まあ、今日はどういう風回しなのでしょうか? 貴方がここへくるなんて」

「心は来ていないかな?」

「心さんですか?」


 メアリはうーん、と指を頬に当てながら一瞬考える仕草をする

 僕が尋ねた人物は、伊藤心。元気一杯の少女だ。

僕たち3人は幼馴染で、いつも一緒に遊んでいる仲だ。

今日、この時間。彼女がここにいてもおかしくは無い。しかし、どうも姿が見当たらないため、僕はメアリに尋ねる。


「すみません。心さんはお見えになっていないですね」

「そうか……」


 僕は首を落とす。

 どうやら、今日はちょっと無駄足だったようだ。

 本当は心もいて欲しかった。でも、いない者に駄々をこねても仕方がない。

 ここは心が来るのを待とうか。


「じゃあ、心が来るまで僕たちで会話をしましょう」

「ええ。わたしでよければ」


 僕はメアリの隣に腰を下ろす。

 メアリから放たれるジャスミンの匂いが鼻腔に触れる。

 すごくいい匂いだ。彼女を惚れ直そうとしてしまう。


「で、本日はなんのために教会にやって来たのでしょうか?」


 と、僕はそんなことを考えていると、メアリは話題を振って来た。

 はっと我に帰ると、僕は事実を言う。


「恋愛相談しに来たのです」

「恋愛相談ですか?」

「はい」


 僕は返事をすると、彼女は眉間に皺を寄せたのだ。

 思春期の悩みといえば、恋愛はつきものだ。何せ、これは僕の初恋であるから、失敗したくはない。

 よく小説で、初恋は失敗する、と言われるが、僕はそのような体験をしたくはない。

 だから、僕はメアリの知恵を借りたい。


「これから、僕は片思いの少女に告白するんだけど、なんだか、しっくりしなくて」

「なるほど。相手は心さんですね?」

「……」


 僕は沈黙を貫くと、メアリはふふふ、と可愛らしい笑いを浮かべる。

 さすがはメアリ。昔の付き合いでありながら、僕のことをわかっている。

 しかし、メアリはすぐに難しい表情を浮かべると事実を指摘絞り出す。


「残念ながら、私から助言することは何もありません。告白は相手の心情にもよります。心さんが貴方のことをどう思っているのか、わかりません。親しい仲には間違いないでしょうが、それが愛と言えるのか、気になるところです。でも、数字的に言いますと男性からの告白の成功率は43.4%です。なので、その数字に従うのであれば、2回に1回は成功するのでは?」

「すごく不安な数字だけはわかるよ」

「まあ、数字はあくまでも、数字です。そこまで、気にしなくても」

「僕の勇気が籠っているから、そこは嘘でも成功率は100%って言って欲しかったな」

「私、聖女ですから、嘘は言えません」

 

 メアリは意地悪かのようにそう答えると、僕は肩を落とす。

 まさか、全知である幼馴染のアドバイスがまったく役に立たないとは想定外だった。もしかして、告白は成功しないと言っているのでは?

 そんな落ち込んでいる僕に、メアリは声をかけてきた。


「雄太くんは心さんに愛されたいのですか?」


 その質問に、僕は思わずメアリの顔を見た。

 メアリはどこか眉間に皺を寄せていた。どこか、本気にその問いをしているようだった。

 ここは茶化さずに、僕は彼女の忠実に答えなければならない。


「そりゃ、好きな人には愛されたいよ。彼女と一つになりたい、と思っているよ。できれば、彼女と幸せな家族を築きたいと思っている」

「ふふふ、正直ですね。雄太くんは」

「う……だって、事実だもの」


 ふふふ、とメアリは笑うと、フツノミタマに優しく頭を撫でる。

 フツノミタマは撫でられて嬉しいのか、クウ、と泣き出すと大人しくなった。

 この柴犬はメアリ専用の盲導犬である。盲導犬として訓練されてはいないが、メアリの生活を支えてくれている。メアリに取っては生活に欠かせない一匹の犬だ。

 僕はそんなフツノミタマを眺めながら、ちょっとそいつに嫉妬をする。

 と、僕がくだらないことを思っていると、メアリは口を開く。


「実は、この世の中は誰もかもが愛されたい気持ちで溢れています。でも、愛されたいために多くの友人を得て、人々に影響を及ぼす、のが一般回答なのでしょう」


 なるほど。確かにそうだ。

 僕は格好良いわけでもない。イケメンでもないし、頭の回転も良くはない。

 できるがるとすれば、多くの友人を持ち、好意を抱かせるしかない。

 

「しかし、皆、愛されたいという願望を持ちすぎて、愛を見誤っています。こちら側から愛を実践しなければ、相手から好意を抱かれるはずもありません。愛するのは、恋に落ちるではないのです。愛は、技術なのです。愛は知力と努力が必要なのです」

「技術? 愛が? そんな難しい物なの?」

「ええ。とても難しいですよ。愛するには能力が必要不可欠で、その能力を取得するのは容易ではないのです」

「容易ではない?」

「はい。愛には様々な要素がありますからね」


 そう言われると、僕はちょっと自信を失っていく。

 もしも、愛することは容易ではないだとしたら、僕は本当に実践できているのか?

