第21話
司法試験の当日。
当然ながら参加者に、オデ以外の亜人種は見えない。
オデは背中を丸めて小刻みに震えている。
「いってきますど」
オレは震えるオデの背中を押す。
「いってこい」
オデの震えが止まった。
オデは会場の門をくぐり、こちらを振り向いて親指を立てた。
オレは一度家に戻り、オデの試験が気になって落ち着かず、モフを連れて散歩に出た。
モフの歩みに合わせてぐるぐると街を周回していたら、徐々に心が落ち着いてきた。
パン屋では店主のステラが接客していた。
「あの子かい? たまには休暇も必要さね」
忙しく働くステラを眺め、オレはパンを買って家に戻り、サンドイッチを作って、モフと公園に来た。
公園の芝生にアンナが倒れていた。
「大丈夫ですか?」
オレは呼びかける。返事の代わりに唸り声が響いた。
うつ伏せの状態からひっくり返って、アンナは空を仰ぐ。
「あと少しで見えそうなんです」
「なにが」
「私が本当に仕えるべき存在が!」
アンナは叫んで、芝生の上を転がっていった。
「サンドイッチ、食べますか」
「食べます!」
転がって戻って来る。
オレとアンナとモフはサンドイッチを分け合った。
「仕えるべき存在とは。ステラ様じゃなかったんですか」
「それはご本人から否定されてしまいました。『私はいずれ命尽きるもの、永遠の存在ではない』と」
彼女の意訳が入ったステラの言葉をオレは聴く。
「ではルノボグ様は」
「教会へ帰ることも考えました。しかし何かが違うのです。何かが……」
そう言って、アンナはまた芝生に背中を預ける。
「家族が関係するとか」
「キーワードです。ですが、実家に帰るのとは違うのです……なんというか……」
「見つかるといいですね」
「はい!」
アンナの頭を嗅ぐモフを引っ張って、オレは公園をあとにした。
試験の終了時間になった。
オレはオデを迎えに行く。
門の前で待っていると、肩を丸めたオデが歩いてくる。手には受験番号を控えた書類を握って。
「腹が減ったろ」
オレはそれだけ聴いた。
「たしかに、ペコペコだど」
オレとオデは会場をあとにした。
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