13
警備を終えて部屋に戻っても、眠りにつくことなどできなかった。カイの仇が見つかった衝撃を含め、イブキが反対派のリーダーであったことなど、あらゆる混乱が頭の中にあった。
あの男は、必ず殺す。かといって、イブキの下について局を敵に回すつもりもない。カイの仇を討てればさっさとシェルターを出て、一人でも旅を続けるつもりだった。こんな選択を迫られるだなんて、夢にも思わなかった。
眠れないままに辿り着いたのは、どちらの答えでもなかった。イブキとの約束の日になる前にあの男を殺し、シェルターから逃げる。もしも局に捕らえられたとして、殺人は極刑の追放にあたる。シェルター側から自分を追い出してくれるなら、願ったりではないか。
ほんの僅かまどろんだ後、サクは興奮のおかげで疲れを感じない身体を持ち上げ、地下から地上一階に上がった。訓練場とは真逆の方角に歩き、昨晩訪れたばかりの更衣室に向かう。壁に埋め込まれたパネルに指を当て、履歴照会のシステムを起動した。このシステムを使えば、どの防護服がいつ誰に使用されたかを絞り出すことができる。
昨夜の夜間警備の時間を絞ると、サクを含めた四人の隊員の名前と顔写真がヒットした。この四人が一人ずつ東西南北のいずれかの地域を割り当てられ、それぞれ巡回する手はずになっている。昨晩目にした男の顔写真が確かにそこにあり、横にはアサギという名前が記されている。所属はサクとは異なる第一部隊だ。この聞き覚えのない名の男が、殺すべきカイの仇だ。
そこで一つ疑問を抱いた。昨晩、彼は顔を見せるためにヘルメットを外し、確かに空気を吸っていた。体内でウイルスを無毒化できる超耐性でもない限り、ウイルスを持ち帰っている可能性がある。そのため表面のウイルス除去に加え、検査が必要になるはずだ。結果自体は三十分程度で判明するが、それまで隔離室で待たなければならない。
サクは次に隔離室に向かった。壁にはめ込まれた窓から部屋の中をのぞいたが電気は消えていて、室内は真っ暗だ。アサギが検査を受けていても、とっくに結果を持って部屋を出たに違いない。
どうしようと考えていると、廊下を挟んだ部屋のドアを開けて白衣を纏った壮年の男が出てきた。検査を行うために交代で番をしている職員だ。
「どうしましたか」
怪訝な表情の男に、サクは小さく頭を下げた。
「昨晩、外を巡回していたんですが、帰ってから落とし物に気付いて。もしかしたら、この辺に落ちているかと思って」
更衣室は目と鼻の先だ。偵察部隊の任務を知っている彼は、「さあ」と首をひねった。「何をお探しでしょうか」
「銃の弾です。十二ゲージの……」
「そんなもの、落ちてなかったと思うけどなあ」
男は不可思議にいっそう首を傾げた。そうですか、とサクは呟く。
「直近で、検査を行った隊員はいますか。もしかしたら、拾ってくれたかもしれない」
「いや、しばらく検査は行ってないですよ。少なくとも、明け方には誰も見えませんでした」
えっと声が出そうなのを堪えた。あの男は確かにヘルメットを脱いだし、超耐性は自分だけだ。ウイルス保持者である可能性があるのに、そのままシェルター内に戻ったというのか。もしかすると、彼を使ってイブキはテロ行為を仕掛けたのではないだろうか。
どぎまぎしながら、サクは礼を言ってその場を離れた。明らかに上へと通達しなければならない事態だ。だが、管理部が彼を捕まえれば、自分が手を下すことはいっそう難しくなる。黙って見過ごすしか方法はない。
一晩眠っていないおかげで、次第に身体は疲れを訴え始めてきた。だがここで休めるはずがないと、次は休憩室に向かった。多くの者が訓練に出ているおかげで、他に人はいない。二台だけ置かれたパソコンの一台を使って、第一部隊のアサギという人間をデータベースから引き出した。
どの隊員にも、偵察部隊員の名前や性別、配属先、割り当てられた部屋の位置を探す権利は与えられている。だが分かるのはそこまでで、後は管理部の権限でしか検索することは出来ない。アサギは特殊活動区ではなく、居住区から出勤していることが明らかになったが、居室の場所まではわからなかった。
居住区は地下二十六階から地下四十階にもわたり、人の住む部屋の数など数えきれない。闇雲に当たって捜しだせるはずがない。
悩んだ末、サクは最も原始的な方法に頼ることにした。
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