第19話 球技大会

「花沢くんは球技大会には参加するのですか?」


 放課後、華燐と遊んだ後の帰り道にて琴美がそんなことを聞く。

 最近は寒いので柚衣の家で放課後は遊んでいる。

 ただ、遊んでいるといつの間にか外が暗くなっているのでこうして柚衣が送り届けるのが当たり前になっている。

 

「球技大会なあ......」


 冬休みまで行事がないと柚衣は思い込んでいたが来週の土曜日、終業式の約一週間前に球技大会があるらしい。

 自由参加のため参加したくない人は参加しなくてよい。

 それにそこまで大きなものという訳ではなく、種目はドッヂボールのみ。

 球技大会というよりドッヂボール大会という呼び名の方が正しい。

 ただ、ドッヂボールはチームスポーツなのでそもそもの問題組む人がいない。


「俺はいいかな、運動自体苦手だし」

「そうですか......」

「天瀬は参加するの?」

「私は少し悩んでいます。一緒に組もうと言ってくれる人はいるのですがあまり面識のない方々ですし」


 当然のことながら天使様は男子にモテている。

 女子の間ではよくわからないが時折話しかけられているので一定の人気はあるのだろう。

 ただ、その容姿に嫉妬の感情を向ける女子もおそらく少なくはない。


 どちらにせよ面識のない人と組むのが怖いのは当然だ。

 空気感に馴染めなくて一人取り残される未来が見えているので悩みもせずに柚衣だったら組まないと即答する。


 ただ、琴美は悩んでいる。

 おそらく球技大会自体には出たいのだろう。


 そして琴美は思ってもいなかった提案をする。


「あの......もし良ければ何ですが、一緒に参加しませんか?」

「......俺はいいや。さっきも言ったようにドッヂボールとはいえど運動系苦手だし。ちょっと出たいとは思うけど」


 悪いとは思いつつも柚衣は拒否する。

 一瞬、琴美となら球技大会に出ても良いと思ったがチームを組んだところで馴染める気がしない。


「ていうかどこのチームに入るつもりなんだ?」

「大園さんのチームです。大園さんと仲が良いと聞きましたしどうかなと思いまして」

「......確かに遼とは仲良い」


 少なくとも孤立することはこれでなくなったが参加する気は起きない。

 遼も柚衣のことをよく知っているので誘わなかったのだろう。


 チームからは誘われているのであとは知っている人が一人でもいたら琴美としては安心なのだ。

 

 ここで拒否してしまえば琴美は出たくても球技大会への出場をおそらく諦めてしまう。

 出たいのに出られないのは流石に虚しくて可哀想だ。

 

 柚衣は頭の中で葛藤する。


 そうして悩んでいると琴美が話す。


「別に無理にとは言いませんよ。私は運動の良し悪し関係なく花沢くんと一緒に参加できたらなと思っただけですので......友達と一緒にドッヂボールできたら楽しいだろうな、って。どうですか?」


 琴美はこちらを向いて微笑む。

 運動が苦手であることが参加したくない原因だと琴美は思ったのかあくまでも柚衣と参加したいと意思表示する。


 そんなことを言われれば流石の柚衣も負ける。


「わかった......じゃあ遼のチーム入るか」

「嬉しいです、来週の球技大会が楽しみですね」


 ***


「ほう、天使様に諭されて来たか」


 土曜日の朝、学校にて柚衣は遼含むチームと合流する。

 当然のことだが遼以外の人はあまり知らない。

 琴美はまだ来ていないようで話せる友達は遼だけである。


 遼のチームに入っていいか聞いたところ拒否されることなくむしろ歓迎された。

 人数が足りなかったこともあってちょうどよかったらしい。


「......どうしてバレた」

「そりゃあ柚衣がこういう場に理由もなく参加する訳がないからな」


 遼のチームは男子五人、女子七人の合計十二人チームだ。

 男女比はちょうど一対一くらいでちょうど良い。


 ただ、少し早く来てしまったようで男子はまだ柚衣含めて三人くらいしか来ていない。

 女子の方も四人来ていない。


 同じチームということで未来形で仲良くする気はないが挨拶くらいはしよう。

 挨拶くらいしておけば気まずくなることは少なくなるはずだ。

 そう思った柚衣は名も知らない男子生徒の元へ行く。


「おはよう」

「ん? あ、おはよう。花沢くんだっけ?」

「ああ、花沢 柚衣だ。よろしく」

「こちらこそよろしく。遠藤 秀一えんどう しゅういちって言います」


 穏やかな雰囲気の生徒で柚衣としても話しやすい。

 クラスメイトではないがよく遼と話しているところを見かけるのでおそらく部活が同じで仲が良いのだろう。


「趣味とかある?」


 これ以上会話に発展しないだろうと柚衣が遠藤の元を離れようとすると遠藤から質問が飛んでくる。

 流石に無視することはしないので柚衣は答える。


「特にないな。強いていうならゲームとか」

「ゲームいいよね、何のゲームやってるの?」

「最近は格闘ゲームとかだな」

「へー、ゲームセンターとかにもよく置いてあるよね。どっちの方が好き?」

「ゲーセンはあんまり行かないかな、家で基本一人でするな」

「そっか......格闘ゲームね、あんまりやったことないし今度やってみようかな」

「遠藤は何かゲームやってるのか」

「僕はRPGをよくやってるかな」


 かなりの話し上手のようだ。

 話が苦手な人であっても会話が繋がるように相手に質問を誘導することで会話が途切れることをなくしている。


 おそらく無意識のうちにやっているので才能を感じる。


 柚衣自身から壁を作っているのでわかったことなのだが遠藤は距離感を感じさせない。

 距離はもちろんあるのだがそれを感じさせないので話しやすい。


 そうして遠藤と話をしているとメンバーが全員集まっていた。


 琴美も来ていて遠藤と遼、柚衣以外の二人の男子は頬を赤くさせて見惚れていた。


 若干、琴美はこちらを見て挨拶したそうにしていた。

 しかし学校であまり関わらないようにすると決めたのか目が合うと琴美は目を逸らした。


 (別に気にしなくて良いのに)


 柚衣は思わず苦笑してしまう。

 琴美自身から誘ったのだし、柚衣も気にしていないと言っているのでそこは遠慮しないでほしい。


「天瀬、おはよう」


 二人の男子の視線も気に留めず柚衣は琴美に話しかける。

 

「あ、おはようございます......花沢くん」

「別に気にしなくて良いからな。そもそも友達なんだし」

「はい......そうですね。そうします」


 やはりまだ気にしていたようで柚衣がそう言うと明るい顔になった。

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