最強のスーパーカーはご主人様を乗せて異世界でスローライフを満喫する〜異世界転移は愛車とともに。このエンジン音、高級感、シザーズドア、最高じゃね?〜

神伊 咲児

第1話 異世界転移は愛車とともに

 死んだかもしれない。


 いや。多分。

 きっとそう。


 僕は死んだんだ。


 だって、あんなに派手な事故があったんだからさ。




 それは、僕の愛車を修理した帰り道で起こった──。


 僕の愛車は中古の軽自動車だ。

 黄色と黒のさ。SUV(スポーツ多目的車)。どこか可愛くて、さりげなくカッコ良い。そんな車。

 

 店では売れ残りだったんだけど、一目惚れで購入したんだ。

 あちこち壊れてて購入した時は困ったな。走ってはエンストの嵐だもん。

 仕方がないので修理しまくって、今では軽快に走ってくれる。おかげで必要以上に愛着が湧いてしまったよ。


 あ、そうそう。

 僕の名前は中嶋 世那火せなか

 27歳。会社員。

 年齢イコール彼女いない歴。

 まぁ、悲しい童貞さ。


 そんな男が、初めて車を買ったんだ。

 たとえ中古だったとしてもさ。ウキウキだよね。


 

 そんな愛車と出かけた時のことなんだけど──。

 

 愛車のエアコンが調子が悪かったから修理して、その帰り道。


 車屋はサービスしてワイパーのゴムを変えてくれたんだ。

 ふふ。サービスっていいよね。また、その店を利用したくなる。

 

 それは信号待ちだった。

 お気に入りのアニソンを流してさ。良い気分だったんだけどね。


 対向車の大型トラックが僕の車に向かってきたんだ。


プアーーーーーーーーッ!!


 いやいや。

 こっちは完全に止まってますってば。

 案の定、トラックは激突。


ドカーーーーーーーーーーンッ!!


 ハンドルからはエアバックがボシュッ! と出てさ。

 僕の顔が「ホゲェッ!」って押しつぶされたと思ったら。


ドンガラガッシャーーーーンッ!!


 いやいや。

 激しいって。

 もうなにがなにやら。

 僕の体は5回転以上はしたと思う。

 もちろん、シートベルトはしていたさ。

 だから、座席ごとね。何回転もグルグルと。


 んでさ。

 フロントガラスがバリーンて大破してね。


「うぎゃにりゃぁああああ!」


 って、わけのわかない叫び声でさ。

 相手のトラックかな? どの部分かはわからない。

 とにかく、デカくて硬い鉄の塊が僕の顔にズドーーンだよ。


 いや、これ絶対に死ぬやつじゃん。即死確定。


 ついてない、とかいうレベルじゃないって。


 悲惨。


 そう、悲惨すぎる事故だったんだ。


 僕がなにをしたっていうんだよ?

 交通ルールを守ってさ。信号待ちしてただけだよ。

 自慢ではないが、僕はゴールド免許なんだ。操と同じで傷一つついてない。


 痛いし怖いし、もう、わけわからんって。

 

 んで。

 今は真っ暗闇。


 寝てるのか?

 あの世なのか?

 よくわからないけどね。


 とにかく真っ暗。


 だから、死んだって確信しているんだ。


「………!! ……!!」


 はい?

 なんか人の声が聞こえる。

 えーーと、目が開くかな?


 ゆっくりと……。


 あ、なんか眩しいな。

 ここどこだろう?

 

 そこは一面が真っ白な雲の上。


 ああ、やっぱり死んだのか。


「ごめんなさーーーーい!! 本当に申し訳ありませんでしたーー!!」


 見ると、コスプレをした女の子が僕の前で土下座している。


 はて?


「えーーと。君は?」


「私は運命の女神。ヌラと申します」


 う、運命の……女神?

 僕より若い……十代の美少女。

 しかし、そんな神様が僕の前で土下座とは??


「実は……。あなたは死ぬ運命じゃなかったのです」


 おお。

 衝撃の事実。


 聞けば、僕にぶつかったトラックの運転手だけが死ぬ予定だったんだとか。

 僕は90歳以上は生きるらしい。

 いや、今27歳なのにさ……。彼女もできてないし……。


「で、僕は死んだの?」


「はいーーーー! 申し訳ありません!! ちょっとした手違いなんですぅうううううう!」


 いや、手違いって……酷い。

 さしずめ、彼女はドジっ子女神か……。


「お詫びといってはなんですが、別の世界で生き返らせますのでそれでお許しくださいませ」


「いや。元の世界で生き返らせてよ」


「そ、それがぁ〜〜。できるといえば、できるのですがぁ……、なにぶん色々とありましてぇ……ごにょごにょ」


「歯切れが悪いなぁ」


「だってぇ……。すごい事故だったでしょ?」


「うん。とんでもない大事故だった。あれは大怪我じゃ済まないよね。肉片が残っているかも不安だよ」


「そ、そうなんですよね。あなたの体はグチャグチャになってしまいました」


「そんなに酷いの?」


「はい。骨まで粉砕されました」


「そんなに!?」


「遺体では本人特定ができないレベルです」


「歯の形とかで本人特定くらいできるでしょ?」


「歯は飛び散って粉々です」


「いや。酷すぎるだろ!」


「そんな状態で蘇らせたらとんでもないことになりますよ」


「た、たしかに」


 全世界で話題になりそうだな。粉々の死体からの復活……。完全にホラーだ。


「もちろん記憶は消しますので、蘇った結果だけが残ります」


「いやいやパニックだよ! それに記憶を消されるのは困る」


 それにそもそも、僕が死んだのは彼女の責任なのであって……。


「えーーと、ヌラさんだっけ? 僕が復活するのに記憶を消すのはやめて欲しいよ」


「うう……。な、なら、やっぱり別の世界で復活をお願いしたいのです」


 やれやれ。

 ……待てよ?