 僕に知力と努力を身についているのだろうか? ちょっと不安になってくる。

 そんなことを悩んでいると、僕はふっととあるのことに気づく。

 現に、僕は恋をしている。詩人が歌ったのように、恋は落ちる物だと。

 だから、僕は自分に思っている疑問をメアリに尋ねる。


「でも、恋とは落ちる物ですよね?」

「それは大きな勘違いです。恋は落ちる物だと、誰かがそう考えています。しかし、そんな恋は長続きしません。一瞬の愛心は幻のように消えた無くなります」

「じゃあ、僕が抱いているこの恋心も嘘偽りだということ?」


 もし、彼女の言葉が本当なら、僕の恋は消え去る。

 僕が抱いている感情は単なる胸の高鳴りで夢幻な物だのだろうか?

 そうなると、何だか嫌気がさしてくる。だって、この気持ちが本当ではないと訴えているような物だから。

 思っている気持ちは長続きしないとなると、人間はなんのために生きているのか、わからなくなる。切なく感じた。


「それでは、確かめてみませんか? 貴方は愛の技術を取得しているか?」


 そういうと、メアリは手を僕の方に差し伸べる。

 僕は彼女の手に触れて、包むように抱える。

 そんな小さな手なのに、暖かくて、力強いオーラを感じとる。

 メアリは僕より大人びているのだと、改めて思い知らせる。同じ歳なのに、どうしてこうもこんなに違うのか、不思議でしょうがない。


「愛は能動的なもの、落ちるのではなく踏み込むのです」

「踏み込む? えっと、愛はアプローチすることなのかな?」

「はい。それは間違いありません。しかし、愛はとは愛を生む力です。愛することで、相手から愛を得られます。なので、その愛している気持ちを素直になってください」


 メアリは微笑むと、僕は思わず顔を背ける。

 盲目で、目が開けないだからとはいえ、彼女の笑顔はとびっきり綺麗なのだ。

 メアリ以上に、こんな綺麗な笑みを浮かべるものはいない。


「それから、愛は4つの要素からできています」

「4つの要素?」

「はい。それは、配慮、責任、尊重、知であります。その要素は互いに依存し合っています。人を配慮すれば、自然に責任がわきます。責任がわけば、相手を尊重します。尊重するためなら、相手のことをよく知る事になります。なので、知が生じます」

「なるほど。確かにその4つの要素は依存し合っているね」

「その通りです」


 僕はメアリの言葉を反復しながら、考える。

 この4つの要素に僕は持ち合わせているのか? 

 僕は好意を抱いている人にその4つの要素を持ち、行動に移せているのか、気になる。


「この要素を持って、特的な人に向けるために努力すれば恋は叶うって事でいいのかな?」

「愛は特定の人に向ける。実は、誰もがそう思っていますが、実はその考え方は誤りな考え方なのです」

「誤り?」

「はい。そうです。愛とは技術ですから、技術を習得するにはかなり鍛錬が必要になります。芸術と例えてみましょう。絵を描きたいと思っているくせに、絵を描く技術を習おうともせず『正しい対象が見つかるまで待っていればいいのだ、一度見つかりさえすればもごとに描いてやる』と言い張るようなものなのです」


 う、痛いところをつかれる。

 最初は僕は告白相手に愛されたいと思っていたが、自分が正しく対象を愛しているのか、迷い出す。

 僕はそんな4つの要素を身近な人に対応できているか?

 メアリに、配慮、責任、尊重、知を抱いているのだろうか? 自問自答して見る。結果、そんなにできていないじゃないかな、と思われる箇所が多々ある。

 なぜならば、愛はかなりの労力は消費されるのだから。

 だから、僕はメアリに続いて訪ねてきる。


「でも、何でもかんでも愛するのはかなりの労力が必要なのではないかな?」

「はい。でも、愛とはそういうものなのです。愛は自由の子ですから、支配の子ではありません」


 メアリは自分の手を胸に当ててから、名言を言い放つ。


「それに、全てを愛し、世界を愛し、生命を愛することで、貴方は勇気と自信を持って好意を抱いている相手に『貴方を愛している』と言えるのです」


 それはあまりにも慈悲深く、マリアテレサのような愛が溢れ出しているのを感じ取れる。

 そうだ。全てを愛せば、世界を愛せば、生命を愛せば、僕は心を通わせている人に愛しているだ、って勇気を持って告白できる。

 なんだ、簡単じゃないか。なんで、こんなことをできないのだろうか?

