3-3 小説作法
「……そうだったのね。あんずちゃんのスタートラインは『聞き書き』なのね」
私は頷いた。
「私、すごく書くことが楽しかったんです。その時は。今は辛いばっかりで……」
私は心中を告白した。あの夏のキャンプ場の記事のときは、あんなに楽しかったのに、いま自室で原稿用紙に書くときには、苦しいだけなのである。
「いま、何のテーマで書いているの?」圭子さんが聞いた。
「……テーマですか。漠然としていて……。正直、テーマは余り決めていないんです」
圭子さんが口を開いた。
「まずはテーマをきちんと決めてから、書いてみてはどうかしら」
「そうですね。やってみます」
テーマか……。私は唸った。
「いま、あんずちゃんが一番気になることを教えて」
圭子叔母さんが尋ねてきた。
「はい。えーと、『文学が人生を変えていく、その力強さ』だと思います」と私。
「なかなか良いテーマじゃない。でも、もっと具体的に出来そうね。主人公はどんな人なのかしら?」
「主人公は、えーと、中学生か高校生位の年齢だと思います。私よりも、少し若い感じです」
「そうなのね。それをどう書くか、まず、レポート用紙に今の言葉を書き出してみて」
私は頷いて、レポート用紙に書きはじめた。
まず、「人生を変えてしまう小説」と書いた。次いで、「主人公は高校生」と記した。
「書くと、頭の中が整理されて、複雑なことがスッキリするのよ」
圭子さんの言葉は、自信に満ちて力強かった。いつもより、圭子さんが素敵に見えた。
「もっと具体的に。主人公は男の子? それとも女の子?」
「……女の子にしたいと思います。名前は『静川ミリ』」
私と圭子さんはそんな調子で、レポート用紙に登場人物の名前と年齢、そして性格を書いていった。
「なかなか良く出来たじゃない」
「圭子さんのおかげです」
私は二枚のレポート用紙を優しく見つめた。この物語は、今にも動き出しそうだった。私は天啓を得て、心の底から嬉しかった。
「この調子で、頑張って書いてみてね」
「圭子さん、本当に有難うございました」
私はその日、もう一度物語のつくり手となることを心に決めた。小説を書くことが、素晴らしく楽しいこだと初めて思ったのである。
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