月光が暴く影

@koya023

第1話

 ウェッジ・ロッジの町へ買い物に出かけた帰り道での話だ。その日の天気は最悪。遠い場所で、ゴロゴロなったと思ったら爆音だ。町からの道はぬかるんで決して足元がいいわけじゃない。この道は年間何人も行方不明者が出ていると言った噂があり地元民でも滅多に使わないらしい。だが、早朝の仕事に間に合わせるため、私はしぶしぶその道を選ぶしかなかったのさ。道なりに進んで、しばらくすると何かに追われていることを感じ取った。勘がさえていて運も良かった。近くにあった廃屋で身を隠すことにしたんだ。しばらくすれば奴さんも諦めると思ってね。

 雷光が割れたステンドグラスを通過し壁に設置された十字架を照らした。どうやらこの廃屋は教会らしい。朽ちた長椅子や欠けた燭台が散乱したホールは長い間、人が寄り付いていないことを容易に想像させた。しばらく身を潜めていると崩れた天井から滴り落ちていた雨粒が消え月光がさしこんでいた。

 それは唐突のことだった。ホール端の扉がギイと音を立てたんだ。私を追っていた奴が扉を開けたのだろう。侵入者に興味が沸き、どんな奴か一目見てやろうと思って扉に視線を向けたんだ。ちょうど月光がスポットライトの様に侵入者を照らしていたからね。驚いたね。月光が暴いた正体は人間と動物を無理やり縫い付けた怪物で姿形を馬に乗る騎士に似せた悪趣味極まりないモノだったんだ。その怪物が一歩進むたび鳴り響く蹄の音に加え、力なく揺れる怪物の手に握りしめている錆びた剣と床の擦れあう音に恐怖を覚えたんだ。私はというと恐怖に怯えその場に釘付けになっていた。ガチガチ歯を鳴らしみっともなく失禁した私は縋るように周囲を探り、燭台を探り当てた。そして何を思ったのか私は燭台をあろうことか怪物めがけて投げてしまった。ここで私は急に冷静なったね。「なんて馬鹿なことをしたんだ。せめて燭台の針で自害すべきだった」なんて思ってしまったんだ。

 だがね。そんな私を待っていたのは、思いもよらない結末だった。なんと怪物は投げられた燭台に向かい握りしめた剣を振るったんだ。投げられた燭台を切ろうとしたその剣は、吊り下げられた照明ごと切り落としてしまったんだ。哀れな怪物は押しつぶされた。なぜ怪物は燭台を攻撃しようとしたのかは分からない。だが確かに剣を振るったのだ。照明に押しつぶされた怪物は起き上がろうと藻掻いていた。

 私はというとこの幸運を逃すまいと重い体を引きずって、教会から麓の村まで必死に走った。そのかいもあって逃げ切ることが出来たんだ。早朝の仕事には手が付かなかったけどね。怪物の目的は分からない。でも今でも覚えている。ふと振り返った私を品定めをするかの如く、虚ろな目で見ていたことを。

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