終章
4-1.エピローグ1
小さな池に囲まれた真新しい
ヤマトの司祭長を継ぐことになった沙々羅が舞い踊るのは、標高500メートル弱の小高い山の山頂辺り。この
「颯様」
舞い終わった沙々羅に呼ばれ、颯は前に進み出る。その手には
颯は幾ばくかの名残惜しさを覚えつつ振り返り、沙々羅と頷き合った。
「兄さん、沙々羅さん」
二人の元に真菜が歩み寄る。
「真菜様。これでよろしいでしょうか」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう」
ニコニコと笑みを浮かべる真菜に、沙々羅が微笑みで応じる。颯はそんな二人の様子を眺めながら、沙々羅の穏やかな笑みの中に一抹の寂しさを見て取った。
「颯、本当にこれで良かったのか?」
「はい。
薙を討ったことで一度は颯が名乗ることになった“彦火火出見尊”という名。元々五瀬の祖父の別名でもある高千穂の一族の長の名は、近頃、彦五瀬へと受け継がれた。これにより、後日、真菜と共に元の時代へと帰還する颯に代わり、彦五瀬が彦火火出見尊としてスジン帝の後を継いでジンム帝に即位する手はずとなっている。
「それにしても、五瀬さんが死んだって聞いたときは心臓が縮む思いでしたよ。改めてになりますけど、本当に無事でよかったです」
あの日、黄泉国で
日の神の子の一族が日に向かって戦うのは良くなく、日を背にして戦うべきだという彦五瀬の考えからの転進だったが、
丁度、
「実際、世界に満ちた死の穢れが浄化されなければ、私はこうして生きてはいなかっただろうな」
颯が黄泉津大神を倒した際に生まれた白い世界。あの世界は黄泉国の外にも広がっていて、この国中の死の穢れを浄化したのだという。そして、それが彦五瀬の傷の治癒にも一役買ったというのだから、彦五瀬は自身の生存が颯のおかげだと考えていた。
「それに、この剣」
彦五瀬が腰に
「颯から譲り受けし霊剣があればこそ、かの長髄彦を討ち果たすことができたのだ」
邪や死の穢れを
清らかな性質を持つその剣は、黄泉津大神が倒れたことで
その真偽はともかく、颯は紀国の山中で高千穂の軍勢と合流して彦五瀬の生存を知ったとき、今では人の手に合うサイズに縮んだその剣を彼に託した。
その際、既に元の時代に帰る
彦五瀬は反対したが、元の世界に戻る颯が長を続けるより、この時代を生きていく彦五瀬こそが高千穂の、
「元々、僕は真菜を救いたかっただけですから」
「その結果、黄泉津大神を討ち、生きとし生けるものすべてを救ったのだから、颯こそがこの国を治めるべきだと思うのだが――」
彦五瀬は最後まで言い切らず、その口を閉じた。颯の表情から、何を言っても決意が変わることはないと気付いたのだ。それに、このことは既に何度も話し合ったことでもあった。
「颯、感謝する。この上は、颯に恥じぬ、いや、颯の誇れる
「五瀬さんなら、必ずなれますよ」
颯と彦五瀬が微笑み合う。見つめ合う二人は、言葉以上の信頼という絆で結ばれていた。
「それにしても、このような社を建てただけで時を越えることができるとはな」
彦五瀬が颯の背後に視線を移し、しみじみと口にした。
「
「この時代と私たちの時代で接点を作り出すのが、この術の
真菜が訳知り顔で二人に割って入った。沙々羅と五十鈴媛、伽耶も加わり、皆で社を見つめる。
「颯様と真菜様の帰られた後、颯様を
日本神話好きの真菜をして、よくわかっていない神と言わしめた日向御子神。その名が歴史上に初めて登場した瞬間だった。
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