付き合ったばかりのカップルは、イチャイチャしたくて堪らない

中村 青

イチャイチャイチャイチャイチャイチャ………

 誰もいない、西日が差し込んでオレンジ色に染まった放課後の教室。俺は長年募っていた思いの丈を、彼女に伝えるために呼び出したのだ。


 緊迫した空気が漂う。

 普段は穏やかに笑みを浮かべている彼女の表情も、いつになく強張っているように見えた。


新名にいなくん、今日はどうしたの? 私に何か用事かな?」

「いや、用事っていうか、その……」


 あれだけ覚悟を決めてきたと言うのに、いざとなると口篭って何も言えなくなるのが情けない。

 イメージの中の俺は、バシっとカッコよく決めて、嘉村かむらのことを魅了していたというのに。


 手に汗が滲む。

 口の中は渇いてカラカラだ。


 頭の中は真っ白になるし、もう泣きたい。だがもう、こうして彼女を呼び出してしまったのだ。もう後にはひけない。


(だけどもし、振られたら……? 今までのように何気ない雑談とか、そういうこともできなくなるのか?)


 もしかして早まったのだろうか?

 最悪な事態が一気に脳裏を掠めていった。


 どうしよう、どうしたらいい?


 でも、高校生になってからの嘉村は垢抜けて、とても可愛くなったのだ。俺が知るだけでも数名の男子生徒が彼女に告白して玉砕しているのを見ている。

 他の男子に奪われるくらいならと勇気を振り絞ったのだが、呼びだす前の俺はどうして振られることを想定していなかったのだろうか?


 やっちまったとしか思えない——……。


 これは明らかに詰みだ。


「……用事がないなら、もう帰るよ? 新名くんも遅くなる前に帰った方がいいよ」

「いや、待って! その俺は……!」


 玉砕覚悟で拳を握り締めた。固く眼を閉じて、気持ちを全部吐き出した。


「嘉村、俺……中学の時からずっとお前のことが好きだったんだ! もし良かったら俺の彼女になってもらえませんか⁉︎」


 ——とうとう口にしてしまった。


 恐る恐る瞼を開いたが、彼女は困惑したまま何も言ってくれなかった。

 頬を真っ赤に染めて、どうしようか迷っているようにも見えた。


 そうだよな、同級生からこんな告白されても困るだけだよな……。

 振った後もクラスで顔を合わせなければならないんだ。彼女の都合も考えずに、俺は何てことをしてしまったのだろう。


「悪い、今のはナシ! こうして気持ちを伝えられただけで良かったんだ。聞いてくれてありがとう。んじゃ、俺……帰るな」


 込み上がる涙をこぼれないように必死に堪えて、俺は踵を返して扉へと足を向けた。


「待って、違うの! その、まさか新名くんが私のことを好きだなんて思っていなくて。嬉しかったの」

「——え?」

「私も、新名くんのことが好き。初めてあなたを見た時に一目惚れしたの」


 まさかの言葉に思わず耳を疑った。

 え、俺……もしかして立ちながら寝てた?


 夢じゃないかと頬をつねったが、ちゃんと痛い。


 夢じゃない——!


「それじゃ、俺の彼女に……なってくれるの?」


 嘉村は恥ずかしそうに俯きながら、静かにコクンと頷いた。


「これからよろしくね、新名くん」


 こうして俺、新名にいな慈狼じろう嘉村かむら波那はなは付き合うこととなったのだ。


———……★


 付き合ったその日は、緊張や嬉しさでキャパオーバーして、何を話したか覚えていなかった。

 だけど連絡先はちゃっかり交換して、その日から何気ないメッセージのやり取りを始めたのであった。


「アイコン可愛い……。っていうか、あの嘉村が俺のことを好きとか、マジかよ!」


 あまりの嬉しさに枕を顔に押し当てて「うおぉぉぉー……!」と雄叫びを上げた。興奮が止まらない!


 しかも一目惚れってっていうことは、入学当初から俺のことが好きだったってことか?


 ニヤニヤが止まらないぞ?

 もしかして明日、死んじゃうんじゃないのか?