 それは自分に愛の技術が足りていないからかもしれない。

 

「うん。ありがとう、マリア。僕は、勇気をもらったと思うよ。愛について色々と教えてくれてありがとう」

「どういたしまして。こんな私でもお役に立つことがあって嬉しいわ」

「うん。ありがとう。メアリ。すごく助けになったよ。そうだ、僕は全てを愛せば良いんだ」

「はい。その調子で頑張ってください。では、私はここで……」

「いや。まだ、話は終わっていないよ。メアリ」


 メアリが立ち去ろうとした時に、僕はメアリの腕を掴む。

 彼女は怪訝そうな表情を浮かべながら、再び長椅子に腰をかける。

 フツノミタマは僕の足をぺろぺろと舐め出す。まだ、会話は終わっていないの、ご主人様、と言いたそうな表情を浮かべていた。


「ごめんね。フツノミタマ。これから、僕はメアリに大事な話があるんだ」


 僕はフツノミタマに謝罪をすると、彼はクー、と鳴き出す。

 本当にわかりやすいこだ。ご主人が独占されているのを寂しく感じていたのだろう。

 もしかすると、こいつはこの後の展開をわかっていてそうやっているのか、ちょっと気になる。

 でも、ここまで来た以上に。僕は後退するわけにはいかない。

 賽は投げられた、なら行動に移すのみだ。

 一旦、僕は深呼吸をすると、眉を顰めてから彼女の方に向かって視線を送る。

 すると、彼女は何が何だか、まだ理解していないのだ。


「まだ、何か相談したいことがあるのでしょうか?」

「あ、うん。そうだね。相談っていうか、伝言というものかな?」

「なぜ、そんな堅苦しくなるのですか? おかしな人ですね」


 くすくすと口を緩ませながら、笑い出すメアリ。

 僕はその表情は昔から好きだった。目が見えないのに、笑顔だけは綺麗で誰にも比較できないほどで、魅力的な少女。

 勇気を振り絞り、僕は口を開く。


「好意を寄せている人についてなんだけど……実は彼女はもうここにいるんだ」

「え?」


 そう、この教会に彼女はいる。

 彼女は僕の幼馴染で、物事を覚えた時から、彼女と一緒にいた人。彼女は全知でありながらも、ロマンチック主義な女の子。いつも僕の相談に乗ってくれて、良いアドバイスを送ってくれる人。

 その彼女とは……僕の幼馴染、メアリだ。

 ……心ではない。


「メアリ。どうか、僕と付き合ってください」


 そう言いながら、僕は後ろに隠していた花束をメアリに差し出す。

 メアリは一瞬の出来ことに混乱する様子が窺える。

 素っ頓狂の顔をしていた。目は開いていないが、眉毛がへの字になっているのが見えた。

 それから事態のことを理解できたのか、彼女は茹でタコのように全身真っ赤に染まり出すと共に口をあわわとぱくぱくと痙攣するかのように閉じたり開いたりしていた。

 本当に、可愛いものだ。想定外には弱い彼女。でも、そんなところが愛しいところでもある。


「え、え? 心さんではなく? 思い合っている相手とは私のことですか?」

「ああ。そうだ。僕は君に恋をしているんだ。実は心の前で告白しようと思っているけど、彼女がいなければ仕方がない」


 そう。僕は心の前にメアリに告白したかった。

 理由は単純。僕たち3人幼馴染は昔はよく一緒に居た。

 仲間外れをしないように、心の前で告白しようと思った。

 でも、現に心はここにはいない。なら、仕方がない。心には事後報告するしかない。

 僕は跪き、告白していると、メアリはあわわ、とパニクっている。


「で、でも、私はシスターですよ? 恋愛することなんて……」

「プロテスタントにシスターは存在しないよ。ルターは聖書さえあれば、誰でもは神につながっていると主張している」

「で、でも、私は目が見えないのですよ? 魅力的がない女です」


 メアリは早口になると共に自分のことを卑下した。

 でも、僕は知っている。メアリはすごく魅力がある少女だ。

 第一に、頭の回転が早い。いろんなことを話していても、彼女は気配りができる。人を配慮することができる。

 第二に、彼女の知識深い。確かに目は見えていないが、いろんな本を読んでいるのを知っている。今は朗読アプリで本を読んでいたりもする。

 第三に、彼女の容姿はすごく綺麗だ。昔と変わらず、彼女はサラサラと長い銀髪の髪に、スッと高い鼻腔。整った顔は日本にはあまり見当たらない、妖精の如く感じられる女の子だ。

