2日目:夢の中
実家のマンションから少し離れたところにある遊歩道。そこの階段が、僕とお姉ちゃんの居場所だった。そこに行けばお姉ちゃんがいると思って、毎日行ってはお姉ちゃんと話をしたり遊んだりしていた。
目の前のお姉ちゃんの顔に、陰りが見える。日が傾いてきているからだとは、僕には思えなかった。
「お姉ちゃんね、もう限界かもしれない」
彼女がぽつりと、雫が垂れるように言った。いつもの強く感じる笑みがなく、ただぼんやりと階段の下に広がる遊歩道を眺めている。その姿に、胸が締め付けられた。お姉ちゃんはいつも、僕に優しくしてくれる。励ましてくれるし、勇気もくれる。
そんな人が家で受けている仕打ちを、僕は知っている。
「ねえ凪くん、凪くんはまだ頑張れそう?」
「んー、どうかな」
「もし耐えきれなくなったら、私と一緒に逃げない?」
お姉ちゃんが僕を見た。その目がひどく虚ろに見えて、僕の目が見開かれていく。心臓がますます強く締め付けられるようで、思わず息を止めてしまいそうだった。
「うん、そうだね。一緒に逃げよう」
「じゃあ、私ももう少しだけ、頑張ってみようかな」
「……お姉ちゃん、こっち来て」
僕は膝をぽんぽんと叩く。僕の顔と膝を何度も見比べている彼女の頭を引き寄せて、膝に乗せた。僕の膝で、お姉ちゃんが肩を震わせている。その震えが足に伝わってきて、彼女の心までも伝わるようだった。頭を撫でると、湿った息が漏れてくる。
「辛いときは泣こうよ。膝も胸もお姉ちゃんのためにずっと空けておくからさ」
「……どこでそんなセリフ覚えたの?」
「今考えた」
「ふふ……ありがとう」
彼女の声は吐息混じりで、時折鼻をすするような音が聞こえた。顔は見えないけれど、膝に湿り気を感じるから、どういう顔をしているかわかる。お姉ちゃんの鼻すすりが収まるまで、僕は頭を撫で続けた。
だけど結局、一週間後、彼女はいなくなった。耐えきれなくなったんだろうということが、わかってしまった。一緒に逃げようと言っていたのに、自分だけで行ってしまうほど、お姉ちゃんはもう既に限界を超えていたんだと気づいて、僕は人知れず無力感に打ちひしがれた。
だからせめて僕は、どんな状況でも耐えてみせると誓った。もう一度彼女に会えたのなら、もっとちゃんとお姉ちゃんの心を受け止めきれるように。
その器が、僕は欲しかった。
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