消えたおれとおれの夢・3


 手鏡を見ながら、小声で練習。ピン芸人のよっしゃ太郎の表情を作り「毎日いつものガッツポーズ」と、キメ台詞を言ってみた。なんか違う……。


(こんな日に限って調子が悪い。カラオケで大きい声で練習してみるか……)


 そう考えているときに、スマホが鳴った。


 『コトドリ』からだ。


 コトドリは、モノマネ五将軍に数えられるモノマネ界のレジェンドであり、尊敬する大先輩でもある。


 手鏡を横に置いて、電話に出る。


「どもども〜」と明るい声が聴こえた。


「お疲れ様です。雄大です。何かありました?」


「いや特に何もないんだけどね、雄大くんが頑張って練習をやりすぎてないかな〜と、思って」


(図星だ……この人にはいつも心を見透かされる)


 短いやりとりをして、電話を切る直前、「君らしく、ほどほどにね」とアドバイスを貰った。


 深呼吸をしてみる。少し気持ちが柔らかくなった。


(今日は、憧れのコトドリさんが審査員席に居る。これがどれだけ名誉なことか)


 感慨にふけっていると、突然目の前でベッドランプがカチカチ点滅する。


「何だ? この前換えたばっかだぞ」


 次に、リュックや畳んで側に置いていた衣服など私物が、だんだん透明になり消えていく。


「マジでどうなってんだよ…?」


 その現象に驚いていたら、不意に引力のようなものを感じ、全身が痺れてきた。


「痛っっ……!!!」


 そう言葉を発した次の瞬間、身体が強烈な光に包まれ消えた。


 カーテンに映っていた雄大の影は消えて無くなった。

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