第35話 幕間~宰相視点~

 私の名は、アルセリア-バーグ。


 このベルモンド帝国の宰相にして、侯爵家の当主だ。


 絶大な権力と、武力を行使できる存在である。


 そう今なら……自分の望みが叶う。


 「ようやく、ここまできた。ここまでくるのに長かったものよ……」


 自国を追われて魔の森で迷い、死にそうになりながらもなんとか生き抜いた。

 これも、私には使役魔法の才能があったからだ。

 だから、魔の森でも生き残ることが出来た。

 いや、魔の森で迷ったから開花したと言ってもいい。

 とある古代遺跡にて、強力な使役魔法を覚えたのだ。


「それと、解読できない古文書もいくつか手に入れた。あれらをもっと解読できれば計画も前倒しに……いや、焦ってはなるまい」


 私は誓った……私を追い出した奴らに復讐すると。

 だが、そのためには力が必要だ。

 所詮一人では、どうにもならない。


「なので、絶大な権力をもつアルセリア侯爵家に目をつけたというわけだ」


 代々、多くの当主が宰相を務めていた。

 まずは使役した魔物を使い、侯爵家家族が遠出をするという情報を得た。

 五人家族で夫婦、長男次男、長女の家族だ。

 そこを自分の魔物に襲わせて、自分が救出するという自作自演をした。

 もちろん護衛の兵士や、当主以外の男は殺した。


 「ただ、誤算だったのは魔の森で使役した魔物はほぼ全滅してしまった。流石は侯爵家の騎士達といったところか」


 私は護衛達が全滅するのを待ち、そこで助けに入った。

 そっからは簡単なことだ。

 命の恩人ということで、すぐに気に入られた。

 そしてうまく立ち回り、長女の婿となることができた。


 「その後侯爵家を牛耳り、義理の親と嫁を事故死に見せかけて始末した」


 産まれた娘は、母親に似て容姿が良かった。

 こいつは使えそうなので、とっておくことにしたのだ。

 

「その後は侯爵家の力と、私の力で精力的に活動した」


 邪魔になりそう奴の弱みを握り、場合によっては消していく。

 この国では使役魔法がほとんど知られていないので、色々と容易である。

 しかし……なんと平和ボケした国……いや、皇都だと思った。

 自分達の平和が、当たり前にずっと続くと思っているようだ。


 「……まあ、私はやりやすかったからいいがな」

 

 ある程度時が経ち、私は古文書をある程度解読した。

 そして歓喜した……この力が手に入れば、大陸の覇者にすらなれると。


 「それで、まずは計画を立てることにした」


 そのために、カイル皇子に取り入り、皇太子になれるように尽力した。

 こいつが、一番扱いやすそうだった。

 現皇帝は女にしか興味のない奴だから、こいつも扱いやすい。

 そして、宰相まで上り詰める。


「だが、ここからが本番だった」

 

 そう、まだ古文書の解読は完璧ではない。

 目的の女であるカグヤ嬢を、近くで観察したい。

 なので、耄碌した前皇帝に話を持っていった。

 カグヤ嬢を、皇太子の婚約者にどうか?と。

 辺境伯の裏切りを避けるためにもと。


 「そして、計画通りにいった」

 

 その後、ようやく解読をしたのだが……。

 古文書によると、もっとも愛した者の死によって目覚めると書いてあった。


「どうする? 皇太子とは仲が悪いから、ありえない」


 ただまだ幼いから、少し様子を見るとしよう。

 さすがに私では、歳が違いすぎる。

 最終的には、私のモノになってもらうがその前段階の話だ。






 それから数年が経った。

 カグヤ嬢は、相当真っ直ぐな性格のようだ。


 「あれでは、皇太子とは相思相愛にはなるまい」


 カグヤ嬢が愛した皇太子を、殺すという計画は見直しとなった。

 そんな時だった……東の国境で、白い虎と呼ばれる男の噂が流れてきたのは。

 私は気になり、色々と調べてみた。

 そして、再び歓喜する。


「そうか! 生きていたのか!」


 一時期仲の良い幼馴染がいたということは、情報として知ってはいた。

 だが、追放後の足取りはわからなかった。

 まるで、誰かが邪魔をしたように……なので、とっくに死んだと思っていた。

 そして詳しく調べるうちに、色々な事実も発覚した。


 「これは、本人が知っているか聞く必要がある」


 よし、娘を利用してカグヤ嬢を死刑にもっていこう。

 もちろん、実際にこなかった場合は、私の方で手は打っておく。

 本当に死なせるわけにはいかないからな。


 「そして、結果は大成功だった」


 これで、東の国境の問題も解決した。

 あとは、私の方でコントロールをしよう。

 まだ、均衡を保たなくてはいけない。

 

「カグヤ嬢も、命がけで助けた幼馴染に悪い感情は持つまい」


 うまくいけば、愛するかもしれん。

 使役している鷹を使い、あとを追っていく。

 すると、すぐに気づいた。


 「……いや、すでに相思相愛だな」


 これならいける……よし、計画を立てるとしよう。

 フフフ、待っていろ……。

 クロウ君……すまないが、私の計画のために死んでくれたまえ。









 だというのに……何故だ!?

 どこで間違えた!?


「ガァァァァァァァ!」


 痛い! 痛い! 痛いィィィ!

 目がァァァァ! 私の目がァァァァ!


「宰相様!? どうなさりましたか!?」


 騒ぎを聞きつけ、護衛の騎士達がやってくる。


「ひ、光魔法を! 早くしろ!」


「はっ! ただ今、連れてまいります!」


 お、おのれェェェェ!


 だ、ただじゃすまんぞ……!


 カグヤ嬢は、必ず手に入れる!


 そしてクロウ、貴様だけは許さん……!


 カグヤ嬢の前で四肢を斬り——惨たらしく殺してやろう!

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