第17話 カグヤ視点

脱衣所で服を脱ぎながら、私はようやくこれまでのことを振り返る。


流石にエリゼも脱ぐところは見ないでくれるので、久々の一人の時間だった。


 「クロウは凄い……それに、カッコイイ」


 颯爽と現れて、物語みたいに私を助けてくれた。

 戦えば一騎当千の力を発揮し、相手を蹴散らしたり……。

 おかげで私は何もすることなく、お父様やエリゼと再会することができた。

 私は、ちっとも役に立てない……私は、クロウのために何ができるのだろう?


 「屋敷についてからも、クロウは凄かったわ」


 前は、ボコボコにされていたエリゼと互角以上になったり。

 お父様とも、対等に話をしていたり。

 私はカッコいいなと思いつつも、中々態度に出せない。

 全然可愛くない……もう! 自分が嫌になるわ!


 「でもそんな私に、クロウは可愛いとか言ってくるし……その度に、私がドキドキしていることなんか知りもしないんだから」


 でも、嬉しくて飛び跳ねたい気持ちになる。

 だって……ずっと、好きだったもの。





その後、服を脱いで、エリゼが待つ浴室に入る。

  素直になれない私は、お風呂で相談をすることにした。


「ねえ、エリゼ」


「お嬢様、いかがなさいましたか? 痒いところがございますか?」


「ううん、違うの。あ、あのね……やっぱり、クロウが好きなの」


「チッ、やはり殺すか」


 今にも飛び出しそうなエリゼを必死で止める。

 本当にやりかねないから怖いのよね……。


「ダ、ダメよ!」


「……仕方ありませんね、我慢しましょう。あのクソ皇太子よりは、幾分かマシですし」


「ホッ……でね、好きなのに恥ずかしくて言えないの……そもそも、好きになって良いのかな?」


 私は一度、皇太子の妻となると決めた。

 クロウが好きだったのに……そんな私が、こんな状況になったからといって良いのかな。

 ふと見ると、エリゼが歯を食いしばっていた。


「やはり、殺しますね」


「だからダメだってば!」


「グヌヌ……クロウが憎い……!」


「相談相手を間違えたかしら? でも、エリゼが一番信頼できるし」


「私が一番……! 仕方ありません、ここは我慢しますか。それで、どうなさりたいのですか?」


 ……どうしたいんだろう?

 とにかく、お礼は言いたい。

 私ってば、全然素直じゃないし。


「好きって言うのは、難易度が高いの……それ以外で、どうしたら気持ちが伝わるかしら?すっごく感謝しているのに、ありがとうとしか言えないの」


「まあ、クロウはお嬢様を溺愛していますから。ありがとうとさえ言っておけば、馬車馬のように働くと思いますが……そういう話ではないわけですね」


「にゃい!? で、溺愛!?」


 そうなの!? 可愛いとかは言われたけど……。


「もしや、気づいてなかったと……少し不憫ですね。まあ、クロウが上手く隠しているのでしょう。お嬢様が、気を遣わないように……悔しいですが、中々の男になりましたね」


「えぇ〜!? そ、そうなの!? 私、えっと、その……私も大好きなの」


「まあ、言わなくてよろしいかと。多分アイツ……すぐにでもお嬢様を襲ってしまうでしょうから」


「お、襲う!? それってそういう意味よね……?」


 それって、男女のアレというかこれというか……暑いよぉ。

 私が両手で頬を押さえていると、エリゼが真面目な顔で頷く。


「ええ、そういう意味です」


「それは困るわ! 嫌じゃないけど、まだ早いというか……」


「その照れ顔見せただけで、猛獣と化しますね」


 猛獣!? ……少し見てみたいなんて……違う違う!


「ど、どうすればいいの!?」


「自然体で良いと思います。お嬢様の余裕ができたら、少しずつ伝えていけばよろしいかと。そしてクロウはお嬢様に無理強いはしません」


「……そんなので良いのかな? クロウは、私のために頑張ってくれているのに……」


 私は何も返せてない。

 それどころか、迷惑ばかりかけちゃってる。

 それなのに、自分本位ばかりなのは嫌。


「クロウはそんなことは思っていないでしょうね。私もそうですから。ただ、どうしてもとおっしゃるのなら……できる範囲でいいので、支えてあげればよろしいかと」


「支える……? でも、私は戦えないし……」


「何も戦う事だけが、支えることではありません。料理を作ったり、疲れを癒したり、掃除をしたり、支える方法は様々です」


「言われてみれば……あれ? でも、そのためには一緒に暮らさないと……」


「一緒に暮らさないのですか? だって、見ず知らずの土地で二人きりですよ? いくら敵対感情が少ないとはいえ、女性の一人暮らしは危ないかと」


「それは言えているわね。でも一緒にって……は、恥ずかしい……私、寝顔とか絶対可愛くないもの」


「大丈夫です、可愛いですから。それに、何も一緒に寝るとは言っていませんしね」


「そ、それもそうね! よーし! 私、頑張ってみるわ!」


 その後、お風呂を済ませて廊下に出ると、クロウがいた。


 クロウも、風呂上がりのようだった。


 上半身は裸の状態で、タオルを肩にかけている。


 かっこいい……腹筋が割れて綺麗。


 わ、私は、アレに襲われちゃうのかしら!?


 ど、どうしよう?抵抗できなかったら……こんなにドキドキしてる。


 私は深呼吸をして、平静を装って声をかける。


 そしたら可愛いって!


 私は嬉しさと恥ずかしさでどうにかなりそう。


 身体が熱い……お、お風呂のせいよね!?


 さっき覚悟を決めたのに、私は逃げるようにその場を去ってしまうのでした。

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