瞳について

赤堀ユウスケ

第1話

 都会にしては珍しい雪が降った。近所の子どもたちがダウンを着て、ニット帽とマフラー、手袋をしてはしゃいでいた。

 雪たちが、人をかき分け、妖精の集会へ行くのだと、風と共に先を急いだ。ごめんなさい、通してくださいまし……わたくしたちは必ず行かなければなりませんの…………。

 きっと、数分も経ってしまえばもう、アスファルトと共に汚れ、尊厳を失い、道の端に縮こまってしまうのだろうがしかし、やはりこの光景というものはどんな人間から見たって美しいものだ。粉雪たちの生きているうちに私の目はそれらを記憶し、永遠にする。

 今日はキリストの生誕祭である。

 私はケーキを買い忘れたのを家に着くまで忘れていた。

「ゆき、ごめん、ケーキ買い忘れた」

「あら、じゅんちゃん、いいのよ、私があなたの分も買ってきてあるから、ね」

 彼女は冷蔵庫から袋を取り出して食卓に置く。

「じゅんちゃん、いちごのケーキが好きでしょう。美味しいケーキ屋さんがあるって職場の人に教えてもらって、じゅんちゃん、気にいるかなって」

 彼女は箱からショートケーキを二つ取り出して陶器の皿に移した。フォークも二つ分目の前に並べて、

「手を洗ったら言ってね、食べましょう」

 と言った。

 私は手を洗いながら

「今日、雪が降っているのを見たよ。この辺りで降るのは久しぶりじゃないかな。私の実家は鬱陶しいぐらいだけれど……このぐらいだと、良い」

 と言った。

「私はじゅんちゃんの実家行ってみたいわ。雪ってどんな風であっても必ずきれいでしょう」

「見飽きてしまうよ」

「そういうものかしら。でも、じゅんちゃん、あなたのその目は飽きるまできれいな景色を見られたのね。羨ましい……」

 私は手を拭いてケーキの前に腰を下ろした。手を合わせて、フォークを手に取り、三角の先をその上に乗せた。

「だからあなたの目はそんなにきれいなのね」

 彼女もケーキを食べ始める。

「私の目がきれいなのはそんな理由じゃないよ」

「あら、うつくしいのは認めるのね」

 彼女は笑った。

「認めるよ。それには自信がある」

「言うじゃない」

「ゆきを愛しているから」

「もう、何よ急に。キザは流行らないわよ」

「ほんとうだよ。きれいなゆきを見ているから、目がその美貌を享受して、私の目は美しくなる。違う?」

 ゆきは自分のフォークに乗せたケーキを私の口に押し込んだ。

「ずるい言い分……。それを言うなら私だってよ。きれいな目をしたじゅんちゃんを一番近くで見ているのは私なんだから、私のだってきれいなはずよ」

 彼女は私の口に着いたクリームを、細い指で拭き取った。

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