第17話 思わぬ露呈

「本当に二人で行くの?」


 午後一時ごろ、琴美は華燐にそう問う。

 

 テストも終わり柚衣は無事に赤点を回避した。

 英語に関しては平均点を十点程度上回っており過去に比べれば一番良い出来だった。

 苦手としていた数学も平均点にまであげられた。間違いなく琴美のおかげだ。


 琴美は相変わらずと言ったところで全教科一位だ。

 

 そして期末テストが終わったらあとは冬休みへ直行と言ったところで華燐から遊んでいる時にお願いされる。

 お願いというのは、琴美の誕生日がもうすぐだから柚衣の家で祝いたい、というもの。

 琴美の家でも誕生日会はやるようなのだが簡易的なものなのだそうだ。

 もう高校生なので祝って欲しい気持ちは無くなってくるし誕生日にケーキさえあれば十分になってくる。

 しかしまだ子供の華燐にとっては納得いかない部分があるのだろう。

 

 柚衣は華燐から聞かされるまで琴美の誕生日は知らなかった。

 それならばお礼も兼ねてプレゼントを用意しなければならない。


「うん! お姉ちゃんは絶対に来ちゃダメなの!」


 華燐にそこまで止められてしまっては琴美も何も言えない。

 琴美はこちらを少し申し訳なさそうに向いた。


「華燐をお願いします」

「ん、わかった......じゃあ、華燐行くか」

「レッツゴーなの!」


 今日は柚衣が保護者を務めなければならない。

 だからしっかりと華燐を守る必要がある。

 迷子にさせたりしないように注意を払わなければならない。


 天瀬家の親としても琴美の友達とはいえ華燐と二人でお出かけに行かせるのは心配だったらしい。

 ただ、華燐の確固たる意志によってなんとか説得できたのだそうだ。


 待ち合わせをしていたいつもの公園から足を進めて近くの駅へと向かう。

 そこから電車に乗って少し大きめのデパートへ進むのだ。

 ついでに華燐にもおもちゃの一つくらい買ってあげようと思う。


「華燐、プレゼント何買うのか決めてるのか?」

「うーん、わかんない。けどお姉ちゃんが好きそうなの選ぶ!」


 華燐が買ったものはなんでもきっと琴美は喜ぶだろう。

 柚衣はバッグからスマホを取り出して横にいるウキウキの様子の華燐を撮っておく。


 心配をかけないように適度に琴美に写真を送っておこう。


「お金はどれくらいあるんだ?」

「えーっとね......二千円! お年玉とお手伝いして頑張って貯めたの!」


 華燐は手をピースにして得意げに柚衣に向かって笑う。

 まだ五歳にも関わらず姉に感謝し、お礼をしたいという気持ちを華燐は持っている。


 そうして電車に乗り、約三十分でデパートについた。


「まずどこに行くかな......」


 デパート内にあるタッチパネルを操作し、柚衣はどんな店があるかを見ていく。

 柚衣が琴美に贈ろうと考えているのはハンドクリームだ。

 冬は乾燥の季節なので、まず間違いなくハズレではない無難な贈り物だ。


 華燐が贈るものはわからないが両者共に高いものは買えない。

 そうなると雑貨屋あたりがちょうど良いだろう。


「とりあえず雑貨屋行くかー」

「ざっかや?」

「日用品とか売ってるところだ」


 立ち並ぶ店を見ながら目的の場所へと向かっていく。

 すると、前から歩いてくる見覚えのある姿が柚衣の目に映る。


「あれは......もしかして遼?」


 柚衣はその人物に声をかける。

 おしゃれをしていて髪型も変わっているのですぐには気づかなかったが遼で間違いはなかった。


「んあ、柚衣じゃん。奇遇だな」

「お前おしゃれしてたから気づかんかったわ」

「だろ? イメチェンしてみた、そしたら俺一人になった瞬間めっちゃナンパされんの! もうこの髪型絶対やらねえわ」


 もはや髪型どうこうの問題ではない気がするが柚衣は特に何も言わないでおく。

 本人は嫌味などなんでもなく困ったように言っている。


 遼は柚衣の横にいる華燐に目をやる。

 一方で華燐は柚衣の手を握って不思議そうに遼を見つめ返している。


「この子、妹? でも柚衣、妹いなかったよな」

「あー、従姉妹。ちょっとした親戚の集まりがあって折角だしデパート連れてきた」


 流石に天使様の妹であることは言いたくない。

 言って説明してもそれはそれであらぬ方向に勘違いされる可能性も出てくるからだ。


「ふーん、お嬢さん、名前は?」

「天瀬 華燐、五歳なの」

「......この子誰かに似てるような」


 柚衣は内心でヒヤヒヤしている。

 容姿から天使様と結びつけるのは簡単なことだ。

 華燐も頭の上に輪っかが、背中に羽が生えているようにも見える。


 そして華燐の方から地雷を踏んでしまいそうになる。


「あのね、今日はね、華燐のお姉ちゃんの誕生日プレゼント買いに来たの!」

「そうかそうか」


 遼はしゃがんで華燐と話しており、その顔は小天使の熱で溶けそうになっている。

 若干、女性不信になっている遼が久々に純粋な存在を見て癒されている。


「お姉ちゃんは何歳なんだ?」

「んーとね、多分十五歳、お兄ちゃんと同じ学校に通ってるって言ってた!」


 子供はまだ事情も何も知らずに純粋だ。

 悪気は無いし、そもそもここで遼と会ってしまったのが運の尽き。


 流石の遼も気づいたようでこちらに視線を向ける。


「なあ、もしかしてこの子、天使様の妹?」

「......そうですね、はい」

「ってことは天使様って柚衣の従姉妹なの?」


 流石にここまでバレてしまっては正直に話すしかない。

 親戚という勘違いをされる方が面倒だ。


「いや、違う、別に華燐は従姉妹でもなんでも無い。とりあえず一から話す」


 柚衣はそう言い、遼に事情を説明することにした。

 嘘告された日に一人遊んでいる華燐と遊んであげたこと、そこから天使様と接点を持ったこと。

 

 遼は天使様などには興味はない、むしろ恐怖の対象なので何も反応されなかったが、納得したように頷く。


「ふーん、どうりで。壁のある天使様とどうやって仲良くなったのかなとか思ってたけどそういうことか」

「他の人に言うなよ。ただでさえこの前恨み買ってたんだから。天瀬の家で勉強したり、俺の家で料理作ってもらったり、そのことを他の男子が知ったらと思うと怖いからな」

「わかってるって。にしてもあの柚衣に友達ができるとはなあ」

「うるせえ」

「じゃあ俺は友達がゲーセンで待ってるからお暇させてもらうわ。ばいばい、華燐ちゃん」


 遼は華燐に手を振り、華燐も遼に手を振り返した。

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