悪役令嬢に転生したけどそれが何か?夢を叶えるためなら汚名返上は当たり前、王子様だろうと利用させていただきます!

美月九音

第1話 性格に難ありって、お気の毒なキャラよね

 私の部屋には、小型のテレビがある。それもゲーム専用の。


「昨日の続き~!」


 ゲーム機本体の電源を入れると、ゲームソフトのデータの読み込みが始まる。


*前回からの続き……婚約破棄イベントをスタートする。


 画面に表示されたコマンドをタップすると、ナレーションが流れ始めた。


【王城の広間では、王侯貴族による舞踏会が開催されていた。煌びやかなシャンデリアは美しく、国の豊かさを現している】


【広間中央では、弦楽器が奏でるワルツに合わせ、優雅に舞い踊る華やかな令嬢たちの姿があった。誰もが酔いしれる、夢のような空間】


【が、しかし──その絢爛豪華けんらんごうかな広間の一画で、険悪な空気を漂わせる者がいた】

 

『どういうおつもりですの?』

『どうもこうもない。レティシアとの婚約を破棄すると言っている』


 な、なんですって! この私との婚約を、あなた如きが⁉


『ルバイン殿下、ご自分のお立場をわかっていらっしゃるのかしら』


 第三王子とはいえ、農民の血を引く庶子の分際で、公爵家と隣国の王女の血を引く私と結婚できるのよ。ありがたいと思いなさい!


『人を見下したその高慢こうまんちきな態度……もう我慢できない。それに俺には、気になる人がいるんだ』


【ルバインはアピールするように、一歩後ろに立つディアナにちらりと視線をやる。それに気づいたディアナは、頬を赤く染めた】


 な──なんなのなんなの、なんなのよ!


【周囲の貴族たちは耳をそばだて、様子を窺っている】


 今日は王家主宰の舞踏会。そんな場で、こんなにたくさんの観衆がいる中で、私に恥を搔かせるなんて許せない。


 ですが、取り乱すなんてはしたないこと、いたしませんわ。


『あら、そうですの』


 幸せになど、させませんわ。ディアナ──イジメてやる。とことんイジメぬいて、心をズタズタにしてやるんだから!


【レティシアのディアナを見る目は冷淡で、口元は歪に弧を描いていた──】

 

{レティシアがディアナに対して取る行動を選択してください}


 選択A 眼中にないかの如く颯爽と会場を去る。

 選択B「庶子と平民、お似合いですこと」と嫌みを言う。

 選択C プレイヤー自身が台詞を打ち込む


「う~ん、どうしようかな。前はBを選んで失敗したからな~。ここは慎重にいかないと……」


 ディアナが身分を気にして、身を引いてしまったのだ。ルバイン攻略に挑戦していた私は、あえなく失敗。その後は攻略対象を変えて、ストーリーを進めていたんだけど……最後にディアナと結ばれたのは、まさかの前回攻略したキャラと同じだった。トホホである。


 私が今嵌まっているのは、恋愛シミュレーションゲーム『フラッター・ラブアフェア』。

 

 中世ヨーロッパ風の世界で、メフィラーナ国王立学園を舞台に繰り広げられる恋愛ストーリーを楽しむというもので、いわゆる乙女ゲームというやつだ。


『フラッター・ラブアフェア』の大筋は、ヒロインのディアナが高貴なイケメンの青年たちを、無意識のうちに虜にしてしまい、気づけば逆ハーレムになっていた! というモテ気分を味わえる乙女ゲームだ。


 とはいえ、最終的にディアナは、そのイケメンたちの中から一人を選ぶわけで。


「失恋する数多あまたのイケメンたちを思うと切ないのよね~」


 そこで私は、攻略対象全キャラに幸せを! 

 

 を掲げ、ヒロインとのハッピーエンドを攻略対象全キャラに贈ろうと意気込んでいるわけだけど……


「このゲーム、たまにヒロイン以外の行動を選択させるのよね」


 その分、ストーリー展開のバリエーションは豊富で面白くはある。


 あるんだけど……さてはてどうしたものか。


「自分で台詞っていうのも難しいし……Aでいく?」


 いやいや、早計よね。ちょっと台詞を考えてみよう。

 悪役令嬢のレティシアが口にすることって、基本暴言だからこんな感じかな。


『婚約解消なんてさせませんわ。あなたに権利などないのよ』。それとも、『聖女を娶ってのし上がる気なのね。さすがは庶子。浅ましいですこと』、なんてどう? レティシアなら言いそうな気がするんだけどな。ゲーム内の悪行からして。


