第30話 天気太刀魚のフライだけど、話題が重いです
夕食時はリーさんから話を聞くということで、凝った料理ではなく、サクッと食べられる
油ものは胃にくるので、ロウィンさん的にどうなのかと思ったけれど「先ほどの私とリア様のやり取りを見た後なので問題ない」とか。
なんでよ!?
そりゃあイチャイチャしていたかもだけど、あれは私というよりも、リア様の溺愛ぶりのせいだと思う!
私は普通!
そんなに破廉恥なこと言っていないわ!
プリプリしつつ、フライを口にする。
「んん! サクサクふわ!」
『サクッとした衣に、魚のプリッとした食感がたまらないな』
『ええ、このタルタルソースをかけると、さらに美味しいわよ』
『私は断然ソース派だわ』
『まあ、アドリアは食べず嫌いなのね。タルタルソースこそ至高なのに』
うん、シシンたちは、どんな時も通常運行ね。
「……帝国の国家機密なのですが、こんな夕食時に話す内容ではないような…。……あむ……むっ、このサクサク感、魚の臭みもなくこの魚肉の感触、爽快キャベツと絶妙じゃないですか」
「リー……。と、とにかく私たちは公爵の部下であり、この際だから言っておくが帝国の犬だ。王国の動向を探り、内側から滅ぼすため数十年前から法国、亜人国、帝国で同盟を組んでいた。邪竜の出現がなければもっと早かったのだが、ようやく王国を滅ぼすところまで来た」
本当に夕飯を食べながらの内容じゃないわね。
なんでも公爵──お父様は皇帝の命令でトワイランド王国の公爵家に養子になり、国を滅ぼすため幼少期から特別な訓練を受けていたという。
「ここ数十年でトワイランド王国の横暴さと関税がますます高くなったことで、法国、亜人国と帝国が手を結んだのですよ」
それは王妃教育を受けている時から、ヒシヒシと感じられた。だからこそ他国の商人や行商人とコンタクトを取って、王室御用達という扱いで定期的に荷を運ぶという名目で、関税をかなり下げるようにしてきた。そもそも関税を吹っかけすぎているのは、陸路や水路はトワイランド王国を通らなければ各国への移動が難しいのだ。転移魔法も万全ではないし、空間魔法もそこまで大きなものを持ち運びできない。
ぶくぶくと財が膨れ上がると、同時に傲慢さと強欲さも歯止めが利かず、他国を軽視した結果なのだとしたら、自業自得だともう。
「国王と王妃はまともそうに見えるが、実際はより富を増やすことしか頭にない。ユティア様が魔力無しでもアドルフ殿下の王妃候補に入っていたのは、仕事ができたからだった。温室を維持する金額の五倍の財を渡していたのだから、そりゃあ手放したくはなかっただろう」
「もしかして……聖女エリーをアドルフ殿下に近づけたのは、帝国側の策?」
「邪竜も動いていたので、一概には言えないですね」
そうリーさんはそう言葉を濁したけれど、帝国がそんな中途半端なことはしないだろう。だとしたらお父様は私のことを都合の良い駒として王族に差し出し、金を稼がせ慢心させるために利用したのだろう。
そして最後は不要になったから、婚約破棄をするようにアドルフ様を焚きつけて、温室を──居場所を奪った。
結果的に私は自由になってリア様と出会ったけれど、それは結果論だ。両親にも様々な事情があったことは理解できたが、「また会いたいか?」と言われたら答えは微妙だわ。
お母様には会いたい気持ちはなくなないけれど、お父様に関してはこれ以上、関わりたくないし巻き込まれたくない。
王国の滅亡の話もそうだ。
スケールが大きすぎてついていけない。ただ幸いなのは王国が滅亡しようと、生活が大きく変わるのは一部の王侯貴族だけらしく、国が三つの領土に分かれたとしても国民の生活は、保証されていることだった。
「それなら」と思う当たり、私にはすでに愛国心なんてないのだろう。薄情かもしれないけれど、アドルフ殿下から婚約破棄と温室を壊された時点で、未練なんてなかったもの。
ある意味、未練が変に残っていなくて、良かったのかもしれないわ。
「そんな訳で、ユティア様は王国とは関わらないで、ここで静観していてください。ああ、公爵家、帝国とは関係なく商人として、今後も商談していただけると嬉しいですねぇ」
「そうね。次期王妃としてなら、なんとかしないといけない立場だったけれど、今は違うもの。リーさんやロウィンさんが何者だろうと、何をしようと私は何も聞いてませんわ」
「それはよかった。元婚約者に未練があったら……と思ったのですが、それも違うようで安心しましたよ」
ああ、そうか。
この二人が私の元に来たのは呪いもあるけれど、次期王妃として王国を助けようとしないかの確認、釘を刺しに来ただけだったんだわ。
お父様にとって私は都合のいい駒だった。それが変に動かないかだけ気にしていただけ。
娘でも、駒は駒……。
悲しいけれど、もう何年も顔を見ていないし、私にとっては血縁というだけだわ。そう思うとスッキリはしたが、少しだけ凹んだ。
「ユティア」
「え」
「熱いうちが、美味しいんだろう?」
リア様は
「ユティア、はい」
リア様の圧に耐えきれず、揚げたての
「んーーー、美味しい。外はカリッと中ふわ」
「ユティア」
「もぐ……っ、んーータルタルソースも美味しい」
「はい」
「もぐもぐ……濃厚なソースも最高!」
「じゃあ、今度はユティアがしてくれるんだよね?」
何を? と口に出さなかった私は偉いと思う。食べさせ合うのは、魔力術式的にも私とリア様の結びつきを強める──という意図があるのは、再三聞かされたのでわかっているが……絶対に食べさせてほしいだけだよね!?
「はい、リア様」
「うん! んっ……! 幸せの味がする」
「大げさですよ。……でも嬉しいです。私はソース派ですけど、リア様は檸檬汁とソースの組み合わせが好きですよね」
「そうだけど、どうしてわかったんだい?」
「ふふ、見ていたらわかりますよ」
「じゃあ、私もユティアをずっと見ていてもいいかな?」
「た、食べづらいのでダメです」
「ユティアは私のことを見ていたのに、不公平ではないのかい?」
「私はリア様が気づかないように配慮して見ていたのですから、相手に気づかれるのはマナー違反ですわ」
「わかった。でも、あと何回はユティアに食べさせてほしい」
「もう」
この時間にリア様が人の姿なのが珍しくて、何よりナイフとフォークの所作が美しくて見惚れていたのに……。貴族令嬢として、それなりにできているけれど、リア様の所作は全く違うのだ。生まれ持ってというか自然というか。
絵になるから、見守りながら食べたかったのに……!
そう思いつつも、自分の作った料理を美味しそうに食べてくれるのが嬉しくて、リア様の希望通りフライを切り分けて食べさせた。
そんな私は周囲の視線を気にする余裕などなかった。
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