私と付き合うのは駄目ですけど、あなたに彼女ができるのはもっと駄目ですッ!
沖田ねてる
好いた惚れたと言いはしたけど、その返答は想定外
あの日の彼女の言葉を、俺は一生忘れないだろう。
海に面し、背後に山を携えているという大自然にサンドイッチされた
始業式と入学式が共にあるこの日の朝一番に、俺、
「ボクのことを助けてくれた先輩のことが、ずっと、ずっと好きだったんだ。ボクと付き合ってください」
黒い短髪に金色の瞳を持った、ボーイッシュな彼女だ。低い身長に不釣り合いな大きいおっぱい様を携え、ボクっ娘で身体付きがエロイという反則技の持ち主であり、学校指定の赤いパータイと青色基調のセーラー服が、彼女の魅力を通常の三倍へと押し上げている。
中学校時代から俺に構ってくれていた数少ない女の子の一人で、一般的な青少年であれば了承と共に二秒でルパンダイブを決めに行くべき女の子だ。
うららかな陽の下、そよぐ春風が桜を散らしている中。彼女は両手を胸のところで合わせながら、満面の笑みで黒い学ラン姿で親譲りの茶色いクルクルパーマを持つ俺のことを見つめている。
手をこちらへ差し伸べてくる彼女に、当然俺の胸も股間も盛大に高鳴った訳だが。
「ごめん、ツツミちゃん。俺、好きな人がいるんだ」
「えっ。そ、そんな」
俺は首を横に振った。俺には好きな人がいたからだ。
こんな状態で、ツツミちゃんの好意を受け取ることはできん。予想外に嬉しいことであったのは間違いないが、こればかりは致し方なし。
「じゃあ、先輩も告白してきてよ。それが成功したんなら、ボクはもう諦めるからさ……でも、もし失敗したんなら。ボクのところに戻ってきてね。傷ついた先輩を、ボクがたっぷり甘やかしてあげる」
「分かった。昼休みに結果を伝えるから、中庭のベンチの所で待ってて欲しい」
「うん。ボク、待ってる。ずっと待ってるよ、先輩」
返事をしたツツミちゃんは微笑んでくれたが、その顔は今にも泣きそうなものだった。
彼女を蔑ろにすることはできん。俺は踵を返して走り出し、スマホですぐに件の彼女に連絡を取った。
話したいことがあるから、今すぐに屋上に来て欲しいと。
「急にこんな所に呼び出して、何の用ですか? なんか新入生の女の子に呼ばれてたとか聞きましたけど」
彼女、
腰まで伸ばした銀色の髪の毛に、水色に近い青い大きな瞳。整った目鼻に、俺より少し小さいくらいの背丈。大きすぎない絶妙なサイズのおっぱい様と、ツンっと自己主張している形の良いお尻を持っている。ツツミちゃんと同じセーラー服姿ということもあり、八人いたら十人が喝采を上げるであろう美少女だ。
校舎裏よりも高い位置にあるここは海風が絶えず吹いており、彼女の綺麗な銀髪の毛が舞い踊っているようにも見えた。
塩気が鼻孔をくすぐる中、銀色の髪の毛を揺らしてこちらを振り返り、軽く首を傾げてみせた彼女のその姿に、俺の胸の奥が心地よく締め付けられた。
やっぱり俺は、この娘が好きなんだって。
「アヤヤ、よく聞いて欲しい」
「は、はい。どうしたんですか、真剣な顔して。お腹でも痛いんです?」
彼女と出会ったのは、高校生になってから。入学式の前に人生初の一目惚れを経験した、俺の初恋の人である。その後は一年かけて親交を深め、想いを熟成させてきた訳だが。
真面目にやろうとした時にこの返答だ。普段から俺がどんな目で見られているのかが垣間見えたような気がするが、いま気にしたら心折れそう。
無視だ無視。
「俺はアヤヤが好きだ、付き合って欲しい。一緒の墓に……いや、ベッドに入ろう。この童貞を君に捧げる」
「えっ、えええッ!?」
諸々を無視して自分の気持ちを素直に言葉にした結果、素直になり過ぎた。人によっては速攻で通報をかまされるのではなかろうか。
桜の代紋怖い、違うんですポリスメン。
アヤヤは全く予想していなかったと言わんばかりに目を見開いていた。良かった、告白後(のち)留置場という事態にはならなかったみたいだ。
さて、後は彼女からの返答だ。
「えっと、その。好きで、付き合って欲しいって言うのは。つまり、そういうことで」
「…………」
「あの、えっと。だからその。だけど、私は前に」
「???」
いや、長い、長すぎる。
時間があるなら、日課であるエロサイトチェックしていては駄目だろうか、駄目だろうな。
最近のマイブームは、ママが優しく抜いてあげる的な甘やかし系だ。これが年下とかだと、なお燃える。哺乳瓶もほちい。
なに、エロは十八歳になってからって? うるせぇ、ムチムチの太ももを覆ってるストッキングより破りやすい法律、守ってる男子高校生の方が少ないわ。
つーか返事まだ?
