呪いのように

徒文

呪いのように

 まだ拙い私に、世界を教えようとしてくれて、ありがとうございます。

 あなたにそんなつもりはなかったかもしれませんが、無知で幼い私にとって、あなたがどれだけ大きい存在だったことか。


 ちゃんとご飯は食べられてますか。

 夜は眠れていますか。

 あれからなにか嫌なことは起きましたか。

 ずっと幸せに生きられそうですか?


 きっと、あなたも必死だったのでしょう。

 荒波に揉まれながら、自分のすべきことをして、たくさん苦しんで、たぶん、私には知り得ないあなただけの悩みだっていくつもあった。


 そんな苦しみの中で、あなたの近くにいた愚図で使えない私は、苛立ちのもとだったでしょうね。


 良い大人であろうとしてくれていたと、信じています。

 やむを得ずああいう態度になってしまったのだと信じています。

 あなたなりに必死に生きた結果だったのだと信じています。


 それでも、私は傷つきました。

 まだ世の中の仕組みはよくわからないけれど、もう取り返しがつかないくらいたくさんの傷を負いました。


 駐車場で食べたスナック菓子が、なんの味もしなかったこと。


 夜が異常に怖くて、だれか襲ってくるんじゃないかと、洗濯物ひとつ取り込むのさえままならなくなったこと。


 楽しいはずの時間を、手を洗うためだけに台無しにしてしまったこと。


 眠れず、なにかしようにもまったく手につかず、一晩ただぼーっと過ごすしかなかったこと。


 鏡の中の自分が自分に見えなくて怖かった。


 人生のほとんどの記憶がない。


 友達の前で恥をかいた。


 自分の腕を切った。


 醜くなった。


 その全部が、あなたがつけた傷です。

 あなたたち大人につけられた傷です。


 あなたのことですよ。


 あなたは生涯をかけても気付くことがないんでしょうね。気付きたいとも思わないかな。


 私はずっと、あなたが嫌いです。

 でも、それでも、あなたの不幸を願ったりはしません。


 どうか、できるだけ幸せでいてください。

 私はあなたのことが嫌いだけど、あなたのことを愛している人だってどこかにはいるでしょう。

 私にとっては嫌いな人でも、あなただってひとりの人間で、好きなものや愛おしいと感じるものがあって、けんめいに生きているんでしょう。


 だから、幸せでいてください。


 そして、二度と、私と関わらないでください。

 それだけが私の望みです。

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呪いのように 徒文 @adahumi

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