第12話 三に始まり三に終わる

──俺たちの友情は三角形の形をしている。そんな気付きを得られたのが、本日の収穫であろう。


「んー、初日も終わったねぇ」

「そっすね」

「短いはずなのに、中々濃く感じる一日でござったな」

「誰のせいなんでしょうね?」

「「「お前」」」

「いや、凛太郎以外の全員でしょ」


 それはそう。俺と日下部君以外、キャラ濃いもんね。俺は俺で悪ノリしちゃったし。やっぱりこのクラス駄目ね。


「それで皆、今日はどうするの? 一応、外出届け出せば遊びに行けるっぽいけど」

「荷解きまだ終わってないんで、その続きを」

「豊久氏と同じく」

「俺も」

「あー、俺も全然やってねぇわ。流石に今日中に終わらせねぇと」

「俺は……自分の部屋でゆっくりしようかなって。荷解きは終わってるんですけど」


 本当に凛太郎君以外は駄目かもしれない。ズボラな男子高校生が出ている。


「キミら本当にさ……。なんで一人しか荷解き終わってないわけ?」

「そういう飛鳥さんは?」

「ボクは荷解きが必要なほど、荷物を持ち込んでない」

「それはそれでどうなんすか?」


 聞けば洋服類がちょっと多いぐらいで、あとは最低限しか持ち込んでいないらしい。生活に支障が出なければ問題ないとのこと。


「今の世の中、スマホとパソコンがあれば、娯楽方面はなんとかなるしね。あとは寮の備え付けのアレコレがあるし」

「……まあ、無駄に新しいですもんね。俺たちの寮」


 性転換病が世に放たれてから建造されたので、新しいのは当然と言えば当然なのだが。しかし、それを抜きにしても、かなり上等な部屋を与えられたなというのが正直なところ。

 まあ、理由は分からなくはないのだ。性転換者は基本的に繊細らしい。ここにいる面々が、一人を除いてドブ川の鯉かってレベルで図太いから勘違いしそうになるが、あくまで俺たちは例外側なのである。

 その大半は、いつメス堕ちしてもおかしくない程に精神的に不安定。俺たちがドブ川の鯉なら、その他の人たちはネットミームのマンボウである。大体の性転換者はそれぐらいストレスに弱い。……実際のマンボウはそこまでか弱くないそうだが。

 そんなわけで、設備面にもある程度のクオリティが求められるのである。日々のストレスが積み重なってメス堕ち、なんてことになったら目も当てられないから。


「正直、下手な大学生の一人暮らしより、QOLは上だと思うよ? 部屋はそこそこの広さで、小さい冷蔵庫や洗濯機とかもちゃんとある。浴室も付いてる。しかもユニットバスじゃないのが」

「風呂は俺らの身体的に仕方ないにしても、他は確かに凄いっすよねー」

「学生寮なんて、本来は集団生活が基本。それがないのは、陰キャの一人としてはありがたいことこの上ないでござるよ」

「大半が自分の部屋で完結するようになってますしね。それでいて、食堂もしっかり併設されてるのはありがたいです」

「飯ってどうなってんだったか?」

「えっと、決められた時間内ならいつでも。それ以外は自分でなんとかする感じ、かな?」


 こうして挙げていくと分かる。まさに至れり尽くせりである。まあ、わざわざ性転換者専用の寮を建ててる時点でって話ではあるのだが。

 しかし、これやっぱ凄いよなぁ。だって実質タダなんだもん。国がどれだけこの不思議現象の解明に本気なのかが分かる。


「でもこれ、世間にバレた時が怖いですよね。贅沢だー、税金の無駄遣いだーって叩かれそう」

「その場合、ボクらの難病カードとマイノリティカードが火を噴くから大丈夫だよ」

「改めてそう言われると、かなり碌でもないでござるな……」

「いや、正当な権利でしょ。ボクら、立場的にはモルモットでもあるんだから。対価を奪われそうになるのなら、しっかり抗わないと」

「モルモットはぶっちゃけすぎだと思います……」

「そうですもっと高級です」

「そういう話じゃねぇよ」


 コスト的な意味では間違ってないと思うけどね。モルモットにはここまで金掛けんし。

 実際、ボロい取引ではあると思う。定期的に血を抜いたり、MRIとかでデータ取って提供するだけで、各種補助金がガッポガッポなわけで。

 これを身を切っていると判断するか、制度に寄生していると判断するかは、やっぱり人によるよねって。

 一応、俺たちの貢献で未来の少年少女たちが救われる可能性があるし、それ以外でも何かしら技術のブレイクスルーが起きる可能性もあるので、大金を注ぎ込む価値はあると思うのだが。


