消えたおれとおれの夢・2


 雄大は東京都杉並区にある、駅からほど近いシェアハウスに住んでいる。個室ではない。ドミトリータイプ。


 光熱費と共益費込で都心にもかかわらず家賃は3万円と格安。インターネット環境もある。

 でも、人の話し声、いびき、物音は筒抜け。そういうところに、永く住んでいるのだ。


 10帖ほどの広さの寝室は、寝ている人も居るので薄暗い。


 寝室には2段ベッドが4つ。そのうちの上段の1つが、雄大の寝床であり部屋になる。


 カーテンが閉まっているベッドルームの内側は、彼のささやかなプライベート空間だ。


 ベッドの縁を挟んだクリップ式のベッドランプが内側の空間を灯し、カーテンには雄大の影が大きく浮かびあがっている。


 布団の上であぐらをかき、背中を丸めていた。そうしないと天井に頭をぶつける。その体勢のまま、右手で手鏡を持ち有名人の表情のチェックをしていた。


 雄大はモノマネをやるにあたって、その人の癖を掴むことが1番大事だと考えている。


〈例えば、俳優の冬野誠は、笑うときに右目だけ閉じる。バレーボール選手の片山岳人選手は、気を抜いていると口角が下がり、眼に光が無くなる〉


 そういう癖を1つ1つ捉え再現するには、細かい観察力と注意力、表現力、なにより日々の努力が欠かせない。


 表情1つを取っても疎かおろそかにしてはモノマネ力が鈍ってしまう。だから決して手を抜かなかった。


(あと5時間後には生放送が始まる。それまでに出来ることをやっておかないと、あいつには絶対勝てない……)


 不安に押し潰されそうだった。

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