好きだった幼馴染に告白されたが嘘告だった日、ヤケクソになって一人公園で遊んでいる幼女と一緒に遊んであげたらその幼女が同じ学校の天使様の妹だった
テル
第1話 幼馴染に嘘告された
「ゆっくんが好きです。私と付き合ってください!」
普段賑やかな木々が静まる校舎裏、想っている幼馴染である
校舎裏には二人以外誰もいない。柚衣の目の前にいるのは真っ直ぐとした瞳の千郷だけである。
千郷と柚衣は幼稚園から仲が良く、小中高と同じ学校になっていた。
中学三年生までは妹のような存在だと思っていた。
ちょっと天然でおっちょこちょいでどこかまだ子供っぽい。
しかし年齢が上がるにつれて大人びた雰囲気を持つようになっていた。
段々と異性として意識し始めるようになり、前のような距離感でいられなくなった。
そこから柚衣は自分の気持ちに気がついたのだ。
高校に入ってからなので約半年間、千郷のことを好きでいた。
ずっと片想いだと思っていたが、千郷も同じ気持ちであることがここで分かった。
千郷から言わせてしまったことに少し後悔の念を覚えつつも柚衣は告白の返事をする。
「千郷から言わせてごめん、俺も千郷のことが好きだ。だからこちらこそよろしくお願いします」
「っ......!?」
千郷は目を見開いた。そして何故だか目を逸らす。
どこか顔が青く、少しもじもじとしている。
柚衣は違和感を覚え、嫌な予感がした。
残念なことにその嫌な予感は当たっていた。
後ろの茂みがモゾモゾと動き出して女子生徒三人が出てきた。
そして柚衣にニヤニヤとしながら近づいた。
「てってれー、ドッキリ大成功〜」
「......は? おい、千郷?」
「あの、えっと......ごめん......なさい、罰ゲームです」
千郷は罰が悪そうに言う。
柚衣の胸はその瞬間に一気に締め付けられた。
(っ......嘘告ってことかよ)
「千郷があんたのこと好きなわけないじゃん」
「ね〜」
千郷以外の三人は笑いながらそう言う。
柚衣は殴りかかりそうになったがこんな奴らのせいで人生を棒に振ってしまう方が馬鹿馬鹿しいと思い、拳を思いっきり握ることで我慢する。
(また......俺の勝手な妄想だったわけか。もう誰も信じられないな)
「そっか、そうだよな」
「ゆっくん、あの、本当に......」
千郷は柚衣が自分のことを好きだと思いもしなかったのだろう。
他の女子生徒は相変わらず笑っている。
(なんだよ、これ......)
柚衣は今まで想っていた自分が馬鹿馬鹿しいと感じ始める。
途端に千郷を見ても以前のような気持ちは何も感じなくなってしまう。
そこで感じるのはやりようのない怒りと羞恥と悲しみ。
また絶望のどん底に立たされたような気分だった。
周りには誰もいない。
「......最悪だ」
「ゆっくん......ま、待って!」
千郷の声を無視して柚衣はトボトボと帰路についた。
過去にないほどに重い足取りだ。
もう誰も信用できない。
フラフラと右往左往しながらも家へと進んでいく。
あれは柚衣の気持ちを完全に踏みにじっている。
夢ならタチの悪い夢だ。それが現実なのだからもっとタチが悪い。
告ってフラれたのなら仕方ないと本人も割り切れる。
千郷に彼氏がいたのなら諦められる。
柚衣の心はもうボロボロになっている。
そんな傷心を癒すために自販機で缶の炭酸を買い、公園で一休みすることにした。
ベンチに座り、胸に熱いものが込み上がってくる。
しかし不思議と涙は出ない。
柚衣はヤケになって一気に炭酸を飲み干した。
「千郷......」
柚衣は手に持っていた空の缶を押し潰す。
そして自然と出るため息。
ぽっかりと空いた心の穴。その周りにあるのは悔しさ、悲しみ、怒りなどの負の感情。
柚衣はゆっくりと目を瞑った。
公園には誰もおらず聞こえてくるのはカラスの声だけ。
そのように思われたが前の方から砂を掘る音が聞こえてくる。
目を開けて前方に目をやれば五歳くらいの少女が一生懸命砂を掘って集めて砂山を作っていた。
周りには誰もおらず一人で黙々と砂山を作っている。