 初めて入った家族以外の女子の連絡先に、嬉しさが止まらなかった(ただしグループを除く)


 間抜けなツラで眺めていると『ポン!』っとポップが入ってきた。


 送信者は嘉村だった。


【新名くん、今日は家まで送ってくれてありがとう。ちゃんと帰り着いたかな?】


 ——心配してくれたんだぁ……。

 優しいなぁ、俺の彼女は。


「無事に帰り着いて、ご飯やお風呂まで済ませたよ。今日は急な呼び出しだったのに、きてくれてありがとう……っと」


 本当は彼女になってくれてありがとうと伝えたかったけれど、照れもあって書ききれなかった。

 こうしてメッセージのやり取りをしているだけで幸せすぎて、フワフワと夢心地が続いていた。


【良かった。今日のことだけど、友達の名木野なぎのちゃんに話してもいいかな?】


「名木野さんに? マジかー……嬉しすぎる」


 名木野さんは嘉村さんの親友的女子だ。彼女に報告するってことは、本当に付き合ってることを意味する。


 いい、もちろんいい! むしろ全生徒に言いふらしたいくらいだ!


 何故なら彼女はモテる。学年一位の美少女……とまではいかないが、普通に可愛いし、スタイルだっていい。

 体育の時間にマラソンがあった時など、揺れる二つの膨らみを沢山の男子が凝視していたものだ。


 彼氏彼女になったら、あのオッパイを触ることが出来るのだろうか——……。


 悶々といやらしい妄想が膨らんでいく。

 嘉村と手を繋いで、ハグして、キスして、そして行く行くは……。


「まて、俺! 気がはやいって! まずは一緒にデートを」


 制服でする放課後デート。

 一緒にファーストフードに入って、何気ない会話を永遠に続けて。


「幸せの絶頂! 嘉村、大好きだー!」

「慈狼、アンタうるさい! 近所迷惑になるから静かにせんね!」


 こうして俺は幸せな時間を思う存分味わっていた。


 ———……★


 波那side……


 今日はずっと片想いをしていた新名くんに告白されて、驚きの反面嬉しくて堪らなかった。


 他の男子はともかく、新名くんは私に興味あるそぶりを見せてこなかったから、てっきり何の好意も抱いていないかと思っていた。


「これからは新名くんと一緒にデートしたり、お家に遊びに行ったりするのかな」


 新名くんのお部屋……いったいどんな感じなのかな?


 漫画やゲームとかしたりするのかな? 部屋は綺麗、それとも散らかってる?


「早く新名くんとイチャイチャしたいな……♡」


 読んでいた漫画を見ながら、妄想を広げていた。

 最初のデートはネットカフェとかがいいな。二人きりの密室で、最初は指が触れただけでドキドキして、次第に互いを意識して、そして——……。


「んふ……♡ 想像しただけで興奮しちゃう。たくさんのお客さんがいるのに、二人の気持ちは収まるどころかどんどん加速して、そのまま声を押し殺しながら♡」



 そう、何を隠そう私の趣味はエッチな漫画や小説を読むこと。色んなシチュエーションを読みながら、大好きな新名くんとのアレコレを妄想しまくっていた。


 他の人なんかじゃダメ。

 彼じゃないとダメだった。


「新名くんはどんな下着が好きかな? 最初は惹かれないように純白がいいかしら? それともフリフリフリルのパステルピンクの下着? それとも最初から飛ばして紐? ううん、いっそTバックかな?」


 考えただけで興奮しちゃう。

 そうだ、早速明日デートのお誘いをしよう。一緒に見たい漫画があるからって。


 でも、映画やカラオケも捨てがたいかも……♡


「新名くん、早く会いたいよォ……♡」


 私のとっておきの宝物、新名くんの写真フォルダー(盗撮)を眺めて、服の上から胸を揉みほぐした。


 新名くんの手、大きかったな……。

 あの手が私のオッパイを揉んだり、つねったりするのかな?


 指も意外と骨っぽくてゴツかった。やっぱり女と男じゃ、体の作りが違うのだと実感した。


 ——やっぱり、手だけじゃなくて身体やアソコも……違うのかな?


「もし、新名くんのアソコが大き過ぎたらどうしよう? は、挿入はいらなかったらどうしよう!」


 初めてのエッチの時、処女膜が破れて血が出るって聞いたけど、本当なのかな?

 自慰オナニーをして慣れていれば大丈夫って聞いたけど、どこまで本当なのだろう?


 漫画によって全然違うから、どれが本当なのか分からない。


 練習……していた方がいいのだろうか?


 でも逆に血が出ないと不審がられるかもしれない。


『え、嘉村さんって処女じゃなかったの?』


 ——処女なのに、自己開発で勘違いなんてされたら堪ったもんじゃない。


「下は余計なことはしないでおきましょう! でも、胸くらいは……」


 まさか、私がこんなにエロいことばかり考えているなんて知る由がない新名くん。

 この先、私たちはどうなるのだろうか?


 ———……★


最後までお読みいただき、ありがとうございました!

コチラは元々他サイトで公開していた話なので、表現が少し過剰になっておりますが、ご了承お願いしますm(_ _)m

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