子供ガチャのガチ勢夫婦

ちびまるフォイ

天才が選んだ最初の厳選

「ねえ、子供ほしくない?」


「ついに君もそう思ってくれたのか。

 僕はこのときをずっと待っていたよ」


「きて……」


「ああもちろんさ!」



「「 さあ、子供ガチャをひきにいこう!! 」」


夫婦は子供ガチャを引くため市役所へ向かった。


2100年現在、高齢化と出生率の低下により

出産による母体への負担を軽減するため

考えてすべての人間はガチャから生まれるようになった。


「ということで、私達夫婦は子供を持つことを決めました」


「はい、書類審査も通っているので大丈夫そうですね。

 そこの子供レバーを引いてください」


「えい」


ガラガラと音を立てて、1mほどのカプセルが出てきた。


「赤色は?」


「Rレア子供です」


「げっ」


カプセルは下側が赤色、上側が透明になっている。

透明部分からカプセルの中をのぞく。

やすらかな顔で胎児が眠っているのがわかる。


「あなた、これどうする?」

「Rかぁ……。Nではないけど……」


「引き直すなら、また追加料金ですよ」


「ぐぅぅ、市役所ってやつはなんてアコギな商売なんだ」


夫婦は相談をしたのち、再度ガチャの引き直しを行った。


Rレア赤ちゃんはカプセルに再度閉じ込められ、

もとのガチャ機の中へと吸い込まれた。


次にガチャを引くと、今度はレバーが虹色に光る。


「こ、これは!?」

「高レア期待値演出よ!!」


夫婦は大喜び。

カプセルが出てきた。


「……どどめ色のカプセル?」


「あそれNです」


「はずれじゃねぇか!!」


「あくまでも演出ですから。確定保証じゃないんですよ」


「期待させやがって!! 引き直しだーー!」


すっかりのぼせあがった夫はガチャを何度も回した。

出てくる赤ちゃんはどれもNからSまでをいったりきたり。


「ちくしょう! スポーツの才能がある

 SS赤ちゃんピックアップって書いてるぞ!!

 さっきからぜんぜん出てこないじゃないか!!」


「ガチャだからそういうものですよ」


「うそつけ! ぜったい確率操作してるだろ!!」


「あなた、どうするの? これ以上は……」


「わかってる……。次の引き直しで終わりにする。

 次がどんなレアリティでも諦めるよ……」


市役所に来てはじめて、物欲を捨てた状態でガチャを引いた。

出てきたのは虹色のカプセルだった。

中には金色の光をおびた赤ちゃんが眠っている。


「す、すごい!! SSレア赤ちゃんですよ!!」


「おおお! やったーー!!」

「あなた、やったわね!」


「きっとすごい人になりますよ」


夫婦はSS赤ちゃんを見て大喜び。


かつて自分が諦めた夢などもこの子に背負わせれば

才能あふるる我が子がきっと成し遂げてくれるだろう。


ひいては自分がそんな偉人を育てた親として

講演会なんか開いちゃったりして神格化されるのだろう。


夫婦の顔はにやけっぱなしだった。


「最後まで諦めないでよかった……おや? あっちのガチャは?」


「あちらですか。あっちは才能厳選ガチャです」


「はい?」


「低レア赤ちゃんを引いた人でも、

 才能厳選ガチャで引いた才能をあとづけできるんですよ」


「あなた! これは引くしか無いわ!!」


「そうとも! 本体が天才の我が子に加え、

 一芸に秀でた才能を追加できたら無敵じゃないか!」


夫婦は結婚指輪のダイヤを砕き、才能ガチャのレバーに手をかけた。

でてきたのは、こげ茶色のカプセルだった。


「あの、これは……」


「Nレアの才能ですね。

 ペン回しが人よりちょっと上手いです」


「しょうもない才能すぎる!!」


夫はカプセルをぶん投げた。

愛する完璧超人の我が子にはすぐれた才能があるべきだ。

しょうもない才能なんかくっつけたら泊が下がりかねない。


ガチャの前で祈ってみたり。

レバーを引くと見せかけて引かなかったり。

才能ガチャをゆすったり。


思うままの乱数調整をして才能ガチャを引き続けた。

それでも出てくるのは汚い色のカプセルばかり。


すでに子供ガチャを引くよりも多い回数を引いていた。


「あなた……もう軍資金がないわ……」


「いいか。仮に今破産しようとも、優れた我が子を手に入れたなら

 子どもの活躍で一気に裕福な暮らしができるようになる。

 今苦しいのは一時的な状態なだけだ!」


夫がすべてを捨てて才能ガチャに手をかけた。

しかしレバーが固くて回らない。


「な、なんだ!? 動かないぞ!?」


職員は目を見開いた。


「ついに天井へたどり着いたんですか!?」


「天井?」


「一定回数、才能ガチャを引き続けると天井に到達し

 ガチャの中にあなたが入ることが許可されるんです」


「え?」


「あなた、才能を選び放題ってことよ!」


「まじか!!」


夫は職員の案内でガチャ機の中に放り込まれた。

カプセルのボールプールを泳ぎながら、いっそう輝きを放つカプセルに手をかける。


「ついに手に入れたぞSSレア才能だーー!!」


カプセルを持ってガチャから出ると、

さっそく才能を子供にわけあたえる。


「あなた、SSレアの才能はなんだったの?」


「超語学力だそうだ。人よりも圧倒的に多言語理解が早いらしい」


「すごいわ! それじゃうちの子が世界で私達のことを話してくれるのね!」


「そうとも! うちの家族は世界規模で有名になるぞーー!!」


夫婦は手を取り合って喜んだ。


あらゆる才能が天才基準からスタートでき、

さらにSS語学力のスキルも身につけたるSSレアの赤ちゃんが爆誕した。


SSレアだけあって、子どもの成長はめざましい。


他のレアリティの赤ちゃんがハイハイしているときに、

SSレア赤ちゃんは相対性理論を赤ちゃん語翻訳しはじめていた。


そのあふれる才能に夫婦はますます期待をつのらせた。


1歳の誕生日になると両親は子供を囲んだ。


「誕生日おめでとう。さあ、これがプレゼントだよ。


 グランドピアノに、バレエシューズ。

 野球のグローブに、水泳キャップ。

 サッカーボールに、習字セットにそろばん。

 プログラミングPCに、バスケットボール。


 これぜんぶ君のものだよ」


「1歳になったんだからこれでたくさん勉強し、

 将来はパパとママを凌駕する超天才になるのよ。

 そうして私達をうんと楽させて、有名にしてね。期待してるわ」


「さあ、さっそく始めてくれ。

 君は僕らのSSレア赤ちゃんなんだ。

 優れた才能があるからどれをやっても1番間違いなしだ」


すると赤ちゃんは、最も優れた言語才能を活かして言葉をつむぎ始めた。

すでに言葉の意味や構成も理解してしまっている。


父親と母親は我が子の最初の発言に耳をかたむけた。


子供は流れるように伝えた。



「この親ガチャ、引き直しで」



その瞬間、両親はカプセルに閉じ込められてガチャ機へと戻っていった。

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