 この3点があるから、僕はメアリに惚れた。

 たとえ、目が見えなくても僕は彼女に恋をする。彼女以上にこんな完璧な人はいないのだろう。僕が恋をするのは彼女以外考えられない。


「メアリ。君は、君が思っている以上にすごく魅力的な女の子なんだよ?」

「う、うう……ひ、卑怯ですよ。雄太くん」

「ははは。僕はいつも卑怯なんだ。不細工だからね。ごめんね、メアリ」


 僕は大声で笑うと、メアリはモジモジと身体を動かす。

 きっと、恥ずかしくて爆発しそうになっているのだろう。

 数秒後に落ち着きを取り戻したのか、メアリは僕の方に手を差し伸べる。


「どうか、貴方の顔を触らせてください」

「いいよ。メアリ」


 僕は彼女の手に触れて、自分の顔に当てる。

 メアリは僕の顔を触れると、ペタペタと顔の全体を触れる。


「雄太くん。貴方、嘘をつきましたね。貴方は不細工ではなく、イケメンですよ?」

「触っただけでわかるの?」

「ええ。大体は。顔の形、目の位置、鼻の高さ、唇の形で大体わかります」

「さすがはメアリ」


 冗談を語るように僕は笑う。

 さすが、生まれつきから目が見えないだってある。

 メアリは手の感触でしか外部の情報を得ることしかできないのだ。

 だから、生まれて時から、彼女は正確に指や手の感触で全ての情報を得ていた。

 メアリが想像する僕の顔と実際の僕の顔に差異がないと言えば嘘になるのだろう。だから、メアリが思うイケメンとはどういうものか、僕は気になった。

 そんなことを考えていると、メアリは震えた声で尋ねてくる。


「雄太くん。いいのですか? こんな私で?」

「君じゃなければダメだ。僕は君に恋している。君と一つになりたいだ」

「そ、そんなことを面と向かって言われても、恥ずかしいですよ」

「大丈夫。ここには僕と君以外誰にもいない。ああ、フツノミタマがいたか」


 僕を忘れるんじゃない、というように、フツノミタマはワンと大きく吠える。

 ごめんごめん、君を邪魔者扱いしていないよ。君ももちろん、僕の大切のパートナーだ。


「わかりました。貴方がそんな覚悟を持っているなら、私はそれに応えなければいけませんね」

「うん。そうだね」


 すーはー、と彼女は大きな深呼吸をすると、顔を僕の方に向ける。目はないが、彼女は僕を見ているように感じられた。これは彼女の本気なのだろうと、僕はそう思えた。

 そして、彼女は僕の告白の返事をする。


「私でよろしければ、はい。喜んで」


 メアリが答えると、僕は微笑む。

 43.4%の告白に成功したのだ。

 僕の胸の鼓動は高鳴り、喜びの舞を踊り出す。ずっと片想いだった幼馴染が恋の告白をしてくれた。これ以上の幸せはどこにあろうか、と僕は涙がポロリと落ちる。


「ありがとう。メアリ」

「こちらこそ。雄太くん」


 メアリは花束を受け取ると、それを嗅ぐ。

 鼻の香りは僕の鼻腔まで触れてくる。いい匂いだ。あのフローリストに購入して正解だと、今は思う。


「あ、あの。雄太くん」

「何かな?」

「私、一つの夢があるの。叶っていいかな?」


 彼女はまたも身体をモジモジと動かしながら、顔を真っ赤にする。

 それはまるで恋する乙女のようであったのだ。

 そんな乙女らしい彼女に僕は惚れ直す。


「好きな人とキスをするの。いいかな」


 僕は惚れていると、メアリは僕が願ってもいないことを語り出す。

 メアリは「い、今のは忘れてください」と言ってから顔をそっぽをむく。

 でも、僕はそんな彼女の表情を逃がさない。だから、僕は手を差し伸べメアリの顔に優しく触れる。

 そして、返事をする。


「いいよ、メアリ」

「あ……」


 僕はそっと、メアリに顔を近よせる。

 メアリも顔を前へと差し出す。

 お互いの唇がちゅと、触れ合う程度で僕たちは接吻したのだ。

 あまりにも優しい接吻に僕たちは幸せに浸る。

 でも、僕はまだ恋を熟練していない。これから、僕は愛を鍛錬しなければいけないのだ。


「この後は、結婚してからね」

「うん。この後は結婚してから」


 僕たちは約束を交わしながら笑い合う。

 これから僕たちに何が起きようとも、僕たちの恋は絶えることはない。

 なぜならば、僕は愛のことを知った。

 愛は技術だ。そして、努力と知が必要なんだ。

 これから努力して、僕はこの技術を鍛錬していき、世界を通して、また彼女に勇気を振り絞って「愛している」と告白する日まで。僕は鍛錬し続けるのだ。

 

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