相手の気持ちを考えよ

清明

第1話

「聞いてくれないか」

「何をだよ」

「お、聞いてくれるのか、あれは三日前のこと…」

「いや、つい受け答えしてしまっただけで聞くつもりはない」

「散歩に出かけたんだ。そう、いい天気でね。これは家に篭っていられない。日の光を浴びなければ!そう思ってね」

「聞くつもりはないと言ったのに」

「近くの公園まで足を伸ばしてね、そこにワンちゃんがいたんだ。柴犬のね、いやぁ、生意気だったなアイツ」

「人様のワンちゃんを生意気とか」

「だってあいつめっちゃ吠えてきたんだよ」

「俺だって吠えてえよ」

「これは躾のなってないワンちゃんだなと思ったけどさ、そこは海より広い心をお持ちの私様としてはだよ」

「何様だよ」

「犬畜生なんかに喧嘩を売るほど私は安売りしてないやい!と、ぐっと堪えたね。ちなみに一喧嘩240円だよ」

「やす…いや、微妙に高い気がするな…」

「お、買うつもりかい?今なら半額、120円でどうだい」

「買わねえよ。喧嘩売ってるんじゃねえ」

「お買い得なのに…まぁ買わないなら仕方ない」

「それで、その後どうした」

「別に。何もしてないよ。そのまま公園を散歩してから家に帰った」

「へぇ…で?」

「で?」

「今の話のどこに聞いて欲しいポイントがあった?」

「確かに無いね」

「無いねじゃないが。お前最初に聞いてくれないか、と言ったよな」

「言いました」

「聞いて欲しいポイントが無いのに聞いてくれないかと言ったのか?」

「はい」

「はいじゃないが。じゃあ何か?特に聞いて欲しくも無い話を俺は聞かされたのか?」

「はい。まぁ、別に話題は何でも良くて、ただ言葉を発したいだけだったので」

「それに付き合わされた俺の気持ちを答えよ」

「いい話を聞けて最高だったな」

「自惚れるな」

「えー」

「えーじゃないが。100パー実のある話をしろとは言わないが、せめて10パーくらいは役に立つ話をしてくれないか」

「やだ」

「やだじゃないが」

「時々ね、誰でもいいから話したいなぁって気分になるんだ。できれば一方的に。相手の話は聞きたくない」

「すげえ迷惑なやつじゃないか。相手の気持ちも考えろ」

「考えてるから君に話してるんじゃないか」

「最悪」

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相手の気持ちを考えよ 清明 @kiyoaki2024

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