第3章56話:祭壇

街から離れて、森林に逃げ込んだ俺。


鬱蒼とした森だ。


視界があまり良くなく、薄暗い。


ここならば、連中が追ってきても見つかりにくいだろう。


(まったく、なぜ俺が隠れるように行動しなければならないのだ)


俺は逃げ回ることを好まず、真っ向から打ち破る性質たちだ。


だから今回のような行動には、強い不満を覚える。


よし……決めたぞ。


今後、神殿国の連中が俺を襲おうとしたときは、必ず殺すことにしよう。


次は容赦しない。


「さて、歩くか」


俺は目的地であるダンジョンの方角に向かって、森の中を歩き出した。






<神殿国の視点>


5日後。


神殿国の王都――――リースバーグ王都。


辺境の街から、アンリ・ユーデルハイトの存在が王都にもたらされた。


王都には大神殿だいしんでんがある。


その最上部さいじょうぶには【祭壇室さいだん】と呼ばれる部屋がある。


緑色にうっすらと発光する不思議な鉱石によって、床や壁や天井が造られた部屋であり、精霊をまつっている。


中央には祭壇があった。


祭壇の手前に、二人の人物がいた。


大司祭だいしさいと、その部下である。


「なに? アンリ・ユーデルハイトが、神殿国に入国しているだと?」


と大司祭が部下の報告に興味を示した。


部下は告げる。


「はい。【サヴァレスの街】にて、衛兵や冒険者たちと争いになったそうです」


「ほう……で、討伐したのか?」


「いいえ、かえちになったと……死人はいないようですが」


「ふむ」


部下が、街での出来事を大司祭に説明する。


その説明を聞いて、大司祭は考えた。


(アンリがくににやってきたことは好都合だな)


ここでアンリ・ユーデルハイトをれば、ルドラール王国の聖女に対して、大きな貸しを作ることができる。


また、勇者殺しの大罪人たいざいにんを討伐したという功績で、【リースバーグ精霊教】の名声めいせいもうなぎのぼりに向上するだろう。


入信者にゅうしんしゃも劇的に増えるかもしれない。


大司祭が命令する。


「正式な討伐隊とうばつたいを差し向けるべきだな。各街かくまちにいる衛兵や兵士などに捜索の命令を下し、冒険者などにも依頼を出しておけ。また、神殿騎士団しんでんきしだんを動かす手配てはいをせよ」


「はっ」


と部下が返事をした。


神殿騎士団とは、神殿国における正式な騎士であり、治安と国防の主力である。


本来なら戦争にて軍隊を相手にする組織であり……


アンリという、たった一人の人間にぶつけるには、過剰戦力かじょうせんりょくだ。


しかし、大司祭はそれほどアンリの討伐を重要視じゅうようししていた。


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