「レティシアって、美人だけど性格悪いのよね~。どう育ったらあんな性悪になるのかな。不思議でしかないよ」


 レティシアの両親はいたって良識人。兄も正義感溢れる好青年だ。普通に考えたら、家族に恵まれていると思う。それなのに、とにかく人の幸せが気に入らなくておとしめるって、相当病んでるとしか言いようがない。


「せっかくの美貌なのに、性格に難ありって、お気の毒なキャラよね」


 レティシアは紺藍こんあいの髪をしていて、さらさらのロングストレートだ。色白で大きな二重の目は、苺のような赤い色をしている。身長も小柄なヒロインより随分と高く、モデルのようにスラリと手足が長い。


 本当、悪役にしておくにはもったいない美女なのよね。性格さえ良ければ、ヒロインに匹敵するモテ女だと思うのに。


 このゲームのファンの間では、ヒロインに対するイジメが陰湿すぎると、レティシアへの野次がネット上で飛び交っていたりする。


 ゲームなんだから、そこまで熱くならなくてもいいのにな、と私は思うけど。


 だって、悪役がいないと物語が盛り上がらないのよ?


 それに、悪役あってこそ、ヒロインが際立つってものでしょ!


 そうはいっても、ディアナは本当にいい子だから、悪役がいなくても十分性格の良さが伝わってくるけど。


 どんなふうにいいのかって?


 それはこんな感じ。


 光の魔法を使える聖女ということで、平民でありながら王立学園に通っていることもあって、貴族から(特に女の子)の妬みを受けてしまうんだけど、明るく前向きで優しい子なのだ。たまに天然も入っていて、和ませてくれたりもする。平民だから……という卑屈なところもない。それどころか、より一層の努力をしようとするのだ。自分に意地悪してくる相手に対しても、許す心を持っているほどの寛容さもある。


 まあ、ありがちな設定ではあるかな。


 容姿もとっても可愛らしい。優しいピンク色の髪はショートボブで、目はターコイズのような青。ほんの少し目尻が下がっていて、守ってあげたくなるような女の子だ。


 これは惚れるわよね~。私が男だったら、絶対好きになっちゃうもの。


 とはいえ、罪作りではある。振られる攻略対象キャラがいるのだから。


 み~んなが幸せになるストーリーって、ないのかな。


「はぁー、このゲームの世界に入れたら、私が振られたイケメンの皆さんを、幸せに導いてあげるのにな~」 


 私の勘が告げているのよ! 第三王子のルバインにお似合いなのは、絶対幼馴染みのノーランだって。

 いつもそばで献身的に尽くすノーランの姿には、並々ならぬルバインへの愛を感じるもの。


 はう~、粋がってるルバインを組み伏せるノーラン。絵面を想像すると、どきどきしちゃうわ。


 それに第二王子のヴィクトルだって、サブキャラだけど他国から移住してきたコンラッドとくっつくべきよ。だってヴィクトルは、他人の世話を焼くタイプじゃないのに、コンラッドが困っていたら必ず手を貸すんだもの。自覚してないだけで、絶対コンラッドのことが好きだと思うのよね。


「あ、いけない私ったら、つい腐女子眼鏡が発動しちゃった」


 実は私、BLも好きで、コミックや小説を多数読んでいる。だって素敵な恋物語に、性別は関係ないと私は思っているから。


 私もいつか、王子様みたいな素敵な人と恋をしてみたいな──

 

 これは密かな私の夢。

 でも今はまだ、恋はお預け中。


 なぜって?

 

 それはね、私には何を差し置いても叶えたい夢があるから。


優衣ゆい、まだ起きてるの? そろそろ寝なさいよ」


 ドアの隙間から漏れる明かりに気づいたのか、お母さんが声をかけてくる。


「は~い。あと十分だけ楽しんだら寝るから!」


 寝る前の一時、この乙女ゲームをやるのが私の日課になっていた。

 それを知っているお母さんは、「ほどほどにね」とだけ言って立ち去ってくれる。


「あと三人攻略したら、コンプリートなんだけどな」


 このゲームには、六人の攻略対象がいる。王子三兄弟と、侯爵家の嫡男であるライナス・バートランド。それから伯爵家の次男、ルーク・ミュレール。あと一人は、子爵家の次男でマーカス・ブライス。


 ライナスとルーク、そしてマーカスはすでに攻略済み。残すは、王子三兄弟。


「あとなんクールプレイしたら、全ルート制覇できるんだろう」


 今が五クール目だから、最短であと二クール。失敗すれば、さらに……


 このゲームの厄介なところは、最後の最後までディアナが誰を選ぶかわからないところだ。だからリセットもできない。


「十クールは覚悟しておいたほうがいいよね」


 え、もう諦めたらって?


 ぜーーったい、イヤ!


 なぜなら、私が六人全員攻略したいのには、幸せを! の他にも理由があるからだ。


 それはね、この乙女ゲームには、禍々しいドクロのついたスタートボタンがあるの!


