エドラド城下町・1

 みんなとの話し合いの後、前日にあまり眠れなかった雄大は仮眠を取った。

 

 目を覚ますと、夕方になっている。


 トイレに行こうとベッドカーテンを開けると、テーブル前に小松が座っているのが見えた。


 彼は散髪道具をテーブルに広げていた。

 ハサミ、クシ、ブラシ、布、スプレー、ボトル、ツールボックス。専用道具がたくさんある。


 小さめの梯子を下りて、小松の方に近寄っていった。


「仕事道具の手入れ?」


 小松に質問する。


「はい。毎日シザーの手入れをしないと、寿命が短くなるんですよ」


「道具は職人の命ってわけだね」


「そうです。道具を大切にしないと、お客さんの髪型も決まらないですから」


 これは雄大も小松に共感できた。自分の場合だと、カツラや付け歯などがモノマネをするための大切な道具だ。


 トイレに行くのも忘れ、小松がやる手入れの工程に見入っていた。


 ハサミは、タオルの上に分解して置いてある。


 小松は、ハサミの片割れにスプレーを吹きかけ、敷いてあるタオルを使って拭いていく。 

 彼は、ネジやその他の治具も同じように綺麗に拭き取っていた。


「毎回分解してるの?」


「はい、僕はそうしています。こっちの方が綺麗になりますから。油とセーム革だけで手入れしている人も多いんですけど」


「油とセーム革?」


 小松はボトルと布を指差した。


「へぇ、この布は革なのか」


「鹿の皮ですよ」


 それを聞いて「なるほど」と小さく呟いた。


「雄大さんは気になったことを何でも質問するんですね」


 小松は微笑んだ。


「ごめん、邪魔だった? 気になるとそれを知るまで止まらないんだよね」


「邪魔じゃないですよ、シザーの手入れにここまで興味を示す人があまり居ないので、少し驚きましたけど」


「そう? けっこう貴重な場面だと思って見入っちゃったよ。もっと美容師の話を聞いてみたいな」


「分かりました。手入れが終わったらご飯にでも行きましょう。そこでたくさん話しますよ」

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