雪が綺麗ですね
赤堀ユウスケ
第1話
口から雪を吐いてしまいました。どうしましょう。学校で。授業中に。ついに吐いてしまいましたわ。単純に胃から逆流したそれの比喩ではございません。雪そのものです。ええ、雪といって皆が想像する、あの、雪です。今は夏でありますから、口から出るとすぐに溶けてしまって、私の机や教科書は水浸しです。ああ、どうしましょう。助けてください。
私は今、保健室におります。ひどく青褪めた様子で先生は私を見るのです。ああ、あなた、ひどいわ、とてもひどい。顔が半分凍っているじゃない。どうしたらいいのかしら。何という奇病なの? と、言われましても、私にはわかりません。私のこの症状は、他でもない、姉さんが知っているみたいです。
もうすぐあなたは冬になってしまうかもしれないから、気をつけなさい。と、言われたことがあります。私は冬になってしまうのかしら、姉さん。お答えになって。とりあえず、ベッドが空いているから、そこで休みなさいと言われました。私は素直に従います。姉さん、助けてください。姉さんなら、どうしてこうなってしまっているのか、わかるのでしょう。
段々と指先が凍てついてまいりました。本当に、指先に氷が纏わりついているようで、ひどく不愉快です。足だって、動くのかしら。私の体はいつまで持つのかしら。お家へ帰れるかしら、姉さん……。姉さん、姉さんと心で呼び続けていると、脇の椅子に姉さんの姿が見えました。幻覚かしら、私もうだめなんだわ。とすると姉さんが口を開きました。
「苦しい?」
私は言いました。
「ええ」
姉さんの表情はよく見えませんでした。
「大丈夫よ。すぐに楽になれる。大丈夫」
「ほんとう?」
「ほんとうよ、ほんとう……。ほんとうにね。私と一緒になるの。だから大丈夫よ」
姉さんは私の頬に手を添えてくれました。あたたかい。このために生きているのだと思いました。姉さんは私の顔を覗き込みました。姉さんの表情はよく見えませんでした。
もうほとんど動かない私の体に覆いかぶさるようにして、姉さんは私にキスをしました。そして、またね、と言いました。私は何の返事も出来やしませんでした。もう私は死んでしまったんだわ。…………
そう思ったのですが、朦朧とした意識の中、どうしてだか私は歩いて、鏡の前におりました。
そして鏡には、他でもない、姉さんが写っておりました。
雪が綺麗ですね 赤堀ユウスケ @ShijiKsD
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