 だけどこのステージは、何かをクリアしないと開かない設定になっていて。

 多分、ドクロマークの下にあるメーターみたいな表示がMAXになると、開放されるのだと思う。


 その何か──私は攻略対象者全キャラコンプリートだと睨んでいる。なぜなら、今日の段階で、そのメーターは五十パーセントまで貯まっているから。


「どんなステージなのかな。ひょっとして、BLの花園だったりして?」


 なんて、それはないか。だって、ドクロマークだよ? 禍々しいストーリーが用意されているに違いない。


 え、攻略対象たちが幸せでなくなるかもって?


 う~ん、悩ましいところだけど、やっぱり秘密にされると知りたくなるのが、人の心理だと思わない? それに、きっと最後はハッピーエンドなはず。ドクロステージだろうと、乙女ゲームなんだから!


「絶対に、攻略してみせるからね。クリストフ、ヴィクトル、ルバイン!」

 と意気込んではみたものの……


 ルバインもヴィクトルも、ディアナに好意を寄せている。そこまでは攻略できているのに、くっつくまでいかない。ある意味、ディアナのほうが難解な気もしてくるのよね。


 もー、なんで? 意地悪なの、この乙女ゲーム。 


 でも、第一王子のクリストフだけは違う。これまでも何度か攻略に挑戦したけど、ちっともディアナになびかなかった。気難しい王子ったらないわ。


 クリストフは三人の王子の中で、一番の美形だ。シルバーグレーの髪で、切れ長の目は黄金色。頭脳明晰で、魔法の技術も高い。


 そんなクリストフだけど、いつも何かにイライラしている。


 イライラの原因──それさえわかれば、落とせるのに。


 あと三人、あと三人なんだから、なんとしても攻略しないと。そしてドクロステージに挑戦したい!


「あ、もうこんな時間なんだ。長考ちょうこうしすぎて、ちっとも進んでないんですけど! でも……さすがに寝ないと、朝起きられなくなっちゃうしな」


 時刻は午前零時になろうとしていた。


「前回はBでダメだったから……まあ、Aでいいか」


 あんなに考えたくせに、結局Aって……


 いいのいいの、ダメだったらまた挑戦すればいいんだし、運が良ければヴィクトルを攻略できる可能性もあるんだから!


 と楽天的なところがある私は、Aを選択してからゲームを終わらせた。


「アラームもOK」


 目覚まし設定を確認し、スマホを枕元に置いてから、私は部屋の明かりを消してベッドに入る。


 午前零時なんて、朝起きられないかもと騒ぐほどではない。そう思われるかもしれないけど、私の家はパン屋で朝がとっても早い。

 両親は午前四時過ぎには起きているし、私も五時には起きて、パン生地をこねたりと手伝いをしている。さすがにまだ九歳の弟は起きてこないけど。


 そもそも弟は、サッカー選手になりたいみたいで、パン作りに興味がない。

 その点私は、子どものころからパン作りに興味があった。十歳のころからコツコツと、両親から指導を受けながら修業してきたから、七年経った今ではかなり腕を上げていると思う。


 もっといろんなパンを作れるようになりたいな。


 うちは小さなパン屋で、定番とされる食パンやあんパン、メロンパンにカレーパンといったパンの内の、十五種類くらいしか作っていない。スペース的にも人手的にもそれが限界で。


 私の担当はあんパンと揚げパンで、まだデニッシュやクロワッサンなどは任せてもらえない。だからもっと修業して、腕を磨かなければと思っている。


『美味しいね、このパン』

 

 そう言ってもらえるように。

 そして食べた人に、笑顔になってもらいたい。


 できることなら近い未来、今の店構えを改装して、カフェスペースのあるパン屋にしたいというのが、私の最大の夢だ。


「ふわ〜」


 意気込みとは裏腹に、大きなあくびが出る。


 明日から新学期か~。クラス替え、楽しみ。


 私は高校三年生になる。

 楽しいことが、たくさんあるといいな。


 じゃあ、お休みなさ〜い……


 期待を胸に、私は深い眠りに落ちていった。


*****

【作者より】

 この物語に目を留めていただきありがとうございます!

 悪役令嬢ものは初めて書きます。

 ですので、連載を続けていけるのか(読み手がいなかったら……)

 不安もあったりして……( ̄_ ̄|||)


 と、いうわけで、楽しんで読んで頂けますように!(≧∇≦)ノ、と願うばかりであります。


 更新は毎週金曜日と土曜日を予定しております。執筆ペースによっては、更新でき  る日が増えるかもしれません。(*^_^*)

 引き続き読んで頂けると励みになりますので、応援、宜しくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る