第4章92話:カニ

翌日。


朝。


晴れ。


太陽が山の稜線りょうせんから昇り始めた刻限こくげん


俺は焚き火を起こして、朝食をとることにする。


魔鳥まちょうシフルバウムを【空間切断】によって肉片へと寸断すんだんしまくる。


木枝きえだをサイコキネシスで集める。


同じくサイコキネシスによって木枝に鳥肉とりにくを突き刺していく。


鳥の串肉くしにくの出来上がりだ。


最後にサイコキネシスで、串肉を焚き火のそばに突き立てた。


じっくり焼く。


待機する。


……


……よし。


そろそろ出来上がりか。


「……美味い」


砂ずりのように弾力のある肉ぶり。


特に味つけはしていないが、塩こしょうの味や、爽やかなライムのような風味が最初から含まれているようだ。


大空の上にしか存在しない、魔鳥の焼き鳥を食べたのは、人類で俺が初めてだろうな。


そう考えると、悪くない気分だ。


誰もやったことがないことをやるのは、気持ちがいい。


「ふう」


食べ終わった。


俺は焚き火をかき消して、片付けを済ませる。


「いくか」


ノルドゥーラに乗って、山峰を飛び立つ。





ノルドゥーラが飛翔する。


フラウード公国の空を飛ぶ。


草原を。


岩山を。


荒野を。


大河を。


数々の大地を、遥か眼下に見下ろしながら、ノルドゥーラが海へ向かって翔けていく。


空の旅を、数時間ほど続ける。


やがて。


大海原おおうなばらが見えてきた。


「海じゃな」


「ああ」


美しい海だ。


白い砂浜をつづく海岸線かいがいせん、遥か彼方かなたに見える水平線。


絶景だ。


海岸線の向こうに、島がある。


砂浜と陸続りくつづきになった孤島だ。


「ん……なにやら巨大な魔物がいるのう」


孤島の手前の岩礁がんしょう


そこに、明らかにサイズ感のバグった巨大なカニがいる。


全長50メートル以上はあるだろう。


遠近感が狂いそうなスケールだ。


俺は言った。


「ヤツはヴァニルガニ。倒せば竜玉が手に入る」


「む……? そうなのか?」


「ああ。少し近づけ」


俺が命令口調で言うと、ノルドゥーラが黙ってしたがい、高度を下げた。


俺はヴァニルガニに対して、不意打ちで攻撃を仕掛ける。


「空間切断」


次の瞬間。


ヴァニルガニがX字に両断された。


大量のカニ汁をまきちらして即死する。


「な、なんじゃ今の攻撃は!!?」


とノルドゥーラが驚愕した。


「あんな巨大な甲殻が、いとも簡単に両断されたぞ。おぬしがやったのか!?」


「そうだ。俺の奥義――――空間切断だ」


と俺は答えた。


ノルドゥーラがしみじみと告げる。


「うーむ。つくづく規格外の人間じゃな。刃竜である我の攻撃よりも、切れ味が鋭いのではないか?」


「そんなことはない……が、空間切断に切れないものはないこともまた事実だ」


空間切断に、敵の防御力は関係ない。


なぜなら敵を切り裂くのではなく、空間を裂くものだからだ。


切れ味という概念はないが、切れないものもないという、チート能力。


ある意味では、刃竜の刃よりも斬撃力が高いといえるだろう。



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