第5話 僕達の敵
「そんな・・・・・ケンイチが」
「ごめんなさい」
ショッピングモールでの『モリタケンイチ』への対応に納得がいかなかった
『ホシノヨシヒコ』は『オダミヤビ』を問い詰めた。
「追っ手を追い払った時にその内の1人がケンイチくんに指示を出していたの。間違いであって欲しかったけど、ホシノ君に迫る彼の表情で確信したわ。彼は利用されているって」
「・・・・・・」
「あの後先にここに戻っててって言ったでしょ?調べたの彼の状況を」
「ケンイチの状況?」
「彼、両親が離婚して、お母様が彼と彼の妹を育ててたみたいなの」
「それは知ってるよ」
「今、お母様は体調を崩されて入院されてる」
「えっ」
「そこを付け込まれたみたいね。お母様の手術費と入院費。更に質の悪いことに妹さんの人質の条件付き」
「そんな・・・・・・」
「今の私に出来るのは【協力者】に妹さんの保護をお願いするのが精一杯だった」
「オダさんならケンイチも救うことは出来たよ!なのにどうして!?」
「私達の目的は世間には公に出来ないもの。それは敵も同じ、その状況でモリタくんは少なからず私達と敵に世間の目が向けられるような振る舞いをしてしまった」
「あのくらいの騒ぎで?」
「少なくとも敵はそう判断した」
「だからって・・・・・あいつはオダさんのこと・・・・・」
「知ってるよ。嬉しかった」
「!?」
ヨシヒコは彼女の表情を見て自分の言わんとしたことがいかに不適切だっかに気が付き彼女の静止を振り切りその場から逃げ出した。
(最低だ僕…………)
当てもなく町中を彷徨うヨシヒコ。2人の拠点に戻ろうにも、気まずさが勝り帰る足取りにはならない。
「すみません〜。今よろしいですか〜?」
悶々と自身の気持ちの整理をしていると見知らぬ男に声をかけられるヨシヒコ。
「なんでしょう?」
「今ですね〜アンケートを取っていましてご協力いただけませんか〜?」
「アンケート?なんのです?」
「実は私こういう者でして…………」
名刺を取り出した見知らぬ男はヨシヒコに手渡す。その名刺を確認したヨシヒコは思わず反応する。
「サニーってあのゲーム会社の?」
「仰る通りです。実は今新作ゲームの開発に向けて情報収集をしておりまして。ゲームはお好きですか?」
「そうですね。好きです」
「どのジャンルのゲームをされるんですか?」
「オンラインのサバゲーとかはよくやりますね」
「もしかしてRCEだったりしません?」
「!?」
「いやー嬉しいな〜。僕RCEの開発チームのメンバーなんですよ!」
「そうなんですか!?」
思わぬ人物との出会いに興奮するヨシヒコ。
「ここだけの話。実は今RCEの新作の開発が進んでるですよ。ここで会ったのもなにかの縁!良かったらユーザーとしての貴方の意見を聞かせてはもらえませんか?」
「僕でよければ!」
「ありがとうございます!改めまして私『モモヤマ』です」
「ホシノです」
意気投合した2人は近くの喫茶店に入りゲームの話しで盛り上がる
「ホシノさん。いやー嬉しいです。ここまで私の関わっているゲームをやり込んでいただけているとは!」
「いやいや、そんなことないですよ」
「お待たせしましたアイスコーヒーで…………あっ!?」
飲み物を運んできた従業員が『モモヤマ』の服に運んだ飲み物をこぼしてしまった。
「申し訳御座いません!」
「…………お気になさらずワザとじゃないのでしょうから」
「すぐに店長を呼んで参ります。お待ちください!」
「本当気にしなくていいですから。ただ着替えたいのでトイレ借りてもいいですか?」
「どうぞ!あちらになります!!」
「ホシノさん。すみません少し待っててもらえますか?」
「はい。」
『モモヤマ』と従業員が席を外す。何気なく周囲を見渡していると、先程の従業員がこちらを見ていた。
「?」
作業をしながらこまめにこちらを確認する従業員。
「…………すみません!」
ヨシヒコが従業員を呼ぶと真っ先にこちらに視線を送る従業員が近づいてきた。
「おまたせしました!」
「あの………僕に用ですか?」
「…………そうなんですよ〜。実は…………」
少しして、『モモヤマ』が席に戻ってきた。
「ホシノさんお待たせしました。」
「……………」
「ホシノさん?」
「…………相変わらず詰めが甘いな『桃太郎』」
「!?」
突然の高飛車な言動に『モモヤマ』は一瞬動揺する。
「…………いつから?」
「お前如きの正体を私が直ぐに見破れないとでも?」
「……………」
「お前はもう逃げられない。覚えているよな?【私のやり方】を」
「『織姫』!!」
「店長!!」
突然店内が騒がしくなる。
「どうした?」
「厨房のコンロが突然火を」
鳴り響く火災警報器。
「…………ッッ!しまった!!」
一瞬店内に目を向けた隙に目の前からヨシヒコが消えていた。
パニック状態の店内で自身の背中に銃口を突きつけられていることに気がつく『モモヤマ』
「今回は昔のよしみで見逃す。だが次は無いぞ」
「あんたもさっさと観念した方がいいですよ『織姫』」
瞬時に気配を消す『織姫』。気配が消えた直後に後ろを振り返る『モモヤマ』だがパニックになっている人々しか視界には入らなかった。
「ふぅー。なんとか逃げ切れた」
ヨシヒコはあの時の従業員と一緒に喫茶店から抜け出していた。
「いつ僕を見つけたの?」
「ギリギリだったよ。『モモヤマ』とあそこで談笑してなかったら、見つけられなかったかもしれない」
従業員が首に手をかけ引き剥がすと『オダミヤビ』の顔が現れる。
「そうなんだ…………」
「無事で良かったよ。ホシノくん」
「オダさん。あの……………」
「大丈夫。ホシノくんの気持ちはもっともだからね」
「オダさん……………」
「それに『モモヤマ』が動いていたとなると、どうやらホシノくんは私の共犯者となっちゃったみたいだね」
「えっ!?」
「だから、しっかり話さなくちゃ。私の事と私達を追いかけている敵の正体を」
目を閉じる『オダミヤビ』。一呼吸置いてじっとこちらの目を見る瞳はどこかまだ迷いがあるとヨシヒコは感じた。
「『警察庁警備局公安課第十七課』別名【雛】。コードネーム『織姫』。それが本当の私」
「オダさんが公安…………」
2人の本当の逃走劇が今、始まろうとしていた。
初恋と逃避行 ザイン @zain555
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