第7話 今後の方針と流星果実ジェラート・後編
ベリージェラートを作ることにした。
まずはミックスベリー300グラムと祝福の砂糖を40グラム、濃厚な味わいの牛乳300ミリリットルを使うのだが、ミックスベリーはコームがミキサー並に細切れにしてくれたので、泡立て器でかき混ぜる。
色が菖蒲色になったところで、今度は氷で冷やしながらかき混ぜていく。ここはディーネの氷魔法とシシンの風魔法を使って、空気を入れつつ混ぜて冷やす。これをマスカットでも同じように、ノームとアドリアが手伝ってくれた。
気がついた砂海豹様は、精霊の力をフル活用して料理を作る私を見てまた卒倒していた。精霊と仲良く料理をしているのが珍しかったのかしら?
そんなこんなですぐに流星果実ジェラートの完成!
味はミックスベリーとマスカットの二種類。プリン用の硝子のお皿に盛り付けるとより綺麗だわ。宝石のようにジェラートが光って見える。
ああ、食べるのが勿体ないわ。
「きゅう……」
『一人だけ手伝わなかったから、量は一番少なくていいよな』
『そうね。さすがに食べさせないのは、可哀想だけれど』
「きゅううううう」
ががーん、とショックを受けてへたり込んでしまう。料理に関しては特に何も言わなかったのに……。
「……シシン、ディーネはスイーツが絡むと辛辣ね」
『だって、ユティアのスイーツは特別なのよ! 幸福度が全く違うんだから!』
「コウフクド? 美味しいってことなら嬉しいわ」
時々精霊たちは独特なワードを言い出す。私のことを愛し子や劣悪令嬢などという。劣悪というのは『温室が閉じ込められた鳥籠みたいで可哀想』という意味らしい。温室だった場所も、最初の頃は伽藍堂で何もなかった場所だったのもあり、精霊たちが憤慨したんだっけ。
はあ。まだ一日も経っていないのに、懐かしいわ。
ぱくり。んーーー!
冷たくて濃厚なミルクの味わいは最高だわ。しかも、流星果実のベリー特有の甘酸っぱさがまた美味しい。ベリーが甘すぎないからこそ、この濃厚なミルクと絶妙な調和が取れていて、口の中で蕩ける。
『くすっ』
ふと聞き慣れない声に、ジェラートから視線を外して周囲を見渡す。傍にいたシシンやディーネの姿もない。なんともフワフワするような──夢を見ている時に似て、現実味がない。
だからだろうか。私のすぐ傍に美しい人が佇んでいた。
「え」
褐色の肌に、白銀と金が混じったふわふわの長い髪。藻みたいにもモフモフなのだけれど。
童話で読んだことのある『夜の王様』を彷彿とさせる気品さと美しさに、思わず見惚れてしまう。
『──』
彼が何か口に仕掛けたところで、「きゅうううう!」と砂海豹様の声が、耳に届いた。
「ハッ!? 夢?」
「きゅううう!」
まるで白昼夢を見ていたような不思議な体験だった。もしかして流星果実の見せた幻想? 白昼夢?
なんだか分からなかったけれど、素敵な人だったな。
「きゅうう」
砂海豹様は私の顔を覗き込みながら、ぐりぐりと頬ずりしてくる。後脚がぶんぶんと揺れているので、流星果実ジェラートに興味津々なのだろう。
「砂海豹様も食べたいのですね」
「きゅ!」
スプーンで掬って食べさせると一瞬だけ哲学者のような葛藤した顔をしたが、ジェラートの魅力に勝てず口にする。食べた瞬間、目をぱっちりと見開き、ぱああ、と笑顔になった。
「きゅきゅ!!」
「ふふっ、お気に召しましたか?」
「きゅい!!」
『ん~、濃厚かつ口の中で溶ける甘みがまたいい』
『甘すぎず、サッパリしていていくらでも食べられそう』
『ググッ、……おいしい』
ノームは夢中で食べている。実は精霊の中で一番ジェラート系が好きなのだ。わいわいと流星果実ジェラートの感想を言い合いながら、スイーツを堪能する。
実際にベリーの甘みと、ほどよい酸味が口の中で溶けて癖になりそう。牛乳も濃厚だったのがよかったのかも。
「今後のことだけれど、世界樹や田畑も作ったし、ここを拠点にしようと思うのだけれど、みんなの意見は?」
「きゅ──」
『家を建てるのなら、あの鯨の大きな骨を使うのはどう?
「あ、そっか。ティーさんとラテさんに、温室を改装するときに手伝って貰ったわね。蒸留酒はあまりないけれど、醸造酒なら葡萄畑を作れば簡単に作れるし……。あとは少し時間が掛かるけれど、後追いで混成酒を渡すとかで交渉しましょう」
『設計はノームに任せれば? ね、ノーム』
『……』
ノームは何度か頷いた後、ジェラートのお代わりを要求された。コームは木材を切ることなら手伝うと言ってくれて、なんとも頼もしいわ。
夢が広がる。ちょっと違うけれど、私のやりたかった自給自足の生活に近づいているはず!
「あ、そうだわ。砂海豹様のお名前! シシンは知っている?」
「きゅ!」
『え、あーうん。知っているけれど……』
「きゅいい! きゅううう」
『えー、自分で言いなよ。あ、言っても分かって貰えないか』
「きゅうううう!!」
シシンと言い争っているけれど、傍から見ていると微笑ましい。
『
『
『
「きゅううううう!」
精霊たち特有の言語なので、なんて言っているか分からないけれど、仲良しそうね。砂海豹様は後脚で感情的になっていたが、ふと思前脚を使って文字を書き出した。さすが神獣種、字が書けるなんて……!
ええっと……。
砂漠の砂は柔らかく書かれた文字も読みにくい。かろうじて『リア』と書かれているのが見える。
「砂海豹様、すみません『リア』しか読めないです」
「きゅ! きゅうう……」
へなへなに落ち込む砂海豹様の背中を、そっと撫でる。
「リア様とお呼びするのは、ダメですか?」
「……っ、きゅう」
『いいって』
「まあ! ありがとうございます! リア様」
「きゅう」
リア様に抱きついたら、ジタバタしたが最終的には大人しく抱き返してくれた。
こうして私の怒濤の一日が、終わりを告げる。
砂食い鯨の残った肉はハンバーグと、塩漬けにして一週間寝かせてからベーコンにしましょう。
砂海豹様、リア様の呪いが解けるまで、あるいはある程度元気になるまでは──だけれど。アドリアが世界樹を出現させてくれたから、魔物に襲われることはないだろうし。
モフモフを洗ってあげて一緒に添い寝しよう。美味しい物にモフモフ神獣様を合意的に触れられる! なんて最高なのかしら。これはもう運命ね!
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