初恋と逃避行

ザイン

第1話 想い人

「行ってきます」


「いってらっしゃい」


今日も学生の本分である学び場に向かう『ホシノヨシヒコ』。


登校し、授業を受け、友達と昨日の出来事で盛り上がる。そして時間になったら自分の居場所に帰る。そんな生活を11年間続けている。


そんな変わらぬ生活を続ける彼にちょっとした変化が訪れたのはそんな生活が10周年を迎えた頃だ。


新しい生活を迎えるにあたり初めての感情を抱いた。


ついその人を目で追ってしまい。その人の一挙手一投足が特別に視えてしまう。いざ本人を前にすると上手くそれを表現出来ない


その人の名前は『オダミヤビ』。容姿端麗·文武両道。それでいて明るく誰にでも隔てなく接する彼女を嫌いな人は少ないであろう。


噂では7日に1回は異性から告白を受けている。


そんなクラス…………学校のマドンナである彼女にヨシヒコも想いを寄せている。


だがヨシヒコは噂の人物ではない。


彼は弁えているからだ。彼女と自分が釣り合う訳がないと自分が彼女の眼中に無いという自覚があるからだ。


「ヨシヒコ。また目が追ってるぞ」


昼食を食べていると『タナカカズヒコ』がニヤつきながらヨシヒコに話しかける。


「なっ、なんのことだよ!?」


「オダさん。…………ったくサッサと告っちまえよ」


「別にそんなんじゃ…………」


「はいはい。隠せてると思ってるなら、お前相当ヘタ」


「ウッ…………」


「でもヨシヒコの気持ちわかるぜ。余程自分に自信が無いとオダさんには告れないよな」


ヨシヒコに同情するように『モリタケンイチ』が話しに参加する。


「ってことはお前自信あったんだなケンイチ」


「アハハハー。結構オダさんと話してたし共通の話題とかあったしイケると思ったんだよね〜」


「お前とオダさんが共通の話題?なんだよそれ?」


「彼女。ああ見えてサバゲー好きなんだぜ」


「へぇ〜。…………ヨシヒコお前もサバゲー好きじゃんか、案外盛り上がるんじゃねぇ?」


「そっそうかな?」


「カズヒコ。変な期待持たすな。あっちはリアルな。ゲーマーっていっても種類がちげえーよ」


「あら残念」


「!?」


突然動き出すヨシヒコ。


「おいヨシヒコ!…………ってハンカチ?」


「今日風強いもんな」


「お前。見かけによらず運動神経いいよな」


「そうかな?」


「あぁ。その運動神経なかったら陰キャでボッチな学生生活まっしぐらだったかもな」


笑う2人を余所にハンカチが飛んできた方へ向かい持ち主を探す。


「あっ…………」


持ち主は……………彼女だった。


「ホシノ君!拾ってくれてありがとう!!」


「たまたま飛んできただけだよ」


「本当にありがとう!凄く大切な物なんだ!!」


「そう…………なんだ」


そのハンカチは特徴のない赤いハンカチで町中で探せば他に良さげなハンカチはいくらでもあるのではと思わせる素朴な赤いハンカチであった。


「凄く大切な思い出が積まったハンカチだから」


「……………どんな思い出?」


「ナイショ!」


とびきりの笑顔をヨシヒコに向けると彼女は友達の輪に戻っていった。


「鼻の下伸びてるぞ~」


「!?」


ニヤつきながらカズヒコとケンイチが後ろに立っていた。


「良かったな。オダさんと話せて」


「ホシノヨシヒコ選手!ポイント獲得です!!」


「ポイント獲得?」


「オダさんのヨシヒコに対する好感度だよ、あと99ポイント頑張れ!」


「なっ!?2人ともいい加減にしろー」


実に的を得ている表現だと、ヨシヒコは内心そう思っていた。そのポイントもゆっくり時間をかけて減らしていき、いつかは彼女に想いの丈を伝えようと


そんなヨシヒコの想いは予想もしない形で崩れさる。


その日の夜。ヨシヒコの部屋の窓ガラスを割って『オダミヤビ』は突然ヨシヒコの前に現れた。

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