第25話 冒険者登録

 その後、朝食を済ませた俺は、宿の入り口近くにある共有スペースで紅茶を飲んでいる。


『お風呂に入ってくるからそこにいて!言っておくけれど、クロウがいるのが嫌だからじゃないからね!ただ、恥ずかしいだけなんだから!』と言われてしまったからだ。


 女性には風呂上がりにも支度があるらしい。


 「ふむ……女心とは、よくわからん。だが、好都合でもある」


 俺もシャワーの音とか聞こえたら、ドキドキしてしまう。

 湯上がり姿とか、冷静でいられるか。

 それに、これからのことを考えなくては。


 「まずは、追っ手が来るかどうか。そして、来るとしたらいつ頃か?」


 少なくとも、一週間くらいは平気だろう。

 その間に、体制を整えたいところだ。


「……そのためには、まずは金がいるな」


「クロウ、おまたせ」


 振り返ると、湯上りの美少女がいた。


「おう、カグヤ……うん、可愛いな」


「にゃ、にゃ……」


「くく、また猫がいるな」


 カグヤを下から上まで眺めてみる。

 普通の女の子が着るような、赤のワンピースを着ていた。

 いつも下ろしている紅髪を、ポニーテールにしている。

 ……うん、こういう格好も似合うな。


「う、うるさいわね!」


「はいはい、悪かったって。ところで、それどうしたんだ?」


「エリゼが持たせてくれたの。その方が溶け込めるって」


「俺が買おうと思っていたが、必要なかったか。感謝しなくてはな」


「あと、クロウにもあるわよ? ほら、いくわよ!」


「はいはい、わかったよ」


 俺は、フリフリと揺れるポニーテールを眺めながら歩くのだが……超絶可愛い。

 まさか、俺がポニーテール好きって知ってのことか……まさかな、そんなわけない。

 部屋に入ると、そこには青を基調とする騎士服のようなものがあった。


「これは相当良いものだな……エリゼが、これを俺に?」


「ええ、そうよ。エリゼが持っていた秘蔵品らしいわ。その効果は丈夫で破れにくく、自動修復されること。そのマントは、ドラゴンのブレスさえ軽減できるそうよ。エリゼが『照れ臭いので、お嬢様からお渡しください』って。あと……その……」


「いや、わかった。これをやるから、カグヤをきちんと守れということだな?」


 言わずとも、それくらいはわかる。

 カグヤを守ることに関しては妥協しない人だ。


「う、うん。それと『お嬢様に無理強いしたら殺す』って……」


「どういう意味だ? 俺が、そんなことをするわけがないだろうに」


「そ、そうよね! クロウは待っていてくれるわよね!」


「……よくわからんが、待つとも」


 相変わらず、女心はよくわからん。

 戦場にばかりいたからな……これから、学んでいかなくては。

 早速、着替えてみる。


「よく似合っているわ! か、格好良いと思う……」


「そうか、ありがとう。ほう、伸縮性にも優れているか。これなら、無茶な動きも可能だな」


「それで……これから、どうするの?」


 カグヤの問いに、先程考えていたことを思い出す。

 結論は変わらず、何よりもまずお金がいる。


「とりあえず、冒険者登録というものをしてみる。何をするにしても、稼がないことには始まらん」


「わ、私にもできるかしら……?」


「カグヤを危険な目に合わせたくないから、登録はしなくても……」


「そうしたら私、一人で待つの……? 私を置いていっちゃうの……?」


 そう言い、寂しそうに上目遣いをしてくる。

 それは反則だァァァァ!


「ク、クロウ……? やっぱり、迷惑かな……」


「いや、そんなことはない。 そういう意味でなくてだな……心配だから側にいるに決まっている。ただ、冒険者登録はしなくてもいいかなということだ」


「私だって役に立ちたいわ。それにクロウがいれば、何があっても平気だもの……わ、私を守ってくれるのでしょう?」


 何ということだ、こんなに信頼してくれているとは。

 裏切るわけにはいかない……今まで以上に強くならなくては!


「わかった、安心してくれ。何があろうと、必ず守ってみせる」


「クロウ……うん!」


 話し合いも済んだので、カグヤを連れて街並みを歩く。


「わぁ……凄いわ! 人がいっぱいね!」


「人が多いのが珍しいのか? 王都では、どうしていたんだ?」


「んー……お稽古事とかお勉強とか、魔法の修行ばかりであまり出歩けなかったわ。一応皇太子妃候補だったから、外へ出してももらえなかったしね。それに友達もいないし、皇太子もアレだったから……」


「そうか……わかった。カグヤの行きたいところなら、何処へでもお供しよう」


「クロウ……そうね!クロウとならどこでも楽しいわ!」


 俺はその笑顔を見るだけで、心が温かい気持ちになる。

 そうだ……俺は、これが見たかったんだ。

 その後、冒険者ギルドの看板を掲げた建物を発見する。

 二階建ての建物で、割と敷地面積も広そうだ。


「ここが冒険者ギルドか」


「ド、ドキドキするわね」


 とりあえず、中に入ってみる。

 すると、


「さて……ほう? 意外と綺麗だな」


「そ、そうね。酒場みたいなものを想像してたわ」


「いや、帝国ならそれで合っている。ふむ、お国柄というやつかもしれん」


 中は割と広く、清潔感のある空間になっている。

 テーブルと椅子がいくつか置いてあり、人々が談笑している。

 騒がしくはあるが下品な感じではない。

 そのまま受付に向かい、女性に声をかける。


「すみません、少しよろしいでしょうか?」


「はい、なんでしょうか?」


「最近この都市に来まして、冒険者登録をしたいのですが……」


「もしかして、その出で立ち……申し訳ございません! 少々お待ち頂けますか!?」


「え、ええ、構いません」


 すると、女性が慌てて奥に行く。

 そのまま扉を開けて、中に入っていった。


「何かしら?」


「わからん」


「ねえねえ、この紙になにか書いてあるわ」


 暇なので二人でテーブルの上にある紙を覗き込む。


「なるほど……冒険者ランクというやつか」


 「えっと……上から順に、白銀等級、黄金等級、銀等級、鋼等級、銅等級、鉄等級、名無しとランクがあるのね」


「ああ、そうみたいだ。なになに……鋼等級まで行くと一人前と見なされ、それ以降はベテランの域となる。掲示板に貼ってある依頼をこなしたり、冒険者ギルドからの指定依頼などをするとランクが上がると……なるほど」


「じゃあ、クロウと私は名無しからってことね」


「そうなるな。ランクが上がれば報酬も増えるから、急いであげたいところだ」


 それを眺めていると、お姉さんが慌てて戻ってきた。

 その手には鋼色のカードがある。


「お、お待たせいたしました!こちらが貴方の冒険者カードです! ランクは鋼等級とます!」


「クロウ……名無しじゃないわね?」


 カードには、鋼等級という文字がある。


 一体、どういうことだ?

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