「まあ、そういうのは偉い人たちが考えることでござるよ。我々はのんびり学校生活を送っていれば良いのですよ」

「のんびりできるんかねぇ」

「何でボクの方を見るのかな?」

「別に飛鳥さんだけを見ているわけじゃないですよ?」


 日下部君以外の全員を見ているのです。


「……豊久君さ。自分を客観視できない男はモテないよ?」

「まあ酷い。日下部君と並ぶ常識人になんてことを」

「凛太郎氏に謝るべきかと」

「稲葉さんはこっち側」

「自惚れんな変人」

「あの、俺の扱い……」


 うわ敵しかいねぇ。認知が歪んでいる人間はこれだから。やっぱりこのクラス、日下部君と俺しかマトモなのいねぇわ。


「はぁ……。ま、豊久君はおかしいのがデフォっぽいし、仕方ないか。で、話を最初に戻すけど。皆はこのまま帰宅ってことで良いのね?」

「結論に対して異議がありますが、それはそれとしてそんな感じです」

「入寮日から結構経ってるでしょうに……」

「俺、検査とか被って三日ぐらい前っす」

「拙者も似たような理由で五日前でござる」

「俺は期日通り」

「俺は一昨日、です」

「三日前だわ」

「一番最後の凛太郎君が終わらせてる時点で、キミらのそれ言い訳になんないからな?」


 ちくしょう言い返せねぇ。まさか日下部君に刺されることになるとは。げに恐ろしきは常識人である。


「ちなみに皆、部屋番は? ボクは二一二」

「俺は三一一です」

「拙者は四〇五でござるな」

「俺は四〇一です」

「俺は三一二っす」

「二〇一だ」

「うわバラバラ」


 ふむ。見事に分かれてるな。まあ、学年毎に纏められてるわけじゃないので当然だが。そもそも俺たちの寮、大学に進んだ特別クラスの人たちも住んでるし。

 高校中に男に戻れればまた違うのだろうが、大抵の人はそう上手くいかない。時間経過による完治を待つのしても、大学の四年間を全部使うこともザラなのだ。

 治療という側面もあるからこそ、性転換者は長期に渡りこの百合崎医科大学に籍を置くことになる。

 ちなみに、努力の甲斐虚しくメス堕ちしてしまった場合でも、希望者は大学までなら通えるらしい。完全無償とまではいかないが、かなりの便宜を図ってもらえるそうな。

 理由としては、メス堕ちしてしまった者も、また貴重なサンプルであるから。なんなら男に戻った者も、申請すれば似たような特典が出る。

 もはや国にとっては、『性転換した』という事実がある時点で、貴重な研究対象なのである。


「……ん? あれ、ちょっと待って。一瞬スルーしそうになったけど、もしかしてクソロリってお隣さん?」

「みたいですね。気付かなかった」

「うわマジかよ。キッッッッッツ」

「酷い。入り浸っちゃ駄目ですか?」

「キッツって言ったの聞こえなかった?」


 今の台詞聞いてよくそんなこと言えるなお前。マジで勘弁してくれよ。学校以外でお前のノリに付き合うの嫌なんだけど。


「運が良ければ、無防備なロリボディが拝めますよ?」

「ならお礼にコメカミんとこグリグリしてやるよ。ロリなら大好きだろ。ほら頭出せ」

「昭和のお仕置きはちょっと……」

「知るか」

「あ、いたいいたいイタイイタイイダダダダダダッ!?」

「見事な三段活用でござるな」

「豊久君は豊久君で、わりと暴力に容赦ないよね」






ーーー

あとがき

書きだめ尽きました。……アカン。

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