悪役令嬢に転生したけどそれが何か?夢を叶えるためなら汚名返上は当たり前、王子様だろうと利用させていただきます!
美月九音
第1話 性格に難ありって、お気の毒なキャラよね
王城の広間では、王侯貴族による舞踏会が開催されていた。煌びやかなシャンデリアは美しく、国の豊かさを現している。
広間中央では、弦楽器が奏でるワルツに合わせ、優雅に舞い踊る華やかな令嬢たちの姿があった。誰もが酔いしれる、夢のような空間。
が、しかし──
その
『どういうおつもりですの?』
『どうもこうもない。レティシアとの婚約を破棄すると言っている』
ルバインは縁を絶つように、右手で空を切る。
(な、なんですって! この私との婚約を、あなた
内心では、はらわたが煮えくり返っているレティシアだが、平静を装う。
『ルバイン殿下、ご自分のお立場をわかっていらっしゃるのかしら』
笑みさえ浮かべて、余裕を見せるレティシアだが──
(第三王子とはいえ、農民の血を引く庶子の分際で、公爵家と隣国の王女の血を引く私と結婚できるのよ。ありがたいと思いなさい!)
内心では、毒舌が渦巻く。
『人を見下したその高慢ちきな態度……もう我慢できない。それに俺には、気になる人がいるのだ』
ルバインはアピールするように、一歩後ろに立つディアナにちらりと視線をやる。それに気づいたディアナは、頬を赤く染めた。
『あら、そうですの』
レティシアは公爵令嬢。表向きは取り乱したりしなかった。
(なんなのなんなの、なんなのよ!)
周囲の貴族たちは耳を
(今日は王家主宰の舞踏会。そんな場で、こんなにたくさんの観衆がいる中で、私に恥を搔かせるなんて許せない。見ていなさい、ルバイン。後悔させてあげる。ディアナをイジメ抜いて、心をズタズタにしてね。あなたのせいで、ディアナはボロ雑巾のようになるのよ)
レティシアのディアナを見る目は冷淡で、口元は歪に弧を描いていた──
「さあ、ここからが正念場よ。心してかからないと」
私は画面に流れるストーリーを淡々とスキップしていき、今後の展開の岐路ともいうべき選択肢を迎える。
そこに表示されているのは──
【レティシアがディアナに対して取る行動を選択してください】
選択A 眼中にないかの如く颯爽と会場を去る。
選択B「庶子と平民、お似合いですこと」と嫌みを言う。
選択C プレイヤー自身が台詞を打ち込む。
の三択で……
「う~ん、どうしようかな。前はBを選んで失敗したからな~。ここは慎重にいかないと……」
ディアナが身分を気にして、身を引いてしまったのだ。ルバイン攻略に挑戦していた私は、あえなく失敗。その後は攻略対象を変えて、ストーリーを進めていたんだけど……最後にディアナと結ばれたのは、まさかの前回攻略したキャラと同じだった。トホホである。
私が今、夢中になってやっているのは、恋愛シミュレーションゲーム『フラッター・ラブアフェア』。
中世ヨーロッパ風の世界で、メフィラーナ国王立学園を舞台に繰り広げられる恋愛ストーリーを楽しむというもので、いわゆる乙女ゲームというやつだ。
このゲームの大筋は、ヒロインのディアナが高貴なイケメンの青年たちを、無意識のうちに虜にしてしまい、気づけば逆ハーレムになっていた! というモテ気分を味わえるものになっている。
そうはいっても、最終的にディアナは、そのイケメンたちの中の一人と結ばれるわけで。
「失恋する数多のイケメンたちを思うと切ないのよね~」
そこで私は、攻略対象全キャラにハッピーエンドを! 幸せなエンディングを全パターン見るぞ!