前振り無しにいきなり告白した俺も悪いが、そろそろはいかイエスかを答えてもらえないかしら。
体感的には一曲どころか、一ライブを終えたくらいの心地がする。特殊相対性理論も頷いているぞ、アインシュタインさんバンザイ。
「な、ナルタカさんッ!」
「はい、ナルタカですッ!」
と思っていたら、いきなり名前を呼ばれた。
よし来た、審判の時だ。これが天国の門を開くか、地獄への片道切符になるのか、全ては彼女次第。
できればオッケーとかしてくれると嬉しい、ノーはクーリングオフだ。
さあ来い、バッチ来い、俺の明るい未来が、今ここに降臨せんッ!
「私と付き合うのは駄目ですけど、あなたに彼女ができるのはもっと駄目ですッ!」
「 」
続けて耳に届いた返事に言葉を失い、俺の目は点になった。
これはちょっと、忘れられそうにない。
「パードゥン?」
「そう、ですね。私としても説明が足りませんでした。今からお話しますので、よく聞いてください」
確か中学校で習った英単語でもって聞き返したら、ちゃんと説明してくれるらしい。良かった、分からないことはちゃんと人に聞くべきだな。
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥、俺は家族の恥さらし。格言の最後に以前妹に言われた余計な一言がくっついた気がするが、おそらくは気のせいだろう。
「まずですね、私がナルタカさんと付き合うということはあり得ません」
のっけから時速百キロのダンプカーに追突されたかのような衝撃が、俺を襲う。
「自他共に認めているエロスの化身。女の子と付き合って最初にしたいことが不純異性交遊だと日常的にそこかしこで吹聴し、しかも何ですかさっきの告白は。あれで女の子と付き合えると本気で思っているのなら、一度死んで人生をやり直すべきです」
「ギブアァァァップッ!」
もう止めて、とっくに俺の心のライフはゼロよッ! ここまで鋭利な言葉の刃物を聞いたことないわ、目から涙が止まらないもの。
「……とりあえず、俺がアヤヤと付き合えないことは解ったけど。あともう一つ、なんだって?」
「はい、あなたに彼女ができるのはもっと駄目です」
「ごめん、そこまで俺のこと嫌い?」
こちらの目を見て、はっきりと言い放たれた。気のせいじゃなかった。フっただけならまだしも、俺に恋人を作ることすら許さないらしい。
何故そこまで嫌われていたんだろう。彼女の為を思って、生理周期を管理するアプリまで入れたというのに。
「いえ、別に嫌いという訳ではないんですよ。ただ、その。いや、まあ、ナルタカさんは一緒にいて楽しい方ですし。見た目とかも、まぁ、わりと。なので、その、好きか嫌いかで言えば……好き、寄り……なのかも、しれないですけど」
軽く目を伏せて、照れたような様子のアヤヤ。あれ、ここまで聞いてると、俺の評判そこまで悪くなくない? これはワンチャンあるのでは。
「でも、全部が全部許容できるかと聞かれると、その。ぶっちゃけ、人の体調を勝手に記録してるところとかドン引きですし。あなたの大好きなえっちぃことしようぜって言われたら、返答に詰まりますし」
ワンチャンなかった。俺の努力が限りなく駄目な方向に進んでいたことも、よく解った。件のアプリは、たった今アンインストールした。
畜生、お前の所為だぞ。
「そもそも誰とも付き合ったこともないですし、好きとかそういうのがあんまり分かんなくて。その所為で私は前に……い、いやいやッ! それはそれとして。ナルタカさんに彼女ができたってなると、なんか嫌ですし」
今度は話がよく解らない方向へと進んでいる気がする。えーっと、俺と付き合うということはあり得ないけど、それはそれとしてそこまでこちらを嫌っている訳でもなく。
前とかは知らんけど、俺に彼女ができるという事実は嫌な気持ちになる、と。
「つまり、取り繕わない本音を言うと?」
「彼氏彼女とかじゃなく、仲の良いお友達のままじゃダメですか? もちろん、ナルタカさんは独り身のままで」
「アヤヤの心の平穏の為に末永く独り身でいろとッ!?」
こんな返答を一体誰が想定できたであろうか。否、こんなことを言われるなんて、誰も予想できなかったに違いない。
漢文で習った反語表現を駆使しながら、俺は必死に現実を飲み込もうとした。うん、無理。
「その、あの。ナルタカさんが新入生に告白された、とも聞きましたし。その後にこんなこと言われるなんて、思ってなくて。心の準備も何も」
確かに俺が告白に踏み切ったのは、ツツミちゃんとのことがあったからだ。どうもそれもあって、彼女はこんなことを言い出したらしい。
「い、いやでも、仲の良いお友達も良いじゃないですか。バレンタインチョコとかも普通にあげますし、チャットアプリでやり取りもしますし、プライベートで遊びに出かけたりもし放題ですよッ!?」
「そこまでオッケーなのに、どうしてお付き合いするのがアウトなの?」
「だって私の身体が目当てじゃないですか、やだーッ!」
「そう言うそっちは、俺の身体以外の何もかもが目当てじゃね?」
何なら今後の人生すらも決めてしまっている。えっ、何。俺これどうしたら良いの? ツツミちゃんにもなんて返事したら良いか解らないし。
「と、とにかく、ナルタカさんは独り身でいてください。遊びに行くなら全然オッケーですので、ではッ!」
長い銀髪を翻して、アヤヤは屋上を出て行った。残されたのは彼女のシャンプーの残り香と共に、疑問と困惑に苛まれている俺一人。
「……どうしろと?」
本格的にどうしたら良いかわがんね。教えてエロい人。
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