 トラックに轢かれて、異世界で復活……。

 このパターンって。


「異世界転生……。いや転移かな?」


世那火せなかさんをそのまま復活させますからね。転移です」


「すごいな。ラノベやアニメで観た王道パターンだ」


「偶然にそんなことになってしまいました。本当に申し訳ありません」


「その異世界って、魔法があってモンスターがいるのかな?」


「ええ。もちろんです。地球とは縁もゆかりもありません」


 もちろんといわれてもな……。


「それでは世那火せなかさんの転移を開始いたします。ご安心ください。記憶はそのまま残しますからね」


「あ! ちょ、ちょっと待ってよ! 地球とは違う異世界でどうやって生きればいいんだってば!」


「……では、絶対に病気にならない健康な体をサービスいたします」


 サービスか。サービスは嬉しい。

 サービスといえば、ワイパーのゴムを替えたばかりの愛車。


「僕の車はどうなっているのかな?」


「鉄屑と化しております。車の「くの字」すら見当たりません。ゴミです」


「言い方なんとかならんか?」


 しかし、なんだかな……。

 修理したばっかりなのに……。


「あのさ。その異世界って。僕の愛車も行けないのかな?」


「承知しました。ではご一緒に復活させましょう」


「え!? で、できるの?」


 ガソリンとかどうなってんだろう??


「それでは異世界転移を」


「ちょ、ちょ、早いってば! もっと、便利な力が欲しいよ! 地球じゃない世界なんでしょ??」


「たとえば?」


「たとえばって……」


 えーーと、こういう場合は……。

 

「超人的な力とかさ」


「承知しました。付与しましょう」


「できるの!?」


「はい。では、時間がありません。転移を開始します」


 時間がない??


「やけに急ぐんだね?」


「死者の復活は世界の調律を乱す行為なのです。上級神に見つかればただでは済みません。なので、早い方がいいのです」


 神様は階級制なのか……。

 上級神というのは、つまり、彼女の上司だな。

 ミスが発覚すれば上司に叱られるわけか。

 でも……。


「それって、君のミスでしょ?」


「……………」


「まさか、上司に自分のミスを隠したいのか?」


「…………………………………………では、転移を開始します」


「おい!」


「ご安心ください。あなたには病気にならない健康な肉体を。そして、愛車を復活して超人的な力を授けますので」


 え?


「き、聞き間違いかな? 超人的な力は僕に──」


「では。転移開始です」


「ちょっと!」


 僕は光に包まれた。

 最後に聞こえたのは彼女の声。


「本当に……ごめんなさい」


 やれやれ。

 困ったドジっ子だなぁ。


 気がつくと森の中だった。

 青臭い草木の匂いと、湿った土の匂い。

 確実に生を実感する。僕は生き返ったんだ。


 持ち物はなにもない。

 でも、事故の時に着ていた黄色いパーカーはそのまま。

 鏡はないが、手や体を見ればわかる。僕は中嶋 世那火せなかだ。


「ここはどこだろう?」


 と、辺りを見渡すと、


「えええええ!?」


 僕の横には立派な車が停車していた。


「ふはーー。すげぇえ……」


 それは真っ赤なスーパーカーだった。

 ピカピカのボディ。低い車体……シザーズドア。


「す、すげぇ……。何千万円もするような高級車だよ」


 僕には絶対に縁がない車だよな。

 年収330万円の社畜サラリーマンには絶対に乗れない車。

 それがスーパーカーだ。男の憧れ。夢の車だよ。


 それにしてもおかしいな?

 ヌラは僕の軽自動車も復活させると約束してくれたんだけど?


 突然。

 スーパーカーはエンジンがかかる。


ギュルン……! ドドドドドドドドドドドド……!


 ぬお!


「す、すごいエンジン音……。カッコ良いなぁ……」


 この胸に伝わるドドドという振動。一般車とは別格だな。

 なんていうか上品で、雑味がないというか……。

 くぅうう! 痺れる! やっぱり良い!!


 運転手は見えないけど……。遠隔かな?


『私の名前はアーサー』


 え!? 男の声!?


「喋った!?」


『はい。私は人の言語を話すことができるのです』


「へぇ……。最新の車ってすごいんだな」


『女神ヌラが私に力を与えてくれました』


「え……?」


主人マスターの願いを叶えてくれたのです』


「え!? え!?」


『私は 主人マスターに買っていただいた中古の軽自動車だったのです。それが、 主人マスターの願い。『超人的な力』によって見た目を変えて復活をしたということです』


「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」


 つ、つまり……。

 このスーパーカーは僕の車ということなのか!?



────

コンテスト用の5万字程度の中編物語です。

完結保証済み。全17話。

面白ければ星の評価をお願いいたします。

よろしくお願いします。

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