を目標に掲げ、全キャラコンプリートを目指して意気込んでいるわけだけど……
「このゲーム、たまにヒロイン以外の行動を選択させるのよね」
その分、ストーリー展開のバリエーションは豊富で面白くはある。
あるんだけど……さてはてどうしたものか。
「自分で台詞っていうのも難しいし……Aでいっとく?」
いやいや、早計よね。ちょっと台詞を考えてみよう。
悪役令嬢のレティシアが口にすることって、基本暴言だからこんな感じかな。
『婚約解消なんてさせませんわ。あなたに権利などないのよ』
それとも、『聖女を
レティシアなら言いそうな気がするんだけどな。ゲーム内のレティシアの悪行からしても。
「レティシアって、美人だけど超絶性格悪いのよね~。どう育ったらあんな性悪になるのかな。不思議でしかないよ」
レティシアの両親はいたって良識人。兄も正義感溢れる好青年だ。普通に考えたら、家族に恵まれていると思う。それなのにレティシアは、とにかく人の幸せが気に入らなくて
「せっかくの美貌なのに、性格に難ありって、お気の毒なキャラよね」
レティシアは
本当、悪役にしておくにはもったいない美女なのよね。性格さえ良ければ、ヒロインに匹敵するモテ女だと思うのに。
このゲームのファンの間では、ヒロインに対するイジメが陰湿すぎると、レティシアへの野次がネット上で飛び交っていたりする。
ゲームなんだから、そこまで熱くならなくてもいいのにな、と私は思うけど。
だって、悪役がいないと物語が盛り上がらないのよ?
それに、悪役あってこそ、ヒロインが際立つってものでしょ!
そうはいっても、ディアナは本当にいい子だから、悪役がいなくても十分性格の良さが伝わってくるけど。
どんなふうにいいのかって?
それはこんな感じ。
聖女ということで、平民でありながら王立学園に通っていることもあって、貴族から(特に女の子)の妬みを受けてしまうんだけど、明るく前向きで優しい子なのだ。
たまに天然も入っていて、和ませてくれたりもする。平民だから……という卑屈なところもない。それどころか、より一層の努力をしようとするのだ。自分に意地悪してくる相手に対しても、許す心を持っているほどの寛容さもあって。
まあ、ありがちな設定ではあるかな。
容姿もとっても可愛らしい。優しいピンク色の髪はショートボブで、目はターコイズのような青。ほんの少し目尻が下がっていて、守ってあげたくなるような女の子だ。
これは惚れるわよね~。私が男だったら、絶対好きになっちゃうもの。
とはいえ、罪作りではある。虜にしておきながら、何人ものイケメンを「ごめんなさい」と振るのだから。
「はぁー、このゲームの世界に入れたら、私が振られたイケメンの皆さんを、幸せに導いてあげるのにな~」
私の勘が告げているのよ! 第三王子のルバインにお似合いなのは、絶対幼馴染みのノーランだって。
いつもそばで献身的に尽くすノーランの姿には、並々ならぬルバインへの愛を感じるもの。
はう~、粋がってるルバインを組み伏せるノーラン。絵面を想像すると、どきどきしちゃうわ。
それに第二王子のヴィクトルだって、サブキャラだけど他国から移住してきたコンラッドとくっつくべきよ。だってヴィクトルは、他人の世話を焼くタイプじゃないのに、コンラッドが困っていたら必ず手を貸すんだもの。自覚してないだけで、絶対コンラッドのことが好きだと思うのよね。
「あ、いけない私ったら、つい腐女子眼鏡が発動しちゃった」
実は私、BLも好きで、コミックや小説を多数読んでいたりする。だって素敵な恋物語に、性別は関係ないと私は思っているから。
私もいつか、王子様みたいな素敵な人と恋をしてみたいな──
これは密かな私の夢。
でも今はまだ、恋はお預け中。
なぜって?
それはね、私には何を差し置いても叶えたい夢があるから。
「
ドアの隙間から漏れる明かりに気づいたのか、お母さんが声をかけてくる。
「は~い。あと十分だけ楽しんだら寝るから!」
寝る前の一時、この乙女ゲームをやるのが私の日課になっていた。
それを知っているお母さんは、「ほどほどにね」とだけ言って立ち去ってくれる。
「あと三人攻略したら、コンプリートなんだけどな」
このゲームには、六人の攻略対象がいる。王子三兄弟と、侯爵家の嫡男であるライナス・バートランド。それから伯爵家の次男、ルーク・ミュレール。あと一人は、子爵家の次男でマーカス・ブライス。
ライナスとルーク、そしてマーカスはすでに攻略済み。残すは、王子三兄弟。
「あとなんクールプレイしたら、全ルート制覇できるんだろう」
今が五クール目だから、最短であと二クール。失敗すれば、さらに……
このゲームの厄介なところは、最後の最後までディアナが誰を選ぶかわからないところだ。だから途中でリセットもできない。
「十クールは覚悟しておいたほうがいいよね」
え、もう諦めたらって?
ぜーーったい、イヤ!