その状況に思わず自分と重なっていた。
そんなはずはないのに無意識的に感じたのは孤独。
親は近くにいないのだろうか。そうして周りを見渡しても誰もいない。
柚衣は気づけばその少女に近付いていた。
「ねえ、君、名前は?」
「
華燐と名乗る少女は指を五本出して年齢を表す。
柚衣はその様子を見て元気いっぱいで可愛らしいなと思わず微笑んでしまった。
傷ついた心を癒してくれる。天使の輪っかが華燐の上に見えた気がした。
「俺は花沢 柚衣。よかったら一緒に遊んであげようか?」
柚衣がそう言うと華燐はパッと顔を明るくする。
そしてピョンピョンと手を上げて飛び跳ねた。
その様子を見てまたもや柚衣は笑顔にされてしまう。
(あー! もうとりあえずこの子と思いっきり遊んでやろう)
半分ヤケクソだった。傷心が少しでも紛らわせられるならなんでもよかった。
「うん! お願いなの! 今砂山作っててね、それでね......」
華燐の喋り方は年相応だ。そして無邪気な可愛さもある。
(......この子の親はこの子を放って何をしているのだろう)
周りに同伴者一人もいないのは非常に危険である。
まだ五歳の少女にも関わらずだ。
少々疑問に思ったので柚衣は砂山を大きくしながら華燐に聞いた。
「華燐ちゃんのお母さんはどこにいるの?」
「うーんとね、華燐のお母さんは家にいるの! お父さんは今日は遅くに帰ってくるって言ってた!」
「一人でここに来たの?」
「うん、そうだよ! 家でお母さん忙しいから全然かまってくれないもん。お姉ちゃんも忙しいし。だから華燐こっそり抜け出してきたんだ!」
子供の出来心と好奇心によるものだ。それなのであれば家の場所を聞いて帰してあげなくてはならない。
もうすぐ日が暮れて辺りが暗くなりそうなのだ。
華燐の家族が心配していることだろう。
「そっか、じゃあもうちょっとしたらお家帰ろうか。お母さん心配してるかもしれないし」
「......うん、わかった」
華燐は少ししょんぼりとしたが、暗くなる前に早く家に帰りたいという気持ちも少々あったのか素直に受け入れた。
柚衣はどうせなら砂山を完成してしまおうと張り切ることにした。
「砂山にトンネル作りたい?」
「うん! お兄ちゃんできるの?」
「こう見えてもお兄さん器用なんだぞ〜」
肩を軽く回してものの数分で砂山に穴を開けてトンネルを作った。
華燐は穴を覗いて上機嫌にはしゃいでいる。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
遊びに満足したようでまたピョンピョンと飛び跳ねている。
柚衣の傷心は見えない場所に隠れていた。
それだけ遊びに夢中になっていたのだ。
「じゃあそろそろ帰ろっか、家の場所教えてくれる?」
「うん、わかった!」
華燐は小さな手で柚衣の手を握った。
可愛らしくて愛おしい。
少し遊んだだけだが子供と触れ合うのも悪くはない。
「うーん、こっち」
華燐は指を指しながら元気よく歩いている。
柚衣は少しだけ妹弟が欲しいと思ってしまった。
そうして少し歩き始めた時、華燐の名前を呼ぶ声が前方から聞こえてきた。
「華燐ー!」
「あ! お姉ちゃん!」
華燐は大きく手を振る。
そしてそれに気がついたのか遠くにいる姉らしき人物は走って近付いてくる。
やはり探していたようだ。とにかく柚衣は安堵した。
「華燐!」
「お姉ちゃん!」
華燐は俺の手から離れて走って姉の元へダイブする。
そのまま姉は妹を強く抱きしめた。
「心配したのですからね? 一人で家を出てはダメでしょう?」
「ごめんなさい、でもね、あのお兄ちゃんが遊んでくれたの!」
華燐は柚衣の方を指差す。
そして柚衣は現れた華燐の姉の正体に絶句するしか無かった。
「......天瀬?」
サラサラとしたロングヘアーにパッチリうるうるな瞳。
その容姿、佇まいに誰もが魅了される才色兼備の大人びた雰囲気を持つ女子高生。
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