なぜなら、私が六人全員攻略したいのには、もう一つ理由があるからだ。
それはね、この乙女ゲームには、禍々しいドクロのついたスタートボタンがあるの!
だけどこのステージは、何かをクリアしないと開かない設定になっていて。
多分、ドクロマークの下にあるメーターみたいな表示がMAXになると、開放されるのだと思う。
その何か──私は攻略対象者全キャラコンプリートだと睨んでいる。なぜなら、今日の段階で、そのメーターは五十パーセントまで貯まっているから。
「どんなステージなのかな~。ひょっとして、BLの花園だったりして?」
なんて、それはないか。だって、ドクロマークだよ? 禍々しいストーリーが用意されているに違いない。
え、攻略対象たちが幸せでなくなるかもって?
う~ん、悩ましいところだけど、やっぱり秘密にされると知りたくなるのが、人の心理だと思わない? それに、きっと最後はハッピーエンドなはず。ドクロステージだろうと、乙女ゲームなんだから!
「絶対に、攻略してみせるからね。クリストフ、ヴィクトル、ルバイン!」
と意気込んではみたものの……
ルバインもヴィクトルも、ディアナに好意を寄せている。そこまでは攻略できているのに、くっつくまでいかない。ある意味、ディアナのほうが難解な気もしてくる。
もー、なんで? 意地悪なの、この乙女ゲーム。
でも、第一王子のクリストフだけは違う。これまでも何度か攻略に挑戦したけど、ちっともディアナになびかなかった。気難しい王子ったらないわ。
クリストフは三人の王子の中で、一番の美形だ。シルバーグレーの髪で、切れ長の目は黄金色。頭脳明晰で、魔法の技術も高い。
そんなクリストフだけど、いつも冷ややかな表情で、笑っている場面を見たことがない。何を考えているのか、謎のキャラでもある。
表には出さない胸の内──それさえわかれば、落とせるのに。
あと三人、あと三人なのよ! なんとしても攻略したい。そしてドクロステージに挑戦したい!
「あ、もうこんな時間なんだ。長考しすぎて、ちっとも進んでないんですけど! でも……さすがに寝ないと、朝起きられなくなっちゃうしな」
時刻は午前零時になろうとしていた。
「前回はBでダメだったから……まあ、Aでいいか」
あんなに考えたくせに、結局Aって……
いいのいいの、ダメだったらまた挑戦すればいいんだし、運が良ければヴィクトルを攻略できる可能性もあるんだから!
と楽天的なところがある私は、Aを選択してからゲームを終わらせた。
「アラームもOK」
目覚まし設定を確認し、スマホを枕元に置いてから、私は部屋の明かりを消してベッドに入る。
午前零時なんて、朝起きられないかもと騒ぐほどではない。そう思われるかもしれないけど、私の家はパン屋で朝がとっても早い。
両親は午前四時過ぎには起きているし、私も五時には起きて、パン生地をこねたりと手伝いをしている。さすがにまだ九歳の弟は起きてこないけど。
そもそも弟は、サッカー選手になりたいみたいで、パン作りに興味がない。
その点私は、子どものころからパン作りに興味があった。十歳のころからコツコツと、両親から指導を受けながら修業してきたから、七年経った今ではかなり腕を上げていると思う。
もっといろんなパンを作れるようになりたいな。
家は小さなパン屋で、定番とされる食パンやあんパン、メロンパンにカレーパンといったパンの内の、十五種類くらいしか作っていない。スペース的にも人手的にもそれが限界で。
私の担当はあんパンと揚げパンで、まだデニッシュやクロワッサンなどは任せてもらえない。だからもっと修業して、腕を磨かなければと思っている。
『美味しいね、このパン』
そう言ってもらえるように。
そして食べた人に、笑顔になってもらいたい。
できることなら近い未来、今の店構えを改装して、カフェスペースのあるパン屋にしたいというのが、私の最大の夢だ。
「ふわ〜」
意気込みとは裏腹に、大きなあくびが出る。
明日から新学期か~。クラス替え、楽しみ。
私は高校三年生になる。
楽しいことが、たくさんあるといいな。
じゃあ、お休みなさ〜い……
期待を胸に、私は深い眠りに落ちていった。
*****
【作者より】
この作品を読んでくださりありがとうございます。(≧∇≦)
一日おきに更新してまいります。
引き続き読んでいただけると嬉しいです。
読み進めるうちに、面白いと少しでも感じて頂けたなら、
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